縄文時代の魅力を伝えるべく1冊まるごと縄文時代について書いたフリーペーパー「縄文ZINE」を作っている人物がいる。32ページに及ぶ内容をほぼ1人で手がけているのだが、一体そのモチベーションはどこからくるのか? 編集発行人の望月昭秀さんに伺った。


最新号の特集は「土器は燃えているか」


縄文時代好きが高じてフリーペーパーを作った望月さん、火炎土器に夢中
▲「縄文ZINE」第2号は1月に発行されたばかり

縄文時代好きが高じてフリーペーパーを作った望月さん、火炎土器に夢中
▲特集「土器は燃えているか」気になる方は今すぐ入手を!


最新号(第2号)の特集は国宝の火炎土器をテーマにした「土器は燃えているか」。望月さんは取材のため、十日町市の『十日町市博物館』と津南町の『なじょもん』を訪れた。

――望月さんにとって、火炎土器の魅力はどこにあるのでしょう?
「燃えさかる炎のような圧倒的な迫力をもつ火炎土器は、『縄文の華』とも称され、縄文1万5千年の歴史のなかで500年間だけ現在の新潟県の信濃川流域で作られました。煮炊きするには不便なように見えますが、特別視されていたわけではなく、普通使いされていたようなのです」

――そもそも、なぜ縄文時代に興味を?
「土器の模様を一つとっても一つ一つの模様にどのような意味があるのか気になりますし、土偶にしてもなぜあのような形になったのか、疑問に思ううちのめり込んでいきました。縄文時代は戦国時代や江戸時代などに比べるとテレビではあまり取り上げられませんが、面白い話はたくさん残ってるんです。大河ドラマも縄文時代をテーマにしたものがあってもいいと思ってるほどです」

――確かにあまりクローズアップされませんよね。誌面に「縄文遺跡が全国で何カ所くらいあるか」という話が出てきますが分かりませんでした。

「全国の縄文遺跡の数はおよそ9万カ所で、現在も増え続けています。北海道や長野など、縄文遺跡の多い県では1万近くにもなります。日本は世界的にみても、遺跡の密度がものすごく濃いんです」

――32ページもの充実した内容ですが、本屋さんで売っている雑誌なら分かるんですけど、フリーペーパーでここまで力を入れている理由はなんですか?
「お金について言うと、当然、大赤字なんですけど(笑)。フリーペーパーを作ると取材に行くきっかけになるんです。それに、縄文時代に興味を持っている人がまわりに一人しかいなくて、僕が縄文時代の話をしても、『またその話?』とめんどくさがられることもあるんです。だから縄文時代をテーマにしたフリーペーパーを作ったら気軽に手にとれるし、縄文時代ファンの友達も増えるんじゃないかと思いまして」
昨年の夏に1号を発行。
ニッチさが噂になり、問い合わせも多かったそうだ。

ほかにもこんな企画が



縄文時代好きが高じてフリーペーパーを作った望月さん、火炎土器に夢中

読めば縄文時代マニアに一歩近づける(?!)縄文時代について会話形式で解説した「立話(たちばなし)、最近の縄文人」、縄文時代に関する真面目な質問からそうではない質問までユーモアたっぷりに回答した「縄弱のための縄文時代質疑応答」、編集・記者の平井かおるさんによる「約5000年の眠りから覚めた縄文土鈴の『音』」(第1号に掲載)、縄文ライター草刈朋子さんによる「東北の縄文人が愛した亀ヶ岡様式と縄文スピリットの行方」(第2号に掲載)、さらに、人気漫画家・イラストレーター、小山健さんの作品も読める充実ぶり。

中にはレシピ?コーナーも
◯狩りとかで忙しい人のための超かんたんドングリクッキーレシピ
「お菓子作り考古学者のヤミラ先生に考案していただきました」
もちろん本当に作れるが、あくまでも縄文人向けのレシピなので、道具に石皿や深鉢土器が出てきたりなかなか難易度が高い。詳細は紙面にて。

◯ドグモによる「都会の縄文人」

縄文時代好きが高じてフリーペーパーを作った望月さん、火炎土器に夢中
▲「縄文ZINE」第1号より

縄文時代好きが高じてフリーペーパーを作った望月さん、火炎土器に夢中
▲「縄文ZINE」第2号より


「『土偶』と『ドグモ』。ダジャレといってしまえばそれまでなんですけど(笑)、この二つはシンクロしてると思うんです。
土偶自体も女性をモチーフにしていると言われていて、同じポーズをしてもらったら何かが見えてくるんじゃないかと思いまして。ただ、土偶は人間としてみるとかなり個性的なので、人間ではないものを作ろうとしたのではないかとも言われてまして……」
ちなみに、一口に「土偶」といっても時期や地域などによって形はさまざまだそうだ。
「なかにはものすごく精巧に作ってある土偶もあるんです。その一方でそうでもないものもあったりしまして。ただし、当時はネットのような通信手段がなかったことを考えると、各地で土偶がつくられたことは実に興味深いです」
絵を描いて記録しておけばよさそうなものだが、当時は絵を描くことすらタブー視されていたという話もある(諸説あり)。
「何かを写し取るとそこに魂が宿ると思われていたかもしれません」(望月さん)とのこと。

知れば知るほど縄文時代は奥深いのであった。

「縄文ZINE」は文章も写真も満載。まさに全力で作っているわけだが、ここまで情熱を注ぐのは望月さんにある思惑があるからだ。
「もちろん、縄文人は現代にはいないんですけど、読んでいくうちに『縄文人は本当にいるんじゃないか』という錯覚に陥るような、さらには続けていくうちにこの雑誌自体に人格が生まれたらいいなって。そんな意味も含めての『縄文ZINE』。大変おこがましい話ですが、司馬遼太郎さんの『龍馬がゆく』って読んでいくうちに読者が龍馬の事を親友と思えてくるからあれだけ物語に共感することができると思うんです。
だからこの雑誌でも、それと同じように読みながら縄文人の友達をつくりあげていってもらえたらと思っています。あれ、僕、なんか変なこと言ってます?」

縄文時代好きが高じてフリーペーパーを作った望月さん、火炎土器に夢中
▲望月さん、楽しく製作中


「縄文ZINE」を作成して、確かに縄文時代について話せる相手は増えたものの、発送作業は望月さんが一人で行っている。
「ありがたいことに考古学に関する博物館など、問い合わせはたくさんいただいています。ただ、一人でやってるものですからなかなかやることが多くて……」
まさにネコの手も借りたい状態。……と思ったらインタビュー中に本物のネコが寄ってきた。

縄文時代好きが高じてフリーペーパーを作った望月さん、火炎土器に夢中
▲「片桐」

縄文時代好きが高じてフリーペーパーを作った望月さん、火炎土器に夢中
▲「やつい」

望月さんの本業はデザイナー。
事務所に2匹のネコを飼っている。(望月さんは大のラジオっ子でもあり、好きな番組『JUNKサタデー エレ片のコント太郎』(TBSラジオ)にちなんで「やつい」「片桐」と命名)

ネコに気を取られて話が逸れたが、フリーペーパーなので金銭面のことも考えないといけない。スポンサーを募集しているとのことなので、皆さんもぜひお力添えを。
(取材・文/やきそばかおる)

都会の縄文人のためのマガジン「縄文ZINE」
配布場所など詳細はこちらのサイトへ。国内だけでなくニューヨークでも入手可。
次号は2016年5月に発行予定。(特集「今、行きたい ベスト貝塚」)
※第一号は配布が終了しています。