ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが、いま話題のYouTuberの人気を分析するシリーズ。今回はKAZUYAを扱います。


有名な言論人は知らないが、YouTuberなら知っている


TVも新聞も見ない若者はYouTuber「KAZUYA」で政治を知る!

飯田 YouTuberを紹介、分析していく企画、今回はKAZUYA(京本和也)です。政治系のYouTuberですね。ニコ動でも活動してます。北海道在住で、1988年生まれ。時事ニュースを2分くらいにまとめてツッコミ入れて叩くスタイルでほぼ毎日配信しています。
 小林よしのりの『戦争論』にハマって政治にめざめ、書いた本の参考文献は竹田恒泰とか。ただ、ヘイトほど口汚くない(「在日特権はある」って断言してるけど……)。


藤田 見てみて、THE ネトウヨって感じがしたのですが、まずは説明を聞きます。

飯田 説明というか……そうですね。
僕、『はじめて投票するあなたへ、どうしても伝えておきたいことがあります。』という本の巻末に収録されている「新しく選挙権を得た18歳・19歳座談会」の構成をやったんですね。3人来てもらって、ひとりは「なんか最近の政治やばい気がする」とは思ってるけど与党と野党の区別もあやしいくらいのノンポリ、ひとりは民青(左翼)、ひとりがKAZUYA CHANNELをかなり観てるってひとだったの。
 ちなみにこの本の寄稿者はいとうせいこう、稲垣えみ子、岩井俊二、上原良司、遠藤ミチロウ、大田昌秀、奥田愛基、海渡雄一、香山リカ、熊谷和徳、桑原功一、島田雅彦、島本脩二、想田和弘、園子温、田坂広志、谷口真由美、田原総一朗、ドリアン助川、仲村颯悟、中山きく、蓮池透、浜矩子、水上貴央、茂木健一郎、むのたけじ、目取真俊、森達也、屋良朝博……なんですね。

 で、18、19歳の3人に「誰か知ってるひといる?」って聞いたら茂木健一郎といとうせいこうをかろうじて知っているくらいで、「あとは誰も知らない」と。
 でもKAZUYAは知ってるわけですよ。

藤田 KAZUYAの再生数が多い動画のタイトルを挙げるだけでも、もう……「在日韓国人からの手紙~韓国人は皆キチ〇イなのか?」「拘束された後藤さんの母親が会見 でも…全く意味が…」「月29万円で足りない!?生活保護受給者の呆れたお金の使い道」「ラッスンゴレライで話題の8.6秒バズーカーに疑惑www」「SEALDs界隈の大学生 VS 大学生」ですからね……内容的には、ぼくは、何も目新しいことを言っているように聞こえないんだけど…… ネトウヨ系のよくある論点セット詰め合わせだなと。

飯田 KAZUYAが主張している内実に、僕はあまり興味がありません。ただ、その座談会を聴いていて、若者に政治にめざめてほしいなら新聞、テレビに出るよりYouTubeで毎日2分の番組つくったほうがいいんじゃないか? と。
 左翼ないしリベラル系でKAZUYAほど有力なYouTuberが(たぶん)日本にはいないことの意味の重さを考えたほうがいい。


藤田 ネトウヨ系のことを言うとアクセスを稼げたり人気になるけど、リベラル系のことを言うとそうではない、とかの悪循環もあるのでは?

飯田 いやいや、リベラル系のメディアはラジオとか新聞とか雑誌、ポッドキャストとかではいくらでもあるけどYouTubeは目立ったものがほとんどない。メディアの選択とか「ここで言えば届くだろう」と思っている感覚が古くさいっていうこと。有名人集めて120分のシンポジウムとか開くより、2分動画を60本ネットに挙げたほうがいい時代なんですよ。
 ただ「KAZUYA観てる」って言ってたその男の子は「動画を観たあとコメント欄を見ると賛否両論あって勉強になる」「KAZUYAと全然考えが合わないところもある」とも言っていて、それは意外だったけどね。鵜呑みにするわけじゃないんだなあって。

スマホで観るのに「ちょうどいい」政治ネタの語り方


藤田 こういう内容だからアクセスを稼げるんですかね? それとも、彼固有の魅力というのがあるのでしょうか? たとえば、彼が政治思想だけを一気に極左に変えたりしたらどうなるのだろう?

飯田 それは何人かにチャレンジしてもらわないとわからないですね。ようするに、10代が毎日アクセスしているYouTubeというメディアで、若者が興味を持つような切り口、語り口で2、3分で時事ネタニュースを煽りも含めてコンパクトにまとめてくれるスキルをもっているのがKAZUYAくらいしかいないわけです。

 ほかは、話がやたら長かったり、罵詈雑言がひどかったり、引いちゃうような態度だったり、言ってることが小難しかったりする。KAZUYAはそのへんのバランス感覚があると思います。「主張の当否」を気にする前に、それ以外の部分への気の使い方に着目すべきではないかと。

藤田 スマホで気軽に見れて、短いものが良い、と。

飯田 2、3分しゃべるだけならボロも出にくいしね。新聞やネットニュースに出ているくらいファクトをちゃちゃっと紹介してツッコミいれたら時間が来ておしまいだから、言いっ放しで終われる。

 ニュースはテレビでもYouTubeでも情動メディア、見ているひとの感情を揺さぶることで人間を動かすメディアだから、「叩けそうなネタを振って叩いて終わる」スタイルが人気出る理由はわかりますよ。
 KAZUYAは別にネトウヨ的な主張にかぎらず、左翼でも誰でも叩きそうなことだって叩いているしね。

藤田 みんな人を叩くのが好きなんだなぁ……

飯田 彼の本を読むとわかるけど、在日韓国人から「韓国人だって極端な反日の連中には困ってる。いっしょにしないでくれ」って言われたりしていて、それに対して「韓国人にいい人もいるのはわかっている、自分はひどいやつを叩いているだけだ」と。ドン引きされるような「チョンは全員死ね」みたいな言い方は注意深く避けています。そのへんの巧妙さもある。


藤田 これを見て、日本のことや世界の情勢について知るってことなんですかねぇ?

