吉幾三の「恋」(松山千春)、五木ひろしが歌う「乾杯」(長渕剛)、それから菅原洋一の「TSUNAMI」(サザンオールスターズ)……<※( )はオリジナル歌手名>。

CDショップで何気なく手に取ったコンピレーションCD。
裏ジャケットに居並ぶ曲名ラインナップを見て、クラクラした。五木が長渕やイルカを歌い、ダークダックスがオフコースを歌い、松原のぶえがユーミンを歌っているのである。どんなことになってんの? 聴く前からこれほど期待に包まれるCD、なかなかお目にかかれません。

この『本命カヴァーソング』というアルバム、「R40’S SURE THINGS!!」という、アラフォー世代をターゲットにしたシリーズの1枚で、収録されているのは以下の9組17曲。

吉幾三「恋」「時代おくれ」、五木ひろし「乾杯」「なごり雪」「無縁坂」、鳥羽一郎「大阪で生まれた女」「愚か者」、天童よしみ「旅の宿」、ダークダックス「さよなら」「22才の別れ」、北原ミレイ「涙そうそう」「秋桜」、菅原洋一「TSUNAMI」、日野美歌「片思い」「いっそセレナーデ」、松原のぶえ「春よ、来い」「シングル・アゲイン」

……どうでしょう? 誰もが知ってる大物歌手による、誰もが知ってる名曲カバーだが、なぜこの人が、この曲を? という並び。細かいことだが、名前からして出身地イメージが強い鳥羽一郎が「大阪で生まれた女」を歌うというのがまた、気になる。


CDを入手し、早速聴いてみたところ、1曲目の吉幾三「恋」から早速やられた。「新日本ハウス」のCMの「♪住ンみなれたン、ン我が家のン」でもおなじみの、特徴的な歌い方の幾三のまま、千春の曲を歌いあげている。続く2曲目の五木ひろしもスゴい。ものまねでおなじみすぎる、あのビブラートたっぷりの五木唱法で「かたぁいぃきずなにぃぃ」と始まる。最後の「ああああ~、ああぁぁ、ぁれえぇぇぇ~~」のタメがまた、絶品だ。

流麗なピアノバラードになって、超「いい声」で歌い上げられる菅原洋一のサザン。
ダークダックスによるオフコースは、ボサノバ風のアレンジで、サビのコーラスの美しさは、さすが。ユーミンだって松原のぶえが歌えば情念たっぷりの世界へトリップだ。近年、カヴァーがブームではあるが、正直、カラオケを聞かされているようなものも多い。CD帯のコピーにも「カヴァーのレベルが違います!」とある通り、珍妙な取り合わせなようでいて、歌唱力や表現力にかかえてはそこらのJポップアーティストとは役者が違う。とにかくスゴい一枚だ。

発売元の徳間ジャパンの担当者に、このアルバムのきっかけを聞いてみると、
「吉幾三さんの『恋』を聴いて、すごいと思ったのが始まりです」
とのこと。
加えてカヴァーブームということも後押しした。ちなみに収録曲は、新録のものではなく、過去に発表されたものから集めて再構成されたもの。それで、フォークの名曲を演歌系の歌手がカヴァーしたものを探したということだが、
「けっこうフォーク系の曲を歌ってる方は多いんですよ」
と、隠れた一ジャンルでもあるようなのだ。

ある音楽系ライターはこう言う。
「演歌系の歌手のアルバムには、もともとヒット曲のカヴァーを入れることはそれほど珍しくはないんですよ。そんななか、今は演歌というくくりにとらわれずに、いい曲をカヴァーするという流れがあるんでしょうね」

実は発売されたのはちょっと前の5月なのだが、このジャンルの強みか、
「じわじわと売れていますね」(徳間ジャパン)

名曲の新たな魅力、発見できるかと思います。

(太田サトル)