行列のなかで、人は何をしているのか
みなさんは行列どのくらい待てますか?
先日、ある新聞記事で「関西の人は“いらち”(せっかちのこと)だから、待てない」として、関東の人と関西の人の、行列で待てる時間の差が、取り上げられていた。

自分などは関西でなく東日本の、もともとのんびりした山育ち(?)なのに、待つのがどうも苦手で、待ち合わせに遅れた友人を待てず、家まで迎えに行ってしまったことが何度もある。

また、エレベーターが全然こなくて、非常階段をのぼったこともあった(危険ですので、マネしないでください)。
待つことの何がイヤって、あの手持ち無沙汰感がたまらない。なんとも不安な、呆けた気持ちになってしまうのだ。

でも、行列する人たちにとっては、「どーしても食いたい!」、「買いたい!」ばかりでなく、おそらく「並ぶ」行為も含めて楽しみのひとつなのではないか。自分が知らないだけで、行列には何かスゴイ楽しいことがあるのかもしれないし、そんな楽しみがわからない自分は、無粋なのかもしれない。

そう思い、行列のなか、人々が何をしているのかを実際に調べてみることにした。

ある晴れた平日午後3時頃、場所はいま東京で最もホットな行列現場のひとつ、新宿サザンテラスのドーナツ店、「クリスピー・クリーム・ドーナツ」だ。

平日のこんな時間帯にもかかわらず、行列には主婦や学生らしき人だけでなく、サラリーマン風の男性、スーツ姿のOLさん、おばあちゃんなどもいた。
続々と列が移動するなか、ある時点で切って調べたところ、行列にいる人は全体で178人!
そのうち、新聞や雑誌、文庫本を読んでいるのはたった13人で、ケータイで話したりメールをしているのが21人。
ただし、2ケタの人数がいたのはこの2つのみで、あとは、DSをやっていた人が5人、メイク直しをしていた人が2人、互いのカメラで記念撮影をしてた人が5人1組、ドーナツを食べていたのが3人、ペットボトルで茶を飲んでたのが5人。
つまり、178人中54人が「一応、何かしていた」が、残る3分の2程度が、「何もしていなかった」のである。

もっとも、ドーナツを食べている人もお茶を飲んでいる人も記念撮影してる人もケータイでメールしてる人も、1時間半とかぶっつづけでやっているわけではないだろうから、この人たちすらもある時点では「何もしていない」わけだが……。

で、ほとんどの人に見られたのは「ただ黙って待っている」あるいは、「腕組みして待っている」状態だった。これは私のような手持ち無沙汰感なのか、それとも無の境地なのかわからないが、やはり傍から見る限り「行列、サイコー!」な人はほとんどいないようである。

行列という行為に、自分の知りえない魅惑的な何かがあるというよりは、本当に単純に「並んででも食べてみたい」だけなのか。
いや、意外にもグループでなく、一人で並んでいる人が多かったから、「〇時間も並んだのよ!」的な武勇伝、もしかしたらお得意先への手土産などの用途もあるかもしれないが。
ちなみに、以前、幕張のおもちゃイベントに行ったときなどは、待っている人の大多数がゲームをしているか、マンガや本を読んでいた。
やはり場所、目的によって、行列の過ごし方も異なるようで。


いずれにしろ、暑い中、「何時間も並んででも食べてみたいもの・会ってみたい人・見てみたいもの」を持てる人というのは、それだけでちょっと幸せかもしれないと思った。
(田幸和歌子)