気がつけば朝夕と冷え始め、そろそろあたたかいお茶が恋しい季節になってきた。

家にちょっといいお茶があるなら、普通に飲むのではなく、“すすり茶”と言う飲み方を試してみてはいかがだろうか。


まず用意するのはできるだけ高級な玉露。それを蓋付きの湯飲みに5グラムほど入れ、少し冷ましたお湯を注ぎ込む。
その後、湯飲みに乗せた蓋をちょっとずらして茶葉が口に入り込まないよう蓋と湯飲みの隙間からお茶を飲むのが、すすり茶の作法だ。
飲み方が飲み方だけにちょっとずつしか飲めないが、その分ゆっくり楽しむことができそう。

専用茶器も販売されているものの、普通の湯飲みでも大丈夫。蓋が無いと言うのなら、茶葉を避けつつ直飲みすれば問題無し。
意外に自由の利く飲み方だ。

まずはお茶と和菓子などでゆっくりと、1杯だけでなく2杯3杯と飲むうちにお茶の味が薄くなる。普通ならここで茶殻を捨ててしまうのだが、すすり茶はまだ終わらない。
残った茶殻にポン酢とかつお節やアラレを少々。茶殻に? と驚くが、これが実は、相性ピッタリ。
ふやかされた葉は柔らかく、まるで春野菜のような食感だ。
和え物として料理に登場しても違和感の無い味で、最後まで美味しく味わえる。

お茶と言えば作法が厳しいイメージがあるが、このすすり茶はおもてなしやお茶会などではなく気軽に家などでも飲むことができるとか。
もちろんお茶の栄養を丸ごと食べられるため健康に良し、さらに味も良し、その上ゴミもでないので環境にも良し。という理に適った作法だった。

それにしてもいったいこの飲み方、どこで生まれたのか。
京都ですすり茶の飲み方を提唱している舞妓の茶本舗さんに伺ってみたところ、これは福岡県の八女(やめ)で考案された飲み方だそう。

八女では「お茶のしずくを味わう」と言う意味合いから“しずく茶”と呼ばれ、京都ではお茶をすするように飲む意味から”すすり茶”と呼ばれているとか。
しかし、お茶の中でも玉露は高い。安い煎茶でもできないか聞いてみたが、すすり茶には玉露かもしくは高級な煎茶がおすすめと言う。

そもそも玉露とはお茶の葉に日差しを当てないよう覆いをして、まさに乳母日傘と丁寧に育てられたもの。
日光をサンサンと浴びせ元気いっぱいに育てられる煎茶と違い、手間をかけた玉露の葉は柔らかい。あのフワフワとした食感は、玉露ならではの持ち味なのだとか。


そうと知れば今後、玉露を飲む時はもったいなくて茶殻を捨てることができなくなりそうだ。

何はともあれ美味しいお茶を飲むのは幸せな上、こんな風に時間をかけてゆっくり飲むことで気分もリラックスしそう。

秋の夜長や休日などにゆっくりと“すすり茶”を、楽しんでみては。
(のなかなおみ)