年間10万枚のカピバラ写真を撮り続けるカピバラ写真家、渡辺克仁さん。カピバラを飼育している施設(動物園、水族館、そのほか)92カ所を網羅し、野生のカピバラに会いにパンタナール(南アメリカ大陸にある世界最大級の湿原)にも行くほどだ。
7月29日には9冊目となるカピバラの写真集を発売する渡辺さんにお話を伺った。
動物園とは大違い! 写真家が目撃した野生のカピバラは時速50キロで走る!?
長崎バイオパークにて(撮影:渡辺克仁)

動物園とは大違い! 写真家が目撃した野生のカピバラは時速50キロで走る!?
阿蘇ファームランド ふれあい動物王国にて。(撮影:渡辺克仁)



カピバラのために転職も


――2年前にも「エキサイト Bit コネタ」で紹介させていただいたんですけど、あれからまたものすごい勢いで写真が増えましたよね(笑)
「年間100日はカピバラに会いに行ってますからね。より一層カピバラに会いに行きやすくするように転職しましたし
実は、自分で自由に日程が組めるような仕事に転職したという渡辺さん。かといって呑気な日々を送っているわけではなく、カピバラの写真を撮りに行かない日などは大忙しである。筆者も全国の動物園を巡っているものの、これほどカピバラに特化した人は珍しい。

――私の場合はライオンやユキヒョウ、ヘビクイワシなど、いろいろな動物が好きで写真を撮っているのですが、渡辺さんは年中カピバラを見ていて、『しばらく、カピバラは見なくても大丈夫かな』と思ったりしませんか?
「いや、それはないですね(笑)。カピバラの大きな鼻、小さな耳と目、アンバランスな体型も良いし、気持ちの良さなどを非常によく表現するんです。
笑っているように見えることもあって、その瞬間を撮りたくて通っているようなものですね。それに、写真を撮る場合は自己採点で100点ということがなくて、いつも80~90点だったりするので、『次はもっと素敵な写真を撮ろう』って思うんです。だから気がついたらまたカピバラに会いに行ってるんですね」

うんうん。その気持ちも痛いほどよく分かる。ほんの少し構図がズレただけでも、印象が変わってしまうものなのだ。 

動物園とは大違い! 写真家が目撃した野生のカピバラは時速50キロで走る!?

写真は、1982年に日本初のカピバラの露天風呂を企画した伊豆シャボテン公園のカピバラ(旧放飼場にて)。
カピバラ人気の高まりと共にカピバラを飼育する動物園や水族館などの施設も増えた。
「飼育員さんによると、カピバラは他の動物に比べると飼育しやすい方なんだそうです」
ただし、「飼育しやすい」といっても、あくまでも『動物園にいる他の動物と比べて』という意味であって、他の我々がペットとして飼いやすいということではない。

カピバラを飼育している施設(動物園、水族館など)92カ所の全てに足を運んだ渡辺さん。さぞかし安心かと思いきや……。
「ところが、これで終わりではないんです。8月にカピバラを飼育する施設が新たに増えるので、行ってきます!」
まさに、嬉しい悲鳴だ。


動物園とは大違い! 写真家が目撃した野生のカピバラは時速50キロで走る!?
SAYURI WORLD(千葉県市川市)「背景が非常に良いんです。柵があるわけではないので、直接触れ合えるもの良いですね」(渡辺さん)

動物園とは大違い! 写真家が目撃した野生のカピバラは時速50キロで走る!?
鳥羽水族館(三重県津市)にて。「水深がちょうど良い高さにきています」(渡辺さん)



カピバラ、ワニ出現で危機一髪!


カピバラが好きすぎる渡辺さん。2012年には念願の野生のカピバラに会いに、パンタナールに向かった。日本から飛行機等を乗り継いで26時間。夢のような旅である。動物園ではカピバラに直接触れ合うことができるが、野生ではそうはいかない。車から自由に降りることもなく、遠くから観察したり、望遠レンズで写真を撮るしかない。なんとももどかしいところだが、仕方がない。
野生のカピバラはジャガーやカイマンなどの天敵に襲われないように、常に周囲を気にしている。動物園にいるカピバラのように地面に寝そべる光景もほとんど見られない。

動物園とは大違い! 写真家が目撃した野生のカピバラは時速50キロで走る!?

――カピバラのすぐそばにワニがいるじゃないですか!
「この時はさすがにヒヤヒヤしました! が、カピバラは何事もなく過ぎ去っていきました。たまにカピバラがワニを踏んずけて歩いていくことがありますが、一大事にはなりません。ただし、子どものカピバラは襲われることがありますが」
ちなみに、池の中でもスイスイと移動するそうだ。


カピバラが死ぬ気で走ると……


ところで、カピバラは全速力時にどのくらいの速さで走れるかご存じだろうか? 答えは時速50キロである。
「野生のカピバラが死ぬ気で走ると、本当にそのくらいのスピードで走れるんです。
体はあまり大きくないのに、見ていてア然とするくらい速く走るんですよ。動物園の飼育員さんに言っても信じてもらえないことがあるんですけど(笑)」
確かに死ぬ気で走らないと死んでしまうから必死なのだ。動物園にいるカピバラは天敵がいないため、ゴロゴロしているのだ。


渡辺さんはカピバラに興奮、他の人はジャガーに興奮


――渡辺さんのようにカピバラを追い求めてブラジル・パンタナールにやってくる外国人は他にもいるんですか?
「いませんねえ~(笑)。他の外国人はカピバラの天敵のジャガーの方に興味があるみたいです。ジャガーの写真を撮りたくて、池にボートを浮かべている人が多いほどです。
そういう人たちのために食事のデリバリーサービスを行っている店もあるくらいです。カピバラといってもあまり珍しくないようで、僕が『カピバラの写真を撮りにきた』と言うと『なんで?!』という表情をされます(笑)

たくさんのカピバラに会いに行っているせいか、渡辺さんはどことなくカピバラに似ている。「それ、よく言われるんです(笑)。でも、飼育員さんの顔も担当している動物に似てくると言わているんで、なんだか嬉しいですね」 今日も渡辺さんはカピバラ求めて東奔西走するのであった。
(取材・文/やきそばかおる 写真協力/渡辺克仁)

動物園とは大違い! 写真家が目撃した野生のカピバラは時速50キロで走る!?

『カピバラ2』(東京書籍 2015年7月29日発売) 渡辺克仁さんの9冊目(台湾で発売された「水豚」、カードブックも含む)となるカピバラ写真集。あまりにも良い写真が多いので、急きょページ数を増やしたとのこと。カピバラのことがよく分かる解説や、カピバラに会える施設ガイドつき。

渡辺さんのサイト
『カピバラ大好き』
カピバラの生態や会える動物園水族館を紹介。

『カピバラ動物園』
ブログはこちら。