パフェ評論家の斧屋(おのや)さんが、都内のお店のパフェ123本を紹介しつつ、身近でありながら意外と知らないパフェというスイーツについて考えた本『東京パフェ学』(文化出版局、1400円税抜)が発売された。
“パフェは究極のエンターテインメント”と題した序文にはじまり、店ごとの食材や盛り付けなどへのこだわりが丁寧に取材されているほか、主役のパフェはもちろんフルーツのディスプレイされた店内など、鮮やかな写真の数々も目を引く内容だ。
ちなみに斧屋さんは漫画家・コラムニストの能町みね子さんの実の弟さん。本の中盤には能町さんのマンガを含む姉弟のパフェ対談なども掲載されていて、楽しく読み応えのある構成になっている。
パフェは可能性のあるスイーツ、「パンケーキとプロレスしたい」とパフェの達人
斧屋さんが都内の123本を紹介しながらパフェについて考察した『東京パフェ学』(文化出版局、1400円税抜)。

本でも紹介されているタカノフルーツパーラー新宿本店で待ち合わせて、旬のイチゴのパフェをつつきながら斧屋さんにお話をうかがった。パフェの達人はどんなポイントからおいしいパフェを見分けるのだろう?
「サイトでメニュー画像を公開しているお店も多いですが、パフェをちゃんと下まで写しているか、全体像を見せているかどうかが目安の一つですね。パフェの上の部分を私は“表層”と呼んでいるんですが、そこが美しく、おいしくあるのはある意味当たり前なんです。でもその下の“中層”やグラスの底の“深層”にもいい素材を使っていたり、コーンフレークなどの量がほどよいバランスで組み合わせられているかどうか。
パフェは基本的に上から食べていくものですけど、食べ飽きて残す人もいますよね? でもこれを映画にたとえると、一番最後のクライマックスが退屈でどうするんだ? って話なんじゃないかと思うんですよ。この本の中でも、最後までおいしく楽しく食べさせてくれるパフェを厳選したつもりです」

本の中では「銀座千疋屋」といった老舗フルーツパーラーや「TOSHI YOROIZUKA」などの有名パティスリーから、カフェやファミレス、コンビニのパフェまでを幅広く紹介。店だけでなく、素材をカスタマイズできるもの、温かいソースをかけて食べるものなど、パフェのスタイルも千差万別だ。
パフェは可能性のあるスイーツ、「パンケーキとプロレスしたい」とパフェの達人
こぼれんばかりに旬のフルーツが盛り付けられた、浅草「フルーツパーラーゴトー」の本日のフルーツパフェ(830円税込)。

「パフェに対するイメージが、昔ファミレスや地元の喫茶店で食べたときから更新されていないという人が案外多いんじゃないかと思うんです。パフェは、例えば盛り付ける器や、使う食材もすごく幅が広いし、絶対にこれが入っていなければパフェじゃない、という決まりもない。そういう意味で本当に自由ですし、近年ブームになっているパンケーキよりも、よっぽど多様性が出せるスイーツだと個人的には思っているんです。
意図的にパンケーキとプロレスをしたいという気持ちがありますね(笑)」

パフェというメニューの持つ魅力を十二分に感じさせる数多くの店の中で、唯一店主との対談を組んでいるのが町田にある「Cafe中野屋」(※eはアクサン・テギュ付き)。パフェそのものの華やかさや独創性はもちろん、小さな花器に盛り付けたパフェなど器の使い方もユニークで個性派なお店だ。
パフェは可能性のあるスイーツ、「パンケーキとプロレスしたい」とパフェの達人
斧屋さんが溺愛する町田「Cafe中野屋」の一品、桜あんのモンブラン仕立て、桜の花弁入りメレンゲと抹茶アイスのパフェ(950円税込)。

