先日、我が子にツナ缶を開けてもらったところ、苦戦し、プルトップを壊してしまった。
テコの原理で簡単に開くはずなのに、力の入れ方がわからないようなのだ。

「今の子は缶切りを使えない」とはよく聞くが、「プルトップ」も開けられないとは……親としても責任を感じてしまうところだ。

だが、調べてみると、缶のプルトップが開けられない人は、実はけっこういるらしい。
しかも、子どもだけではなく、若い女性などにも多数いるようで、ネット上には「専用器具で開ける」「10円玉で開ける」「スプーンの柄で開ける」「はさみで開ける」などの方法が見られたのだ。

なぜ子どもや若い世代に、プルトップを開けられない人が増えているのだろうか。
体育家庭教師の「スポーツ広場」代表の西薗一也さんに聞いた。

「今の子どもたちは、缶のプルトップや、ペットボトルのフタが開けられない子が確かにたくさんいます。
どちらにも共通して言えるのは、『握力の低下』と『瞬間的に力を出すことができない=瞬発力の不足』です」

ペットボトルの場合、「開けられない」理由は、「すべってしまう」こと。フタにはギザギザがついていて摩擦力が働くはずだが、「瞬間的に力を出せない」から開けられない。
また、缶は、スチール缶が多く、固いこともあるが、テコの原理を使えば簡単に開くはず。でも、力を入れ過ぎて固い動きになり、プルトップを壊してしまうことも多いのだそうだ。

「どちらも、『ゆっくり力を出す』ことで開けられないケースが多いんです。フタを開けるときは、ゆっくりではなく、一瞬で大きな力を出す必要があります。
これは、『止まっている状態から、よーいスタートでいきなり走り出す』ようなものですが、現代っ子はそうした瞬発力が低い。危険回避能力の低さとも共通しています」
ここで言う危険回避能力とは、たとえば「転んだときに、とっさに手が出る・一歩足が出る」といったことだそう。確かに、今の子どもたちは、転ぶときに手が出ないと聞くことはあるが、これは環境の変化による影響もあるという指摘だ。
「現代の公園は、やわらかいところが多く、転んでもケガをしないんです。昔は転んだらすぐケガをしてしまうから、転ばないようにするし、その一方で、危ないところをわざと渡ってみるとか、たくさんやりましたよね? でも、今は、安全性の向上が、危険回避能力を低下させているところもあるんです」

また、親の目も手もまわりすぎてしまうことが、子どもの「自然に学ぶ機会」を奪ってしまっていることは、自分自身反省する点だ。
「飲み物ひとつとっても、昔は自分で開けなきゃ飲めなかったのに、今はお母さんが開けてあげてしまいます。
また、危ないからと、親が手をつないで歩き、転びそうなときに手を引っぱってあげます。時代の流れもあり、一人っ子が多いこともあり、親がたっぷり愛情を注いでなんでもかんでもやってしまうことで、自然に学ぶ機会が減っているんです」
とはいえ、今は犯罪も多いので、子どもを公園などに放ったらかしにできないという時代の流れもある。

「また、危険回避能力は、かつては遊びの中で自然に学んでいたのに、今は『習わないと覚えない』こともあります。今は習い事も多様化しており、習っていることは上手にできるのに、日常生活のささいなことができないパターンも多いんです。運動も、やる子は習い事でしっかりやって能力が高く、やらない子は全くやらない。放課後に遊ぶ習慣がなくなっていて、『習っているかどうか』で分かれるため、運動能力の二極化が進んでいる印象があります」

子どもの「できない」は、普段の生活を見つめ直す良い機会。
「なぜできないの?」と怒ったり、落胆したりするのではなく、親も学ぶ機会を奪ってしまっていないか考え、「手も口も出さない」努力をすることも必要なのかもしれません。
(田幸和歌子)