飯田 高校生、大学生層にはかなりそういう人たちがいると思います。
 意識の高い中高年層はSEALDsばっかに期待、注目してないで、YouTubeとLINE NEWSこそが若者向けのニュースメディア、政治メディアの主戦場であって、若者を啓蒙・動員したいならそこに気を惹くような情報を流しまくって戦って勝たなきゃいけないということを自覚したほうがいいんじゃないでしょうか。

藤田 それは賛成ですね。前に、笠井潔さんとの対談『文化亡国論』で話したのですが、情動ベースで、断片的なメディアに相性のいい思想と悪い思想があるのでは、という仮説を立てていて…… 左派の方が、断片化には向いていない感じがしますね。

飯田 テレビも新聞も「まったく観ない」わけじゃないけど「ほとんどちゃんとは観ていない」、でもYouTubeとLINE NEWS、あとTwitterはめっちゃ観てるというのが現実だから。

左翼はYouTubeになじまない?


藤田 左翼――マルクス主義者をひとつのモデルにしますが――は、基本的に、論理とか体系とか重視しますからね。右翼は情動とかでいい。その辺のメディアそれ自体と思想の相性はあると思うんですよ。
あと、左翼思想は、今だとあんまり有能感とか優越感を与えてくれない気がする。昔は違ったかもだけど。なんか憂鬱になって無力感を覚えるところありますね。これは、ウケないでしょうねぇ。
「資本主義」とか「新自由主義」とか「システム」とか、なんかでかくて漠然としてて強いものと戦おうとするところから来る帰結なんですが。……最近は、原発とか、戦争法案とか、民主主義云々とかで、結構情動的な動員の方法論を取っているようですけど。
「煽る」ことそのものが「リベラル」の思想的立場に反しそうな気が……というか、インテリは基本的に、冷静さを大事にしますからねぇ。

飯田 そうかな? 藤田定義では東浩紀はインテリじゃないということですね。
 まあそれはどうでもいいんですが、世界的には左翼も情に訴えかけていると思います。バーニー・サンダースなんてロジックじゃなくて人々の「金持ち憎し」に油を注いで燃やしたからあそこまでいったわけで。

藤田 オキュパイ・ウォールストリートとかも、世界の富の50%を、人口の1%の人が持っていることへの怒りを動員に使いましたね。あとは、家を奪われているってのがでかい。
「マルクス主義」と「共産主義者」ですね、論理と体系を重視するのは、主に。あと科学的社会主義みたいな人たち。

飯田 レーニンだって毛沢東だって演説して農民煽りまくってるじゃんw
「不平等を解消しよう」というリベラルの発想は、普通に考えると情に訴える話でしょ? 左翼は「理性的で冷静」という前提が僕にはよくわかりません。運動して火焔瓶投げたりしてた(世界的には今でも普通にそうしている)わけだし。今回の話の本筋じゃないからこれ以上は深入りしませんけども。

藤田 革命を起こそうってのも、身近な不平等への怒りとか、飢えとかへの同情とかに起因している部分があるとハンナ・アレントが書いていますので、もちろん、左翼も情動に訴えかけてきたのでしょうね。あとは、ユートピア像を提示して誘惑するとか。エロスを用いる人もいたか。マルクーゼとか。

飯田 「動画だけじゃなくてコメント欄でバトってるのを見て論点を知って、気になったらさらに検索する」と言っているわけだから、リベラルでも煽り言論人をYouTubeにバンバン投入すればちょうどよくなるんじゃないでしょうか。うかつなインテリ、怒りまくっているリベラル、煽りまくる左翼はいっぱいいるんだから、YouTubeで有効活用したらいいんですよ。
 あるいは、池上彰クラスがYouTuberに転身してくれれば……。

藤田 「熱狂を生んで煽る左翼」のYouTuberが出てきたらそれはそれで面白いですよね。リベラルも、若い層にリーチするためにYouTuberになれよ! と。マイケル・ムーアみたいなやつがでてくりゃいいんですよね

飯田 ムーアがやっていることはプロパガンダだけど、あれくらいやって議論を喚起する、議論の土台をつくるひとがいたほうがいいかもしれない。

藤田 SEALDsやエキタスの人たちがYouTuberになってプロパガンダを拡散、と……草の根情報戦も、なんかどんどん高度化して、大変ですね……そういえば、国会前のデモを見学に行ったとき、制服向上委員会の子がいました。彼女達がやったらいいんじゃないかな。むさくるしいおっさんの絵面を観るよりいいでしょうw

飯田 宮台真司なんてナチュラルに口が悪いんだから、毎日2分番組を投稿してもらえれば高校生、大学生にも人気出ると思いますよ。50分とか2時間の番組をネットでやっていてもポピュラリティはなかなか得られないですからね(いい番組だけど)。短くしないと。

藤田 宮台さんは、やりそうですね。

飯田 YouTuberがいっぱい所属・契約している事務所のUUUMに共産党がカネを積んで、有名YouTuberが政治ネタを一斉にやり始めるような現象が起こったらおもしろいんだけどね。
「はい、じゃあ今日は安倍政権の批判をしていきたいと思うんですけれども、なんと! 赤旗朝刊によるとですね……」ってw