映画「となりのトトロ」で、4歳のメイがとうもろこしのことを「とうも『ころ』し」というシーンがある。このとうもころしは、映画のラストでちょっとした役割を担っていることもあり、映画を見た後に妙に心に残った人も多いかと思われる。


そのため、スーパーで「あ、とうも『ころ』しだ」と言っている子供を見かけると、「あの子もとなりのトトロ、見たんだな」と、勝手に微笑ましく思うものである。

先日、知り合いの家に遊びにいったときに、子供が「とうも『ころ』し」と言っていたのを見て、「となりのトトロ見たんだ」と聞いてみたところ、「いや、この子は見たことない」とのことであった。「とうもころしと言う=となりのトトロを見たことがある」という筆者の中での法則が崩れ去り、驚きを禁じ得なかった。このような「いい間違い」には、何か法則のようなものが隠されているのではないだろうか。「とうもころし」が持つ謎の力について、調べてみた。

「とうもころし」のようないい間違いは、専門的には「音位転換(音位転倒ともいう)」というらしい。
音位転換が起こる理由は様々だが、理由のひとつが調音の難しさ、があるそうだ。調音とは、「言語音を発音するため、舌や唇などの調音器官を動かし声道の形を変えることによって、気流に影響を与え、様々な種類の音声を作り出すことをいう」らしいのだが、平たくいうと、聴音が難しいとは、「舌が回りづらい」ということだ。

つまり、発音をする上で、「ろこ」という発音よりも、「ころ」という発音の方が簡単なので、そちらに引きずられて、「とうもころし」と言ってしまう場合があるということである。

「日本赤ちゃん学会」のホームページにおいて、静岡県立大学の寺尾氏が子供の音位転換について紹介をしている。これによると、「とうもろこし→とうもころし」は「おかたづけ→おたかづけ」に並ぶ定番の音位転換であるらしい。これ以外の例としては、「つまさき→つかまし」「どうぶつえん→どうつぶえん」などがある。
全体的に、言葉の真ん中あたりの発音が入れ替わるケースが多いようである。

これらの「いい間違い発音」を眺めていると、正しい発音よりも言いやすそうな印象があり、ある意味で言葉が進化を遂げたと考えられなくもない。「ブロッコリー」が「ブッコロリー」となる例もあるようだが、「ブッコロリー」などはとても言いやすく、いっそのことブロッコリーをやめてブッコロリーにした方がいいんじゃないかと思えるくらいの進化っぷりではないか。

実際に、「いい間違い」が普通の発音に定着したケースも多く、例えば「秋葉原」はもともと「あきばはら」だったらしいし、「新しい」はもともと「あらたしい」であったそうだ。

「雰囲気」という言葉は、正しくは「ふんいき」と読むが、若い世代を中心に「ふいんき」という発音が定着しつつあり、今後「ふんいき」を押しのけて市民権を獲得する可能性もある。筆者としては「ふんいき」推進の立場を取っているが、今後の情勢により予断が許せないところである。


ちなみに、「となりのトトロ」の英語字幕版においては、「とうもころし」の訳は「corn(コーン)」と正しい発音になっているらしい。ただ、その代わりとして、「おたまじゃくし(polliwog)」が「wollipog」となっている字幕もあるそうな。いい間違いは、世界共通なのであった。
(エクソシスト太郎)