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チベット仏教僧がおもてなし、ロンドンの「仏教レストラン」が前衛的だった

2018年1月11日 11時30分 ライター情報:ケンディアナ・ジョーンズ
モダンなインテリアの店内

日本で「仏教レストラン」と聞くと、つい精進料理を連想してしまう。しかし最近のロンドンでは、どうやら趣が異なるようだ。

じつは今ロンドンで、和食とフレンチのフュージョン料理を掲げる「仏教レストラン」が騒がれている。英イブニング・スタンダード紙が「仏教レストラン」と取り上げた「フォー・ディグリー(Four Degree)」だ。

このレストランが特徴的なのは、チベット密教の名だたる高僧らを招いて、店内にて本格的な密教儀礼を執り行う一方で、料理は日本人シェフによる日仏フュージョン料理を提供するという点。日本人の中には、世俗的なレストランと神聖な仏教との組み合わせに違和感を覚えてしまう人もいるかもしれない。

一体どのようなレストランなのか。実際に訪れてみた。
香港と北京でオイスターバーをも営むオーナーはカキ養殖における水温の適温が4度であることに因み「Four Degree(4度)」と名付けた


店内ではどんな儀式が行われているのか


まずこのレストラン、店内には仏教寺院さながらに御本尊が鎮座している。インド・チベット密教の「赤ターラー(赤多羅)」と呼ばれる女尊だ (正式尊名「クルックラー」)。チベット密教において赤ターラーとは、異性を誘惑して引き寄せる呪術的な秘儀で主要な役割を担う「魅惑の女尊」である。この御本尊が、同レストラン2階のマッカラン・ウイスキー・ラウンジに設けられたお堂に祭られている。さらに、赤ターラーの目の前には密教法具に並んでお供え物なのかウォッカのボトルの姿も。なんとも不思議な空間だ。
マッカラン・ウイスキー・ラウンジと赤ターラーのお堂

特異なのは仏像だけではない。同レストランの新規開店の際には、東チベットからチベット密教の高僧が2週間にわたり招かれ、店内で密教儀礼が行われた。チベットには、マントラ(真言)と呼ばれる呪文やマンダラ(曼荼羅)と呼ばれる魔法陣で、成就法(せいじゅほう)という超自然的な呪術を実践する慣習がある。同店でもそういった儀式を期間限定で希望客に披露した。店内2階極西部の結界された一画において、3人のチベット仏教僧により「砂マンダラ」を描く密教儀礼が執り行われたのだ。
招かれた東チベットの仏教僧

具体的には砂マンダラ儀礼とは、チベットの伝統的なチャクプルという金属製の漏斗に色砂を入れ、ギザギザになった側面を棒でなで擦る際の振動で色砂を慎重に振り落とし、地道かつ細密に描くというもの。 「作善(さぜん)」という功徳のある行いだが、気の遠くなるような作業でもある。

1組3体の砂マンダラの個々の中心部には仏が描かれるが、主尊はもちろん赤ターラー。脇侍にはマンジュシュリー(文殊菩薩)とバジュラサットゥバが従う。砂絵を描いた僧侶によれば、赤ターラーを主尊とする砂マンダラはイギリス初とのこと。完成後、砂マンダラは壊され砂はロンドン中心地を流れるテムズ川に流されたそうで、まさに諸行無常なる世界観が広がっている。
店内2階で描かれた文殊菩薩の砂マンダラ


仏教を商売に使うのは不純な気がするけれど……


フュージョン料理のレストランで密教儀礼を客に見せるなんてと眉をひそめてしまう仏教徒もいるだろう。しかし、オーナーのグレース・ディンさんが仏教的な要素をレストランに取り入れた経緯は、宣伝目的ではなく、純真な仏教への信仰心からだったそうだ。

敬虔な在家の仏教徒であるディンさんは、新しい事業を展開するにあたり、商売繁盛を赤ターラーに祈願した。そしてチベットの仏教僧を介することによって、来店客にも赤ターラーからのご利益が廻向するようにとの思いがあったそうだ。東チベットから訪英中で、同店で儀式を行ったアディック寺の高僧アダック・リンポチェさんも、今回の縁を「檀家である信仰熱心なオーナーに依頼されたことがきっかけ。仏教とレストランは分けて考えている」と語ってくれた。
店内にある密教女尊の赤ターラー

英イブニング・スタンダード紙は同店を「仏教レストラン」と紹介してはいるが、実際のところ仏教のコンセプトは客寄せのためだけではなく、レストランの成功への願いが込もったオーナーの信仰心が元になっているようだ。

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ライター情報: ケンディアナ・ジョーンズ

イギリス在住10年を越える海外組の日本人。特にアートや音楽、さらに食文化に興味あり。趣味はハイキング。

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