毒が消える理由が謎のままの「ふぐの珍味」
画像提供=あら与
石川県だけ製造が許されている珍味中の珍味があるのをご存知だろうか。それは猛毒で知られるふぐの卵巣の糠漬け「ふぐの子糠漬」。


北前船の寄港地で県下一だった美川町では江戸時代からこの珍味が作られていた。1725年には年貢米の変わりに献上されたという記録もあるそうだ。

この「ふぐの子糠漬」は美川町で現在7軒が製造している(県内だと11軒)。フグはテトロドトキシンという猛毒を持っているというのは今や常識。中でも卵巣の部分はそのまま食べたら5,6人の致死量に相当する毒のカタマリ。しかしなぜか? これを塩漬けにしてぬか漬けにすると毒が消えて、とてもおいしいかす漬けになるのだそうだ。


フグの子は糠に漬けるまえに一年間、30%の塩水で塩漬けされる。使われる水も、白山という山から来る伏流水で自然のミネラル分が多く含まれているとか。その後、この塩漬けされたものを糠に漬け込み2〜3年で「ふぐの子糠漬」が完成する。

フグの毒は醗酵による微生物の働きで消え旨味だけが残るといわれているが、どうして毒が消えるのかはまだ解明されておらず、その製法を変えることができないそうだ。伝統を変えないのではなく、変えられない事情がある神秘の伝統食品なのである。

これを製品化する免許を取得できるのは、全国でもここ石川県だけ。
しかもその許可は社団法人石川県ふぐ加工協会が取得していて、伝統の味を残すために「ふぐの子糠漬」に創業天保元年(1830年)老舗「あら与」などの製造元や他の同業者が協同組合を結成、国に働きかけて取付けたものとか。伝統と実績があっての許可ということらしい。「ふぐの子糠漬」はそのまま輪切り(約3〜4ミリの厚さ)にして酒の肴にして熱燗でキューっとやるもよし。またお茶漬けも絶品!

あら与のホームページには「ふぐの子糠漬」の製造工程や歴史についても詳しく書かれているので興味のある人は是非のぞいてみては?もちろん「ふぐの子糠漬」の購入も可能だ。

猛毒ゆえに何度も禁止令が出されたフグ。にもかかわらずそれを何とかおいしく食べようという先人の知恵には驚かされるばかりである。
(こや)