以前、銭湯を舞台に、風呂桶でカーリングしたり女湯から男湯に向かって吹き矢を飛ばしたりする「オフロンピック」という競技大会についてレポートした。

そのオフロンピックを企画した大阪市住吉区の「朝日温泉」が、8月の終わりにまた斬新なイベントを開催した。
「納涼 朝日湯~れい温泉」と題されたイベントで、女湯をお化け屋敷に改造したり、浴場内で怪談大会を行ったりするのだという。
その様子を見に行くべく再び「朝日温泉」に足を運んだ。

真っ暗な女湯を明かりを持って進む


女湯を改造してお化け屋敷に! 男湯では怪談大会

建物の前にはかき氷の移動販売車も来ており、中は大賑わいの様子。イベントは15時から20時までの「女湯をお化け屋敷に変身させるのだの巻」と、20時から22時までの「お風呂で怪談納涼大会」の2つのパートに分かれており、15時からのお化け屋敷パートは、バンド・赤犬のメンバーでもある水口グッチさんを講師に、参加者が自らお化け屋敷を作るというところから始めるワークショップになっていた。

参加した子どもたちが思い思いのお化けのお面を作ったり、脱衣所に「人食いロッカー」を作ったりと和気あいあい。
女湯を改造してお化け屋敷に! 男湯では怪談大会

女湯を改造してお化け屋敷に! 男湯では怪談大会

女湯がすっかりお化け屋敷に改装されると、いよいよ照明が落とされた。参加者は真っ暗な中を手作りの明かりを持って進んで行く。

女湯を改造してお化け屋敷に! 男湯では怪談大会

脱衣所から浴場へと歩きながら「お札」を集めるというルールで、「人食いロッカー」に手を突っ込んでそれを探したり、途中に黙々とシャンプーを泡立て続けるお化けがいたり、サウナに置かれた棺桶風の入れ物から飛び出してくるお化けがいたりとかなり本格的に怖い。
女湯を改造してお化け屋敷に! 男湯では怪談大会

外にいると子どもたちの悲鳴が頻繁に聞こえてきて、ここが普段は銭湯だとは思えない状況で面白かった。


お客さんも怪談を披露


20時から始まった「お風呂で怪談納涼大会」は、“事故物件住みます芸人”の松原タニシさん、紋様作家で怪談蒐集家でもあるAPSUさん、数々の霊体験をしてきた芸人ボンちくりんさんの三名をゲストに、怖い話をたっぷり2時間近く聞くことができるひとときとなった。

男湯の浴場スペースを使い、湯船にロウソクの入った風呂桶を浮かべて怪談ムード満点。
女湯を改造してお化け屋敷に! 男湯では怪談大会

女湯を改造してお化け屋敷に! 男湯では怪談大会

怪談が始まってしばらくすると、さっきまで何も問題なく点灯していたという非常口の案内灯が突如点滅し出し、浴場の中の雰囲気も重くなっていった。
女湯を改造してお化け屋敷に! 男湯では怪談大会

ゲストのみなさんの怪談の怖さはもちろんのこと、面白いのは、後半はお客さんも自薦で怖い話を語り始め、それがまた生々しくてかなり怖かったりした。遊園地に現れる幽霊の話を誰かがすると、「あ、遊園地と言えばこんなことがあったんですけど……」と、怖い話が数珠つなぎで続いていく。
そんなお客さんのノリの良さも素晴らしい。

個人的には松原タニシさんが最後に語った「ネットに絶対書かないで欲しいんですけど」から始まる話が怖かったな……。ネットに書けないのがもどかしい!


