ここ数年、言葉として世間的にもすっかり定着した感のある「朝活(あさかつ)」。「朝」に「活」動するから、「朝活」。
考えてみれば、朝に体操やジョギングをしたり、釣りや読書といった趣味に勤しむ人たちは、昔から数多く存在している。こういった活動というよりは、仕事や勉強、習い事などを朝に行うことを「朝活」と呼ぶ趣が強いようである。

この「朝活」、言葉としては定着したかもしれないが、実践という面では本当に定着しているのだろうか。不景気の世の中で、多くのビジネスマン、サラリーマンが夜遅くまでの労働を強いられている。そんな日本の社会で、朝早く起きて励む「朝活」が定着しているとは、にわかには信じがたい。「朝活」なんてやっているのは、時間やお金に余裕のある、一部のエリートだけなのでは? あるいは、マスコミが勝手に作り上げた、単なる一過性の“朝活ブーム”なのではないか?

そんな中、朝7時~9時までの2時間だけ開店するカフェが鎌倉にある、という情報を聞きつけた。
しかも、営業日は月~金の平日のみだとか。早朝からオープンしているカフェは珍しくないが、早朝限定、しかも平日限定オープンというのは、あまり聞いたことがない。これはもしや、「朝活」が繰り広げられている舞台なのでは……。早速、このカフェに取材を試みた。

お店の名前は、「3 CAFE」。鎌倉駅から徒歩1分の場所にあった(鎌倉市御成町8-41)。
朝7時。店の外にはお客さんの物と思われる自転車がすでに数台置かれている。やはり、「朝活」の現場がここにあるはずだ。きっと、高級スーツに身を包んだエリートサラリーマンや、世界を股に掛けて活躍する外国人ビジネスマンたちが、目は笑っていない営業スマイルで、なんだか良く分からない横文字を交えたトークを繰り広げているのだろう。と、店内に入ってみる。すると……。


明るすぎない、落ち着いた空間。そこに漂う、コーヒーのいい匂い。そして、なんとも柔らかい表情で会話を交わす、お客さんたち。いわゆる「朝活」のイメージとは、ずいぶん雰囲気が違う。ガツガツした感じも、ギスギスした感じもしない。敷居の高さなども、一切感じない。


「3 CAFE」オーナーの内野陽平さんが、取材に対応してくれた。このカフェは、平日の朝7時~9時限定のオープンとのことですが、何か理由があってのことでしょうか? 「単にコーヒーを出すだけの店ではなく、お客様の日常に何か変化をもたらすような、そのキッカケとなるようなカフェになれたら、との考えがあって、この営業スタイルを取ることにしました」と内野さん。
「オフに当たる土日や祝日よりも、仕事に忙しい平日こそが“日常”という方が大半ですよね。そんな日常に変化をもたらせる時間こそが、朝だと思うんです」

元々は夜型だったという内野さん。だが、語学などの勉強をしたい、その時間をつくりたいと考えたとき、日中の仕事で頭も体も疲れて、睡眠を欲求してしまう夜よりも、心身ともにフレッシュな朝の方が「学びの時間」には適していると思った。「それに、朝に学ぶと、そのあとに昼、夜と、学んだことを反芻する時間を持てるメリットもあるんです」と内野さん。
その考えが、「3 CAFE」の営業時間に反映されることになったという。

では、「3 CAFE」を訪れるお客さんも、やはり何かを勉強したり、学んだりして、自身の日常に変化をもたらそうとしている方が多いですか? 「多いですね。ただ、自分の活動ばかりを行うのではなく、顔見知りでないお客様同士で『おはようございます』『行ってらっしゃい』と声を掛け合い、笑顔や元気のキャッチボールをされているように見受けられます。そして、そのあとの仕事や学校で良いスタートが切れたなら、それこそが何より大きな“日常の変化”ではないでしょうか」

そんなお客さん同士の何気ない交流から、「3 CAFE」から新しいビジネスやアイデアが生まれることも多いという。「お客様同士で様々な会話を交わしているうちに、自然とビジネスが広がったり、新しい企画が出てくることも、度々見られます。朝は、皆さん頭の中もスッキリしているので、いろいろなアイデアが出やすいようです」と内野さん。


たとえば、「3 CAFE」のお客さん同士の会話から、「OTENTO SUNSUN project」という企画が生まれた。これは、鎌倉で朝から営業をしている飲食店やホテル、ゲストハウス、カルチャースクール、ヨガ教室など、多種多様な店が連携し、鎌倉の朝を盛り上げようという企画である。「3 CAFE」もこれに参加しており、内野さんは「日本では昔から『お天道様』と呼んで、太陽を生活の中心としてきました。日の出と共に起き、太陽と暮らすことで、毎日を豊かに過ごしてほしい。この企画には、そんな想いが込められています」と、主旨を話してくれた。

さらに内野さんは、「朝に活動することは、そもそも『朝活』などと定義付けて、流行したり、廃れたりするようなものではないのだと思います。生活スタイルも人それぞれですし、夜型が決して悪いわけでもありません。朝から動ける人が、無理のない範囲で動き出す。その朝に、ビジネスをしようが勉強や習い事をしようが、趣味や運動や食事を楽しもうが、何もせずにゆったりと過ごそうが、自由ですよね。どれが『朝活』で、どれが『朝活でない』のか、そんな区別は不要だと思います。大切なのは、朝の時間の使い方から、いかに気持ち良く一日をスタートできるかではないでしょうか」と続けてくれた。

「朝活」は、エリートだけの特別な活動などではない。朝に、自由に、楽しく実践すれば良いだけのものである。「早起きは三文の徳」とは良くいったもの。「朝活」なる言葉に捉われることなく、朝に起きて自分なりに有意義な時間を過ごす人がもっと増えれば、日本は今よりずっと、活気に満ちる気がする。
(木村吉貴/studio woofoo)