書道家・武田双雲が人類の終焉を説く
個展「深化」を開催中の書道家・武田双雲氏。個展の裏テーマはなんと「人類の終焉」!?

個展の裏テーマは「人類の終焉」!?


書道家の武田双雲さんの最新の作品展の裏テーマが「人類の終焉」!?
いつもにこやかで虫も殺さぬ顔をしているのに、本当に「人類の終焉」などという剣呑なテーマを掲げているのでしょうか。

現在、渋谷区神宮前のセゾンアートギャラリーで個展「深化」を開催中の武田双雲さんに直撃してみました。

「そうです、裏テーマは『人類の終焉』です」

――えー! それでは双雲さんは人類の滅亡を予言しているんですか!?
「いえいえ、滅亡とは言っていませんよ(笑)。
 終焉です。よく宇宙の始まりはビッグバンだと言いますが、始まりがあるなら終わりがあるはずですよね? その終わりを指して終焉と言っているんです」

なるほど、わかったような気にはなったけど、正直なところ、ビッグバンにまで話が及ぶとスケールが大きすぎてすぐには頭が整理できない。

――そもそも今回の個展はどのようなものなのでしょう?
「今回は初めて現代アート的なことにチャレンジさせてもらいました」


目指すは人々を楽に楽しくするアート


ほう、現代アートとはいかにもストリートから始まって、様々なアーティストとのコラボレーションに積極的に挑戦し続ける双雲さんらしい。でも現代アートって少し難しいというか、わかったようなわからないような……。現代アートってなんですか?

「実はオレもよくわかっていません(笑)。そもそもジャンル分けとかカテゴリー分けするのは得意ではありません。人によってアートとか、伝統書道とか、ジャパニーズアートとか、神聖芸術とか、モダンアートとか色々な言い方をしますが、正直どのようにジャンル分けされてもかまいません。
もし色々な枠組みがあるなら、そうしたあらゆる枠組みを全部利用したい全部利用してみんなの人生を楽にできればと思っています。人々の心が開放されて、楽しくなる。それが活動の目的で、それ以外には何の興味もないんです」

人々を楽に楽しくするための書であり、アートであると。では今回は現代アートの枠組みを使って、どのように人々を楽しませてくれているのでしょう?

「現代アートってよくわからないので、小学生みたいな発想なのですが、とりあえず書道家が普通はやらないことをやってみようと考えました。筆を使わなかったり、現代アートの作家が使うようなマテリアルを使ってみたりと。その結果、意外な発見がありました」


目指すは最強のポピュリズム


今回の個展はギャラリー全館(1階、B1階、B2階)を使った大掛かりなもので、作品数も30点以上と豪華。
いかにも「書」然としたものもあれば、変わった材質のものに書かれたもの、はては手書きの世界地図までもが展示されています。

書道家・武田双雲が人類の終焉を説く

――双雲さんは、伝統書道の文脈から自分を解き放ったことによって、どのような発見をしたのでしょうか。

「気づいたら自然塗料をキャンバスの上に垂らしていました(笑)。書道家は線質が命なのに、刷毛がキャンバスについていないし線質で勝負していない。それだけでも『おもしれぇー!』という感じです。書道ならすべてが単色で一発勝負という厳しい世界なのですが、何度も線を行ったり来たりしてもいい。本当に子どもみたいにワクワクしてしまいました」

――普段書いている書とはそんなに堅苦しいものなのですか?

「書ってストイックなものなんです。
伝わらなければ意味がないのですが、伝えるのって難しいですよね。特にオレはわかる人だけがわかればいいというのではなく、みんなに幸せになって欲しいと思っています。だから子どもであっても、おばあちゃんであってもわかってもらえるようにする、誰が見ても美しいと思えるものを書くようにする。ある意味究極の大衆迎合であって、最強のポピュリズムです。でも以前対談したときにユーミン(松任谷由実さん)も言っていたのですが、みんなに愛されるポップスというものが一番難しいんです」


ワクワク力=伝わる力


今回は書道家として自分に課している重荷を下ろして、タガを外したからこそのワクワク感が完全に炸裂している。
それこそがアートの本質でもあると双雲さんは言います。

「書道にしても今回の作品群にしてもそうですが、いざ和紙やキャンバスなどの小さなスペースに向き合ったら、技術的なものはこれまで積み上げてきたものしか出せません。
では何ができるかといえば、それはエネルギー値を高めることです。書く瞬間に、どれだけ深く楽しめるか、ワクワクできるか、感謝できるかが重要なんです。それができると伝わる力も強くなります」

なるほど、だからこそ今回の個展も非常にエネルギーに満ち溢れたものになっているのですね。
書道家・武田双雲が人類の終焉を説く
波動原理主義者を自称する武田双雲氏。作品に向かう前はエネルギー値を最大限に高めて一気に書き上げるという。



「つべこべ言わずに調和に向かえ!」


――ところで改めて今回の個展のテーマについて教えてもらってもいいでしょうか?

「産業革命、IT革命、AI、仮想通貨と、人類は猛スピードで進化しています。そうした進化は大事で素晴らしいものだと思いますが、あまりにも速すぎて心がついて行けていない人が出てきています。技術の“進化”だけではなく、心の“深化”も今大切なのではないか、というのが今回の個展のテーマです」
書道家・武田双雲が人類の終焉を説く
ビッグバンから始まって、人類の終焉までの歴史を表現したという作品。最後の一文字に注目!

では裏テーマの「人類の終焉」というのはどういう意味ですか?

「宇宙がビッグバンから始まって、今猛スピードで進化していますが、その到達点、行き着く先が“終焉”です。
ではその終焉とはどういうところでしょう? どうせどこかに向かうなら理想に向かった方がいい。オレにとっての理想とは調和です。そして最終的に調和のある世界が見えているなら、今をその世界にしてしまえばいい。もっとはっきり言うなら、つべこべ言わずに調和に向かえ! 人類を終焉させろ! というのが『人類の終焉』の意味するところです」

カルトな終末論が出てくるのかと思いきや、ロックでありながら双雲さんらしいポジティブなテーマが隠されていたのでした。

双雲さんのロックでポジティブなバイブスを感じたい人は、6月27日まで開催中の個展「深化」へと向かうべし!
(鶴賀太郎)