中国とカナダの合作アニメーション映画『ネクスト ロボ』がNetflixにて9月7日より独占配信されている。孤独な少女とロボットの友情と成長を描いたこの作品は、家族で楽しめるハートフルなドラマでありながら、迫力あるアクションもふんだんに盛り込まれた作品だ。


執事のようなロボットが身の回りの世話をしてくれる近未来、父が家を出ていき、母と愛犬と暮らす13歳の少女メイはロボットだらけの世界に馴染めずにいる。
ある日彼女は、密かに開発された戦闘用ロボット「7723」と出会う。ロボット嫌いなメイだったが、7723の強さを利用し、いじめっ子の同級生に仕返しをしたり、ロボットだらけの世間にいたずらをしたりするようになる。
次第に7723とメイは心を通わせていくが、7723は故障のため記憶容量に限界があった。7723はメイとの思い出を優先するために武器の機能を捨てていくが、やがてメイの家族に大きな危機が訪れ、7723は大きな決断を迫られる――。

フル3DCGで作られた本作の製作は中国のBaozou、CGアニメーション製はカナダのタンジェント・アニメーションとハウス・オブ・クールが手がけている。
監督は『ヘラクレス』や『ファンタジア2000』のケビン・アダムスと『ナイト ミュージアム』『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』のVFXを担当したジョー・ケイサイダーが共同で務めている。

今回は、本作でLead VFXを担当した日本人3Dクリエイター、So Ishigaki氏にインタビューを行い、本作について話を聞いた。

Ishigaki氏はデジタルハリウッドで3を学び、卒業後に日本で3D演出の仕事に携わった後、カナダに移住。アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『ラストスタンド』などの実写映画のCGを担当した後、タンジェント・アニメーションに入社。『ドッグス! ~オジーの大冒険~』などの3DアニメーションでVFXを担当している。

So Ishigaki氏
Netflixオリジナル映画「ネクスト ロボ」

全世界190ヵ国独占配信中
マクロスを意識した数々のエフェクト

――Ishigakiさんは本作でどんな役割を担ったのでしょうか。


Ishigaki
僕はLead VFXというポジションだったのですが、新たにVFXチームに入ってきた人にソフトウェアの使い方を指示したりとか、実際のエフェクトを作る前にテンプレートを作成したりしています。ひと通り設定を作って、それをチームのみんなに使ってもらってエフェクトを実際に作ってもらっていくのが仕事です。
主に爆発や煙、ミサイルなどのシミュレーションが必要なエフェクトを担当しましたが、監督のイメージをどう具現化していくのか、ソフトウェアは何を使うべきか等の基礎研究も僕の仕事でした。

アートディレクターからのVFXデパートメントに対するプラズマガンの参考イメージ。「このイメージを基にどのような方法(技術、ツール)を用いて作成するか等の基礎的なところから始めました」(Ishigaki)

――監督のおふたりからは『ネクスト ロボ』をどんなテイストの作品にしたいという話がありましたか。

Ishigaki
これは主人公のメイとロボットの7723がともに成長していく話で、ピクサーやドリームワークスのようなフォトリアルな作風でいくことは決まっていました。


でも、監督のふたりが日本のアニメが大好きで、僕が担当した爆発などのエフェクトに関しては、資料として見せられたのが80年代の初代マクロスのTVシリーズ(『超時空要塞マクロス』)だったんです。
ミサイルのトレイル(軌跡)が何十本も伸びて、そこら中で爆発が起きるエフェクトなどをやりたいとのことで、これは難しいな、どうやってやろうかなと思いましたね。

――日本の手描きアニメのテイストを取り入れたいという意向だったのでしょうか。

Ishigaki
そうですね。ただ全体はフォトリアルな作風なので、爆発などもある程度物理的に正しくないと、他の要素との兼ね合いでレンダリングが上手くいかないんです。
なので、なかなか難しい面もありましたけど、VFX全体に関しては監督たちのイメージにかなり近づけたと思います。


――監督のおふたりは日本のアニメが相当お好きなんですね。

Ishigaki
ええ。僕も知らないような作品を参照として出してくる時もありました。
『AKIRA』を意識した部分もあるみたいですし、とにかく『マクロス』の名前はよく出ましたね。ジョー・ケイサンダーは『パシフィック・リム』にもスタッフとして参加しているぐらいですから、やはり日本のアニメ好きなんだと思います。

動きのメリハリ(中割り)で動きに命を持たせる
――爆発や煙のエフェクト以外でも日本のアニメを参照した点はありますか。


Ishigaki
たくさんあります。7723のビームやバックパックから噴出される青いスラスターも日本アニメっぽく描いています。
もちろん、ミサイルのトレイルもかなり意識しています。エフェクトのタイミングを日本のアニメっぽくという要望だったので、それをフォトリアルでやるというのが目標でした。

