自宅の近所を散歩していて、普段まったく通らない路地にひょいと入ってみたら、古い銭湯を発見したことがある。案内の看板も出ておらず、ネットで検索してもHPすらない小さな銭湯。
レトロ建築好きの筆者としては、宝物を見つけたような気分だった。

風呂無し物件が激減して年々減少の一途をたどっている銭湯だが、ランニングで汗をかいた人たちが利用するようになったり、関東近郊の銭湯を中心に親しまれている壁面の“ペンキ絵"が希少なアートとして注目されるようになったこともあり、近年はその魅力が見直されつつある。銭湯を巡っては風呂の種類やペンキ絵の特徴などをレポートする“銭湯ブロガー"なる人々が現れるほどだ。

東京都内の約700軒の銭湯が加盟している東京都公衆浴場業生活衛生同業組合では、こうした銭湯ファンのために、さまざまな試みを行っている。先に挙げたランニングや都内散策と銭湯を組み合わせて楽しんでいる人のために実施しているのが「銭湯お遍路」。

入浴するたびに、組合のHPなどで入手できる“巡礼スタンプノート"にスタンプを押してもらい、26浴場のスタンプが貯まったら「26浴場達成認定証」をもらえる。
ちなみにこのノートには最高88個のスタンプが押せるが、これをクリアして組合本部にノートと認定料(1000円分の郵便為替)を送ると、「銭湯お遍路達成認定証」と「ゆ」マークのオリジナルバッジが返送されてくる。

同組合事務局の上地さんに尋ねてみたところ「銭湯お遍路では26浴場以上の達成者の名前(ペンネームも可)を組合のHPに掲載させていただいていますが、すでに廃業した銭湯を廃業前に巡られている方で、達成軒数が880軒を超えている方が数人いらっしゃいます。2巡目以上の方もいらっしゃいますね。達成者の世代はまちまちですが、最近は比較的若い方も多いようです」とのこと。八十八箇所ならぬ880湯(!)なら、駅から歩いて巡るだけでもかなり健康になれそうだ。

ほかにも同組合の各銭湯では冬至の日の“柚子湯"などのハーブ湯のサービスを季節ごとに実施していたり、この銭湯お遍路のダイジェスト版といえる「江戸湯屋めぐりスタンプラリー」(異なる10箇所の銭湯をめぐると特製ストラップを進呈)を昨年は6~11月に開催するなど、さまざまなイベントや企画を用意している。
また同組合発行の銭湯情報誌『1010』を各銭湯や駅などで無料配布(HPで閲覧も可能)しているのだが、都内の観光名所&付近一帯の銭湯リストを掲載したページなどもあり、ちょっとした観光ガイド本的にも使える。

マイナスイオンたっぷりの大浴場でリラックス&気分転換しながら、ゲーム感覚も味わえる銭湯お遍路。気軽な冬の楽しみ方のひとつとして提案したい。
(古知屋ジュン)