老若男女、ファンの多い「ビックリマン」。特に1985年にスタートした「悪魔VS天使」シリーズは爆発的なヒットを生み出し、年間4億個を売り上げた年もあったという。
シリーズ誕生30年を記念し、原画500点以上を掲載した『ビックリマン原画大全』(飛鳥新社)も発売され、渋谷パルコでは原画展も開かれている。嬉しいことに「悪魔VS天使」シリーズなどのデザインを手がけたお二人のインタビューが実現。早速、お話を伺ってきた。

「ビックリマン」悪魔VS天使の生みの親に聞いた極意 

▲手で描かれた貴重な原画。『ビックリマン原画大全』(飛鳥新社)より

「ビックリマン」悪魔VS天使の生みの親に聞いた極意 

まずは、お二人の簡単なプロフィールを。
米澤稔(写真:左)●1954年兵庫県姫路市生まれ。
数社のデザイン事務所に勤務した後、1977年(株)グリーンハウスに入社。ビックリマン「悪魔VS天使」の全キャラクターイラストを制作。

兵藤聡司(写真:右)●1963年兵庫県尼崎市生まれ。自動車整備士などの仕事を経て、1984年(株)グリーンハウス入社。アシスタンドデザイナーを経て、「悪魔VS天使」のキャラクターイラスト制作に関わる。

「ビックリマン」悪魔VS天使の生みの親に聞いた極意 

▲『ビックリマン原画大全』(飛鳥新社)より。
カラー絵も掲載。

――お二人が手がけた「悪魔VS天使」シリーズなどのイラストでは、たくさんのキャラクターが次々に生まれましたが、キャラクターイラストを考えるのは大変だったのでは?
兵藤さん「米澤さんがとにかく厳しくて、地獄だったんですよ(苦笑)。自分としては自信を持ったつもりで見せてもボツの嵐。しかも、最初はボツにされた理由を理解していなかったから『悔しい』の一心で頑張りました」

実は、ダメ出しをしていた米澤さん自身も、キャラクターイラストを生み出すのには苦労したという。
米澤さん「僕は学生時代からリアルな絵を描いていたので、『ビックリマン』のようにデフォルメをするやり方がよく分かっていなかったんです。だから、まずはデフォルメについて学びました。
僕が描いた絵を上司に見せるとダメ出しの嵐がとんできて嫌だったけど、上司が目の位置をほんのちょっと変えただけで格段にかわいくなったりするんです。僕は負けず嫌いだったから、描けないと悔しくて、3年間くらいは試行錯誤しながら考えていましたね。やっぱり、描くんだったら一番面白いものを描きたいし」

米澤さんも兵藤さんが描いた絵に対して、少しでも納得ができない点があると「OK」と言わなかったという。肌の色と服の色が似ているとダメ、目の位置がちょっとでもズレているとダメ、少しでも線がカクカクしているだけでもダメ……といった感じで兵藤さんへの容赦ないダメ出しが繰り広げられたそうだ。

米澤さん「当時、僕がストイックだったこともあって、普通の人間だったらキレそうなことも言ってたんです。兵藤くんは不平不満の塊だったのではないかと……」
兵藤さん「いや、僕も悔しいと逆に燃える性格なので続けられたのではないかと思います」

●まだまだある! 制作時のエピソードにビックリ!

子どもは何気なく楽しんでいたビックリマンのキャラクターイラストだが、制作時のエピソードは尽きない。


兵藤さん「線は本当に繊細で、線を太くする時に線の外側を太くするか、内側を太くするかで表情や全体の雰囲気が違ってくるから特に慎重に描きました。あと、インパクトの出し方も考えましたね、一番外側の線を太く描くと目立つとか」
米澤さん「あと、余白のバランスが大事で、左右・天地共に余らせたくないんだけど、かといって、あまりに余白がないと無理矢理収めたような余裕のない絵になってしまう。さじ加減が難しかったです」

ギャグテイストのイラストは顔を大きく描くのが基本だが、顔に合わせて体を描いてしまうと大きくなりすぎてしまう。正方形にバランスよく入れるとしたらどうすればいいかといった具合に、考える事は多い。

兵藤さん「あと、色指定の時に、普通なら具体的な指示をしてくるけど、米澤さんは『い~感じの色で』っていう旨の指示のことがあって」

――漠然としてますね(笑)

米澤さん「それは信頼している証拠だったりします(笑)。きつい仕事だし、ちょっとでも”遊び”を入れようと思って。
指示を書く時に兵藤くんの似顔絵を入れることがあるけど、その表情も難しい時は白目にしたりして(笑)」

●アナログが故の緊張感にビックリ!

キャラクターイラストはセル画に描いていたため、簡単には修正ができない。究極のアナログだ。
「一部だけを消して修正することが難しいので、やり直す場合はセル画を洗って色を落とすか、新たに描き直すしかなかないんです。それが分かっているから、打ち合わせは慎重にするし、気軽に『描き直して』って言えないんです。描き始めた当初から常に緊張感をもって仕事をしていたから、良いものを産み出し続けることができたのではないかと思います」(米澤さん)

アナログの場合は、ペンや紙なども選ばなければならず、苦労はキリがないが、お二人は今でも手で描き続けている。
「パソコンで描けば修正しやすいし、仕上がりは綺麗かもしれないけど、どうしても均一化した味気ないものになるような気がして、満足できないのです。
ビックリマンは手描きならではの雰囲気やパワーが原点だと思っています」(米澤さん)

このところ、子どもの頃に「ビックリマン」のファンだった人から、声をかけてもらうことも多くなったという。
米澤さん「本当に感謝です。今まで築き上げてきたものは、何の財産にも変えられません。原画を見て、子どもの頃を思い出してワクワクしていただければ嬉しいです」
兵藤さん「その通りです。他に言うことはありません」

ビックリマンの原画は、ヘッド格ならばシールサイズの約3倍、天使、お守り、悪魔などは約2倍の大きさ。『ビックリマン原画大全』も、大きめに掲載されているため、シールでは気が付かないような細かい線までよく分かる。シールを持っている人は比べながら楽しもう。
(取材・文/やきそばかおる)

『ビックリマン原画大全』(飛鳥新社)

「ビックリマン」悪魔VS天使の生みの親に聞いた極意 

数々の名キャラクターたちの原画を500点以上収録。
ペンの塗りムラや下描きの線まで見る事ができるモノクロ絵と、色鮮やかに着彩された数々のカラー絵。2014年8月26日発売。

●渋谷パルコでは原画展を開催中。
「ビックリマン」悪魔VS天使の生みの親に聞いた極意 

パート1・地下1階の「ギャラリーX」にて。8月31日まで。入場無料。