――あえて日本のリミテッドアニメーションのようなタメやツメを意識したということですね。

Ishigaki
そうですね。
監督たちは動きに命を持たせたいとよく言っていました。それをシミュレーションでやるのは本当に難しかったです。シミュレーションだと結局1フレームごとに手で描けませんから。
動きにメリハリをつけるのが一番大事なポイントで、爆発に関してもただヌーっと広げるのではなく、最初は早くて後半は遅くなるというように動きのメリハリをつけて、爆発の最初にすごい力が働いているという表現ができるよう目指しました。

――手描きの作画でいう中割りみたいなことですね。

Ishigaki
はい。1から100みたいに連番のデータの間をわざと抜いたりしました。

――今回のように日本アニメを意識して作ると手間はどれくらい変わるものなのですか。

Ishigaki
1回手法を確立させてしまえばその後はそこまで苦労しないのですが、そこにたどり着くまでがすごく大変でした。仕様書なんてありませんから、全て手探りでやり方を見つけていかないといけないので。
最初の2ヶ月の基礎研究段階を過ぎて、それ以降も作りながら試行錯誤していきましたね。

本作はエフェクトの数がすごく多くて、全てを1からシミュレートすると間に合わないので、エフェクトをライブラリ化して、それを効果的に使っていくようにしました。爆発などのエフェクトをカタログ化するような感じですね。
強弱やタイミングの違うものなど種類をたくさん作っておいて、このシーンではこれを使おうと監督たちに選んでもらう形で進めていきました。

――日本的なエフェクトを作る上で、やはり日本人であるIshigakiさんの存在は大きかったのかなと思っているのですが、どうなのでしょうか。

Ishigaki
どうでしょう(笑)。でも監督の他にもアートディレクターのリチャード・チェンもすごく日本のアニメが好きで彼の影響も強いと思いますね。
上の方のディレクションレベルではなく、僕は現場で、どうすれば日本のアニメのテイストが出せるかを考えるのが仕事でした。

――世界的に主流のフォトリアルなフル3DCG作品でありながら、日本のセルアニメのセンスを取り入れて、不思議な感触の作品に仕上がりましたね。そこも本作の魅力のひとつだと思います。

Ishigaki
ありがとうございます。まさにそれが僕らの目指したものなので嬉しいですね。

――日本のアニメ業界は手描きとCGのハイブリッドの方向の模索が続いています。世界的にフル3DCGのアニメーションが主流になるなかで、この動きについてIshigakiさんはどう思われますか。

Ishigaki
僕は大正解だと思います。動かない背景とか、ロボットとかは一度モデリングしてしまえば何回でも使えるので、あとはセルシェーディングでセルっぽく合わせていけばいいので効率的ですよね。そこで効率化できればその分他にリソースが割けるので全体のクオリティも上がるでしょうから賢いやり方だと思います。

――Ishigakiさんは、手描きとCGのハイブリッドのお仕事の経験はあるのでしょうか。

Ishigaki
ないです。僕がカナダで仕事を始めた時にはもうフル3DCGが主流でしたから。カナダでそういう作品を作っているプロダクションはほとんどありませんけど、一度やってみたいですね。

――カナダにおける、日本のアニメの評価はどういうものなのでしょうか。

Ishigaki
やはり日本のアニメは傑作が多いですし、すごく高く評価されていますよ。こちらのカートゥーンとは明らかに違うよねという感じで。うちはアニメーションのスタジオですから、詳しい人は本当に多いですね。

見どころはハイウェイのチェイスとスタジアムのバトル

――本作で、特に難しかったシーンはどこですか。

Ishigaki
一番難しかったのは、冒頭の方のハイウェイでのチェイスシーンですね。初めて7723が武器を使って大がかりなアクションが起きるシーンですが、このシーンを一番始めに手がけたので試行錯誤したという意味でもすごく大変でしたね。エフェクトのイメージを監督と詰めるために何度もやり直ししました。

――最後に、これから作品をご覧になる方に向けて、映画のポイント、エフェクトで特にここは観てほしいというシーンがあればお願いします。

Ishigaki
スタジアムでのバトルですね。あそこはかなり力が入っています。あとメイの家で7723と大きなロボットが戦う大きなアクションシーンがあるんですが、そこも面白くできたと思います。
一般的な3Dアニメーションよりエフェクトの数がすごく多いので、アクションシーンはすごく興奮できるものになったと思いますので、ぜひ楽しんでいただけたらと思います。