連日気温40度超が続いた昨年とはうって変わって、今年は30度すらめったに超えない冷夏の上海。しかし、そんな気候にも関わらず、この夏、中国で大ブームとなっているアイスがある。
その名も「東北大板(ドンベイダーバン)」。

よく「東北大阪」と勘違いされ、日本と関係あるの? と思われる方も多いが、「阪」ではなく「板」。もちろん東北大学も関係ない。中国の「東北」地方、黒竜江省大慶市にあるメーカー紅宝石で作られたアイスなので、この名前がついていると思われる。

ナゾの激うまアイス「東北大板」が中国で大ブーム

▲東北大板の味はバニラ・イチゴ・チョコ・ミルクの4種類。「大板」という名前だが、日本のガリガリ君よりちょっと小ぶりくらい。


中国の北の果てで作られた1本3元(約50円)のこのアイスは、まず首都北京で瞬く間に人気となり、勢いに乗って上海に進出してきた。
そっけなく「東北大板」とだけ書かれた簡素な包装のアイスが、なぜこんなにもウケているのか。まずは、味の面からその秘密を探るべく、4種類全部購入し、食べ比べてみた。

まずは定番のバニラ味。
パッケージに「子供の頃の味!」と書かれている通り、どこか懐かしい味。卵と牛乳の香りが、かなり残っていて、ミルクセーキをアイスにしたようなイメージ。
日本だと「おばあちゃんの」とか「横浜馬車道発祥の」みたいな枕詞を添えて売られていそうな感じである。

続いて、最も評判が良いと言われるイチゴ味。
パッケージをはずすと意外に自然なイチゴ色。さらにはイチゴ表面のつぶつぶも中に入っている。日本ではあり得ないほどに、アイスの棒が斜めに刺さっており、このへんの大雑把さはやはり中国。一口食べてみると、つぶつぶの口当たりも相まって、なかなかのイチゴ感。
このレベルのアイスが50円ならかなりお得と言えるだろう。

ナゾの激うまアイス「東北大板」が中国で大ブーム

▲イチゴのパッケージには「人工色素は添加しておらず果汁と果肉オンリー。もし嘘だったら100万元(1700万円)」と書いてある。本当かは知らない。

さらに食べすすめてチョコ味。
とても濃厚でおいしい。
甘さにかなり駄菓子感はあるが、チョコレートの風味がよく効いている。これまでの3本、食べる前はガリガリ君くらいのかたさを想像していたが、どれもそんなにかたくない。むしろ歯触りがよく、サクサク食べられてしまう。

しかし、いくらサクサク食べられたとしても続けざまに食べるのはなかなか厳しい。体がかなり冷えてきた。なんせ今の気温は22度である。
夏なのか。ほんとに夏なのか。去年の連日40度地獄のときに会いたかったよ、東北大板。

我慢して最後のミルク味に手をつける。
ひとつだけパッケージが豪華なミルク味(値段は同じ3元)。中身も他の3種類とは違い、所謂アイスクリーム的なネットリした感じ(他の3種類が氷菓だとすると、これはラクトアイス)。

乳脂肪分がかなり多めで、ちょっとくどい。体冷えも相まって、半分でリタイア(冷凍庫で再冷凍し、後で美味しくいただきました)。

4種類食べてみた感想としては、総じて言うと3元=50円にしては、かなり美味しい。どれも郷愁を誘うような懐かしい味で、ウケるのもよくわかる。

しかし、東北大板がウケている理由は味だけではないのだ。
実は、この東北大板。一般のスーパーやコンビニでは買えない。販路拡大の仕方が特殊で、街中の小さい商店に専用のアイスケースを提供し、売ってもらう形をとっている(電気代などもメーカーが補助)。したがって、どこで買えるかがよくわからないのである。
結果、SNSなどの口コミやファンサイトで評判が広がり、さらには「あそこで売っていた」といった情報に基づき行ってみる宝探し要素もあって、いっきに広まったようだ。

ナゾの激うまアイス「東北大板」が中国で大ブーム

▲東北大板が売られているケース。街角でこのケースを見かけたら東北大板が売っているサイン。

今ではニセモノまで出回るなど、一大ブームとなっている東北大板(本物は紅宝石という会社名だが、ニセモノは藍宝石や緑宝石という会社名らしい)。
上海でいち早くこのブームに気づき、現地在住日本人にもムーブメントを広げたブロガー「ポンコツ先生」さんに、東北大板のブームについて聞いてみた。(ポンコツ先生さんが最初に東北大板について書いたエントリー)「超おいしいアイス!!!」


――東北大板を食べてみようと思われたきっかけは?

もともと妻の友人がブログに書いていたようで、その情報を妻から聞きました。妻が調べたところ、たまたま売り場が家の近くにあったということが一番のきっかけです。「中国人に人気」「安いアイス」ということだったので、遠くまで行かないと手に入らないようなものだったら買っていなかったと思います。「そこら辺で手に入るおいしいもの」が決め手でした。

――ずばり東北大板の魅力とは?

日本人でも「懐かしさ」を感じられる味でしょうか。「あー、子供の頃にこういう味のアイスを食べたなー」というところですね。
そして3元という価格。絶妙な価格設定だと思います。駄菓子屋などで買っていた感覚がよみがえります。そして「スーパーなどでは売っていない」のも魅力です。ブックスタンドやクリーニング屋の前に置かれた専用のアイスケースで売られていると言うのがポイントですね。どういう販売展開をしているのかなど気になりだしたらキリがありません。

――なぜ東北大板は中国でこんなにウケていると思われますでしょうか

昨今のレトロブームや懐古主義が関係していると思います。お金を使えるようになった70年代・80年代生まれの人たちが、懐かしいと思ったものをSNSなどで広めて行った結果だと思います。

――東北大板4種類のうち、おすすめは?

私は、1バニラ、2チョコ、3イチゴ、4ミルクなのですが、女性人気ナンバー1は「イチゴ」だと思います。懐かしさを求めるのならバニラ、チョコ、味だけを追求するのならイチゴでしょうね。イチゴだけ明らかにクオリティが違います。同じ値段とは思えません。

――ニセモノ東北大板を食べられた経験もあるとか。どのような味でしたか?

私が食べたのは「メロン味」なのですが、ミルク味のアイスにメロンの香料をちょっとだけ入れた味で、とても薄かったです。ほかに「イチゴミルク味」を食べた方からお話を聞きましたが、やはり味が薄かったとのこと。

東北大板は、スーパーやコンビニなどでは買えないので、もし旅行や出張で中国に来たとしてもなかなかお目にかかることは難しいかもしれない。
しかし、偶然にでも、街中で緑と赤の専用ケースを見かけたら、是非買って食べてみていただきたい。きっと少年少女の頃を思い出し、懐かしい気持ちになれるはずだ。
(文:前川ヤスタカ)