「一つ一つのパフェがまったく違う構造なんです。どれを頼んでも別の“作品”になっていますし、なおかつ本当に手間暇をかけて作られている。紹介した中で、スライスした梨のチップでフタをして、それをグラスの中に割り入れて食べるパフェがあるんですが、梨を割り入れる行為で、秋の扉を叩いているような物語性を感じるんですよ。一つ一つのパフェにそういった物語があります。
器を含めた見た目や食感や構成に至るまで、パフェにかける熱量がすばらしいです」

本の冒頭には「空きっ腹に食うべからず」など、パフェをおいしく味わうために斧屋さんが考えた“パフェ三原則”が紹介されている。その中の「創り手の意図を考えよ」という項目は、まさにこの本のコンセプトを表しているようにも思えるし、斧屋さんが注力して評論しているもう1つのテーマ“アイドル”とも重なる部分があるように思える。

「本を作るにあたっては『どう考えてパフェを作っているのか』という部分にフォーカスを当てたいと考えていました。お店ごとにパフェに対する思想のようなものがあるので、読んだ人にもそれを知ったり考えてもらえるならなお面白いんじゃないかと。アイドルも創り手(=運営)がどういう風にアイドルを育成してどんなところを見てほしいのか、という部分がしっかりしていれば、長続きするものなんじゃないかと思うんですよ。パフェもアイドルも名乗るのは簡単ですが、“こういう風にしよう”という意図があまり見えてこないものは支持されにくいんじゃないかと思います」
パフェは可能性のあるスイーツ、「パンケーキとプロレスしたい」とパフェの達人
温かいチョコソースをかけて食べる、赤坂見附「パティスリー&カフェ デリーモ」のラズベリーピスターシュ(1260円税込)。

そして『雑誌の人格』(文化出版局、1500円税抜き)などの話題作を手がけた能町さんとの姉弟対談では、老舗のフルーツパーラーでパフェをいただきながらのパフェ対談が掲載されているのだが、能町さんの「パフェはなんで好きになったんですか?」「パフェを写すアングルってどれが美しいの?」といった読者目線での問いかけの中に、「ほんと食べるの遅いよね……」といった家族ならではのツッコミが紛れ込んでいたりと、興味深くも微笑ましい内容になっている。


「なんとも悪意のある似顔絵を描いてくれて(笑)」と笑う斧屋さんだが、その目から見たクリエイターとしてのお姉さんはどんな存在なのだろうか。
「あえて“能町さん”と呼びますけど、能町さんは何かに対してものすごく知識が豊富というよりも、それをどう見て、どう楽しむか、そしてどういう魅力があるかを、自分なりの視点でとらえるという部分において優れていると思うんですよ。そういう部分は見習いたいと思いますし、この本でも果たされていることかもしれないと思っています。私には食に携わるプロの方が知っていなきゃいけないような知識はないので、そういったことは書けないんですね。だから一から自分で食べつつ、その構造や魅力を分析してみたり、自分の中でのパフェのルール、“パフェ道”を作っていくという作業をしているんです」

目にも鮮やかなパフェの写真が並ぶこの本だが、このスイーツの歴史をたどるコラムやコンビニパフェの開発に関するレポートといったパフェに関する知識を深められるページもあり、いわゆるガイド本とは違った目線でもとらえてほしいのだそう。

「お店を紹介するときに順位をつけるというやり方もありますけど、そうするとたいていみんな1位のお店に行きますよね。
おいしいものは確かに自分としてもおすすめしたいですが、読んだ方に“自分にとって一番おいしいパフェはどんなものなのか”というのを探ってもらうことこそが、この本の一つの楽しみ方なんじゃないかと思います。あと、私は食のプロではない素人なんですけれども、この本を、パフェを出しているお店の人に読んでもらえるなら、すごくうれしいですね。他のお店のメニューに影響を受けて新たな着想のパフェが出てくるならすばらしいですし、まだまだ、お客さんがびっくりするようなアイデアがどんどん出てくる、可能性があるスイーツだと思っているので」
(古知屋ジュン)

※掲載メニューは季節や入荷状況により取扱いのないものがあります。また、パフェの価格は2015年1月現在のものであり、変更の可能性があります。