「東京駅の東北・上越新幹線などの折り返し時間はわずか12分。降車に2分、乗車に3分かかるので、清掃にさける時間はわずか7分しかありません。
その間に、車両清掃、トイレ掃除、ゴミ出し、座席カバーの交換、忘れ物のチェックなどを完璧に終える。それがテッセイの車両清掃チームの任務です」

新幹線の乗降時にお辞儀をして迎える集団に出会ったことはありませんか?

それは、JR東日本グループ会社の鉄道整備株式会社、通称“テッセイ(TESSEI)”の人たちだ。テッセイはJR東日本が運行する東北・上越などの新幹線の車両清掃、東京駅・上野駅の新幹線駅構内の清掃などを主な業務としている。

新幹線が停車しているわずか7分間で車内清掃をテキパキと、それでいて丁寧にこなすテッセイの仕事力。そんなテッセイについて書かれた書籍『新幹線お掃除の天使たち 「世界一の現場力」はどう生まれたか?』(遠藤功・著/あさ出版)が登場した。

テッセイの従業員は、正社員と「パートナー」と呼ばれるパート社員を含め約820名。
平均年齢は52歳! 女性比率は約5割。テッセイの「お掃除の天使たち」が1日に清掃を行う車両本数は約110本、車両数は約1300両。基本編成は1チーム22人で、多いときには各チームとも1日約20本の車両清掃を担当しているのだという。

車両清掃の仕事は、担当する新幹線の到着3分前にホームに整列して待機するところから。新幹線がホームに入ってくると一礼して出迎え、降車するお客さんに対しては「お疲れ様でした」とお辞儀をして声をかける。
お客さんが降車を終えると、車内に入り込み、忘れ物のチェックをし、座席の下や物入れにあるゴミを集め、座席の向きを進行方向に変えて、テーブルを拭いて、窓のブラインドを上げて、窓枠を拭く。
座席カバーが汚れていればそれも交換。トイレも7分で毎回清掃。
乗車を待っていたお客さんに対しては、「お待たせしました」とふたたびお辞儀をして声をかけ、次の持ち場へと移動していく……。

テッセイはその仕事ぶりのみではなく「おもてなし」の精神も注目されている。海外メディアで取り上げられたのをきっかけに国内メディアでも紹介され、海外からの視察・研修希望者も数多く訪れるという。

「たかが『掃除』されど『掃除』。
自分たちがお客様の『おもてなし』をするんだという意識の変化で、最強の現場力・チームワークを生み出したテッセイの数々のエピソードを通じて、我々が仕事をしていく上で気づくことがたくさん詰まっています」とあさ出版PR担当の井手さん。

本書では、JR東日本内でも決して評判がよくなかったという「普通」の清掃会社が、「清掃の会社」から「おもてなしの会社」へと進化していった軌跡が描かれている。

パート歴1年以上あれば自薦で正社員採用試験を受けられるように人事制度を変え、現場のリーダーや仲間たちがスタッフのよいところを褒める「エンジェル・レポート」という仕組みをつくり、現場のアイデアを採用する「場」を設けるなどして、職場の環境を整えることによって、現場スタッフの意識や行動が変わっていく様に感銘を受けた。

上記のお辞儀をはじめとして、社内教育用冊子の作成、コンコース内のベビー休憩室設置の働きかけ、制服だけではなく、季節感を演出したアロハシャツや浴衣などの着用、ハイビスカスの花を帽子に付けたワンポイントの飾り、オリジナルキャラクター「ちりとり」(@tesseichiritori)の誕生・グッズ制作なども、現場スタッフの発案から生まれたものだ。

本書では「エンジェル・レポート」で報告された現場スタッフとお客さんとの交流エピソードも取り上げられていて、心温まる内容となっている。

『新幹線お掃除の天使たち 「世界一の現場力」はどう生まれたか?』ではじめて知ったテッセイの魅力。
次に管轄内の新幹線を利用するときは、テッセイの仕事ぶりをじっくりみてみたい。
(dskiwt)