普段やったら怒られることをやる楽しさ


大盛況のうちに幕を閉じた「朝日湯~れい温泉」について、朝日温泉の三代目・田丸正高さんに伺ってみた。

――今回も、銭湯でお化け屋敷や怪談大会を行うという斬新なイベントになりましたが、どんなきっかけでこのアイデアが生まれたのでしょうか

田丸さん「共同開催者の水口グッチさんの『風呂場で怪談やったら面白そーやなぁ』という発言を聞いて僕もやってみたいと思ったのがきっかけでした。年中無休の朝日温泉を一日休まないといけないのがハードルでしたが、せっかくやるならと、夜の怪談大会だけでなく昼の時間から子供たちとなにか楽しいことができないかと考えた結果、お化け屋敷のアイデアが生まれました」

――お子さんもワイワイお化け屋敷作りをして、キャーキャー怖がっていましたし、怪談大会も本当に怖い雰囲気でみなさん楽しんでいたようでしたね。

田丸さん「オフロンピック開催時でもそうだったのですが、お風呂屋さんを使って、普段やったら怒られることを子供と大人が一緒になってやるというこの楽しさが伝わって、普段行くことが少なくなった銭湯に足を運んでもらうきっかけになれば良いと思っています。
朝日温泉に来てほしいから、ではなく、こういう経験から地域のお風呂屋さんに足を運んでもらうきっかけができたらいいなと思っています。回数を重ねていくことで浸透していけばいいなと思います」
女湯を改造してお化け屋敷に! 男湯では怪談大会


――お化け屋敷では田丸さんが湯船に身を隠しておどかす役をやられていましたが、あれはとても大変そうでした……

田丸さん「思っていたよりも隠れるのが大変で、浴槽に桶と椅子を放り込んでなんとか身を隠していました。浴槽の中はお湯ではなくて水にしていたので途中から外に出ると寒くて寒くて水の中にいる方が温かく感じるくらいでした!でも、みんなが怖がってくれるとこちらのモチベーションがどんどん上がっていってるのがわかりました(笑)最後の方はプロ意識が出てきました(笑)水面から目鼻口のみを出して潜っていたので、スタンバイしてる間に鼻から水を結構飲んで辛かったですね!」

――10月には会場を移してイベントを開催されるそうですね。

田丸さん「10月10日、銭湯の日に『すみよし湯ズニーランド~お風呂屋さんで会いましょう~』というイベントを住吉区民センター大ホールで開催します。地域を巻き込み、ボランティア団体も沢山協力してもらって銭湯をPRするイベントなんて、もしかしたら日本初かもしれませんね! 昔のお風呂屋さんは店開けたら勝手にお客さんが来たって時代で、わざわざアピールしないといけないことなんてなかったんですね。でも時代の流れでわざわざ銭湯に行くこともなくなったんですね。
今はお風呂屋さんも付加価値が求められる時代です。でも中にはアピール出来ないお風呂屋さんもあると思います。昔からのスタイルを変えない魅力的な風呂屋さんもまだたくさんあります。銭湯が無くなっていくことを止めることはできませんが、住吉にはこんなお風呂があるんやでぇ!って少しでも分かってもらえるようなイベントを作っていきたいと思って企画しました」

――音楽ライブやトークショー、「桶カーリング」や「のれん迷路」も行われるとか。

田丸さん「当日は銭湯に関連したワークショップから子どもでも遊べる参加型の催し、音楽ライブや、昔懐かしいのれんの展示など、色々やります。イベントを通じて少しでも多くの方に地域の銭湯の良さに触れてもらいたいですね。
銭湯は大事なコミュニティの場やと思いますので」

時代の流れから廃湯してしまう銭湯が後を絶たない昨今だが、朝日温泉のように柔軟な思考と高い意識を持ってチャレンジしている銭湯がまだあるのだ、と思うと、銭湯好きとしては明るい気持ちになる。今はまだ小さな動きかもしれないが、朝日温泉の試みが大阪へそして全国へと徐々に波及していけば、銭湯という場の価値が改めて見直される流れが生まれるはず。応援しています!
(スズキナオ)

※撮影協力:「すみよしフォトスタジオ」桑原卓宏さん

店舗情報:
朝日温泉

住所:大阪府大阪市住吉区南住吉3-11-8
営業時間:14:00~01:00
定休日:年中無休
2016年10月10日 12:00-16:00
すみよし湯ズニーランド~お風呂屋さんで会いましょう~
会場:住吉区民センター大ホール(大阪府大阪市住吉区南住吉3-15-56)