アジアン カンフー ジェネレーション、さだまさしのCDジャケットのイラストや、森見登美彦の小説のカバーイラスト等でおなじみのイラストレーター、中村佑介さん。初の作品集『Blue』は画集としては異例の9万5000部を突破。
画集の第2弾『NOW』(共に飛鳥新社)も年末に発売されて好評だ。サイン会も毎回大盛況の中村さんにお話を伺った。
アジカン・さだまさしのCDジャケットの絵でおなじみ中村佑介さん登場!!
▲中村佑介さんの画集『NOW』の表紙。

【破天荒!? 高校の授業中に一人だけキャベツを置いてデッサン】


中村さんといえば、高校3年生の頃、授業中に机にリンゴを置いてデッサンをしていたというエピソードがある。小さなスケッチブックで描いていたら「お前、落書きはやめろ」と注意され、カチンときて「全然“楽”じゃない。本気です!!」と言い返し、以降は大きな画板を持ち込んだら何も言われなくなったというのだ。
「芸大の受験が近づくにつれて、絵の勉強をする時間がないと思って、キャベツやリンゴを置いてデッサンしてたんです。美術の授業以外でも。
最初は怒られましたが、『これも“受験勉強”だし、早弁をしたりジャンプを読まれるよりはマシか』と思われたのか、そのうち怒られなくなりました(笑)」
――当時、ご両親は絵を描くことについては何かおっしゃってましたか?
「実は、両親とも絵に関係する仕事をしているので、僕には絵を描く仕事に就いてほしいと思ってたんです。高校の5教科の成績が悪くても怒られなかったけど、美術だけは5をとらないと怒られました」
学校に行かずに画塾に行くこともあり、高校から家に連絡があった時も、母親は先生に「すみません」と表面上は謝るものの、画塾に行ってたのならそれでいいとの“方針”だったという。

憂いとも楽しげとも取れる女の子の絵を描き始めたのは、大学3年生になってから。ゲーム会社への就職を志望していたが、当時は『ときめきメモリアル』をはじめ、ギャルゲーがブームになりつつある頃だった。そこで、ゲーム会社に就職するには女の子の絵が描けることが不可欠だと思い、練習するようになったという。
「ただのスケッチでは面白くないので、いろいろな要素を入れて一枚の絵に仕上げるようにしていきました」
――その後、絵を描くことがお仕事になっていくわけですが、イラストに描く人物の設定はどのように考えていますか?
「CDジャケットのイラストの場合は全ての曲を聴いて考えますし、小説の表紙の場合は読みながら『このセリフは、どんな人が言ってるんだろう……』とプロファイルを作っていくように考えます」
アジカン・さだまさしのCDジャケットの絵でおなじみ中村佑介さん登場!!

【まわりの人がパソコンを駆使する中、「マッキー」1本で勝負】


中村さんのように活躍できればいいが、最近は絵を描くためのツールや、発表する機会が多くなった分、イラストレーターになりたい人も多く、埋もれてしまうとの声も聞く。
――イラストレーターとして世に出るためにはどうしたら良いでしょうか。

「ポイントは、色の塗り方と、パソコンなどの道具に惑わされないことです。例えば、僕の絵の特徴は女の子の横顔や動物の絵が多いところだと言われますが、僕が思うに特徴は色にあると思います。絵の細かい部分は見えなくても、色は遠くからでも識別できますから」
今はデジタルツールを駆使してイラストを描く人が多いが、それではリアルに陰影をつけることや、光沢を出すことに神経を注いでしまい、色の組み合わせのことは後回しになる。
「その結果、他の人と似たような作品になる可能性があるんです。僕はどんな画材でも描ける方が良いと思います。今は僕もイラストを描く時にパソコンも使いますが、学生だった頃はパソコンは1台50万円もするから高くて買えませんでした。
だから、パッケージのデザインの課題も折り紙を貼ったり、手で塗ったりしてアナログで作っていたけど、パソコン制作の学生の方が先生の評価が高かったんです。そういう『道具への評価』に納得がいかなくて、卒業制作はあえてペンだけで臨み、『マッキー』1本で賞をとりました」

なんという反骨精神だろうか。ところで、中村さんは両親が絵を描くことを勧めていたわけだが、それは珍しい例であり、「ウチの子は絵ばかり描いてて困る」と嘆かれるのが普通だ。なんだか若い芽を摘んでしまうようで、もったいない気がする。
――絵が好きな子どもには描かせた方がいいですよね?
「これからの時代はますます便利になる反面、一人で何でもやらないといけなくなってくると思うんです。例えば、取材にしても少し前なら編集者とライターとカメラマンが一緒に来ていたけど、今では一人で二役も三役もこなさないといけません。
どんな仕事でもエクセルやワードが必要になったように、おそらく絵が描けること、フォトショップやイラストレーターが使えることも就職するための技術の一つとして役に立つような時代が来ると思います。だから、絵が好きだったら、絵を習いに行けば将来の選択肢が一つ増えると考えます。子どもの頃は絵を描く人が多いけど、大人になるにつれてライバルが勝手に減っていくので、絵を描くことを仕事にするのは“穴”なんです。それに、絵の仕事もきちんとすれば安定しますよ」
アジカン・さだまさしのCDジャケットの絵でおなじみ中村佑介さん登場!!

