イチゴだったら、「とちおとめ」「さがほのか」「あきひめ」「紅ほっぺ」「あまおう」などなど、新しい品種がどんどん作られている(コネタ既出)。

また、梨は、かつては「二十世紀」が圧倒的な地位を確立していたものの、近年は「幸水」「豊水」が人気を集めている。

りんごも、「ふじ」人気が長く続いているとはいえ、お菓子などには「紅玉」や「ジョナゴールド」が使われることが多いし、「ふじ」と「つがる」を交配させた「シナノスイート」、「ゴールデンデリシャス」に「千秋」を交配させた「シナノゴールド」がつくられたりしているし……。

にもかかわらず、さくらんぼはどうか。今も昔も、常に「佐藤錦」一人勝ち状態ではないか。

佐藤錦は、大正時代に、佐藤栄助が黄玉とナポレオンをかけあわせてつくった品種。「砂糖のように甘い」という意味も込めて付けられた名前だそうだが、なぜソレに取って代わる品種がいまだにあらわれないのか。
「全国さくらんぼ普及会」升本清さんに聞いた。


「さくらんぼにも、新しい品種はかなり出ていて、50~60種くらいはあるんじゃないでしょうか。価格的には、同じく山形産の『紅秀峰』のほうが上をいくこともあります。でも、結局、佐藤錦を超えられるものが出ないというのがまずひとつ。それから、他の果樹に比べ、産地が増えないということがあるんですよ」
「さくらんぼ=山形県」というイメージは強いが、実際には山形県内でもごく一部でしかならないというのが現実。そんななか、せっかく育った佐藤錦が枯れてしまわない限り、別の新しい品種を植えようということにはならないのだそうだ。

それにしても、なぜ山形のごく一部でしかならないのか。
さくらんぼを育てるのは、そんなにも難しいということ?
「まず暖かい場所ではダメで、山形では『7.2℃以下が1400時間必要』として、低温要求時間の説を挙げています。でも、いちばん大切なのは、実は『痩せた土地が向く』ということなんですよ」
と、升本さん。
本来さくらんぼは、石や砂利がゴロゴロしているような場所でこそ「実」がつくのだと説明する。
「肥沃な土地では、そこを木が気に入ってしまって、すくすく伸びるけど、子孫を残そうとは思わなくなります。とはいえ、そのままでは木が育たないので、たっぷりと肥料や栄養を入れてあげる必要がある。また、さくらんぼには雨除けハウスが必要なんですが、肥沃な土地では雨除けをつき破って大きくなりすぎるなどの問題もあるんですよ」
つまり、もともと恵まれた土壌でぬくぬく……ではなく、厳しい状況下で危機感を感じさせつつも、たくさん手をかけてあげて、実をつけさせるという方法だ。

獅子がわが子を谷底に落とす感じでしょうか。

難しいさくらんぼ栽培、まだまだ「佐藤錦」の天下は続きそうです。
(田幸和歌子)