【大事な「セクシー女優観察」】


中村さんは10時間以上も机に向かっていることがあるという。集中力は途切れないのだろうか。
「途切れますね(笑)。しかも、年々途切れるのが早くなってきている気がします」
――そういう時はどうされてるんですか?
「ネットでセクシー女優の動画を見ます」
――(笑)。
噂では朝から見てらっしゃると聞きましたが。
「朝からチェックしてますよ。厳密に言えば、朝だけに限らず、常に見ている状態の時もあります。それは、女性を描くにあたっては非常に重要な事なんですよ」
ちなみに、女性の注目するポイントは学生の頃と比べて変わってきたそうだ。
「学生の頃は顔やプロポーションによって好きなタイプがありましたけど、それが全くなくなって、今は演技やしぐさを気にするようになりました。セクシー女優の皆さんのしぐさ一つをとっても、その仕事への取り組み方が分かります。
僕は絵で間接的に女性を表現するけど、女優さんは直接的に自身の身体を使って女性を表現しているから尊敬しています」
――セクシー女優は引退が早いことがありますが、引退すると残念ですよね?
「いや、僕は『去る者は追わず』です。引退した女優さんは名前も口外しないことにしていて、活動期間中だけDMMでダウンロードして応援しています」
――そういえば、中村さんが描く女性はスリムな人が多いですよね……
「でも、僕が画像で見ている女性のタイプは全然違ったりします(笑)」
アジカン・さだまさしのCDジャケットの絵でおなじみ中村佑介さん登場!!

【サイン会は7時間に及ぶことも】


中村さんは画集『NOW』の発売を記念して、23都道府県でサイン会を開催する。しかも、対象者には『NOW』の表紙をモチーフにした絵をマジックで描く。中村さんのサイン会は、時には7時間に及ぶこともある。
――中村さんはツイッターでもフォロワーさんからの相談に乗ったり、絵のアドバイスをしたりと大盤振る舞いですが、そのサービス精神はどこから?
「使命といいましょうか。ただ、僕のようなサービス精神は、漫画家や芸能人は当たり前にやっていることです。イラストレーターは寡黙な人もいるし、まわりの皆さんが気を遣うこともあるようです。そういう部分をクリアーしていかないと、ただでさえイラストレーションは小さな業界なのに、これ以上大きくなっていかないんじゃないかと思うんです。業界が大きくならないと『ウチの子は絵ばかり描いてて困る』という嘆きに結びついてしまうんです。だって『ウチの子は勉強ばかりして困る』という嘆きは聞かないですよね? それは、『勉強は将来に結びつくけど、絵を描いてもお金を稼げない』と思っている大人が多いからです。僕は、イラストレーターが儲かる商売であることを世の中に知らしめ、子ども達が絵を描いていることが遊びだと思われないようにするためには、何でもやっていこうと思っています」
アジカン・さだまさしのCDジャケットの絵でおなじみ中村佑介さん登場!!
▲中村佑介さん。マッシュルームカットがトレードマーク。

中村さんのサイン会は大人気で、あっという間に整理券が完配することも。順番を待っているファンの横顔は、中村さんが描く女性のように、可愛らしく、期待に満ち溢れていた。
(取材・文/やきそばかおる)

・画集 第2弾『NOW』(飛鳥新社)発売中
・中村佑介公式サイト『YOUSUKE NAKAMURA.net』
・ブログ『中村佑介の黄色い日記』
アジカン・さだまさしのCDジャケットの絵でおなじみ中村佑介さん登場!!

5年ぶりの画集。ASIAN KUNG-FU GENERATION、さだまさしベストアルバムのCDジャケット、『謎解きはディナーのあとで』の装丁画などはもちろん、一般的には目に触れる事の少なかった、音楽の教科書や季刊エス、文芸誌『きらら』に描きおろしたイラストなども含めて計250点を収録。
「『NOW』は現存している画家の作品集としては、圧倒的に安くて物量が入っているので、コスト面からしても絶対に買って損をしない1冊です」(中村さん)

サイン会のスケジュール(全て2015年)
1/17(土)@広島 フタバ図書アルティアルパーク北棟店
1/18(日)@岡山 TSUTAYA山陽店
1/24(土)@名古屋 星野書店近鉄パッセ店
1/25(日)@大阪 紀伊國屋書店グランフロント大阪店
ほか、全国で開催。詳細は公式ブログ等にて。