株式会社 書泉は、東京の書店街、神保町界隈に3店舗、ビル型の書店を構えている老舗大型書店。創業は1948年10月だが、株式会社となったのはその2年後。
ラノベ、格闘技、アイドル、鉄道など様々なジャンルのマニアックな品揃えも有名だが、購入した本を入れる洒落たデザインのしおりやブックカバーにビニールバッグなどで、本好きのハートをくすぐり続けて幾星霜の本屋さんなのだ。なんといっても、ここのビニールバッグ、しっかりした材質で、大量に買った本を入れても持ちやすく、リユース性も高い。2~3カ月サイクルで変わるそのデザインも高ポイント。

ところが、2008年9月頃に導入されたバッグは、濃い色がついているのに中身がちょっと透けるペラペラのビニール製。長方形型で、上部に楕円形の穴が持ち手としてついている、よくある本屋のバッグ(サイドシールバッグ)なのだ。でも、私以外のお客さんの中には、長方形の袋に2本把手がついたベルバッグと呼ばれるいつもの書泉のバッグを持っている人も。


急に、長年お世話になった使いやすいバッグからこのサイドシールバッグに至るまでの、書泉さんのバッグの歴史が気になってきた。それについて色々と教えて下さったのは、(株)書泉の鈴木保子さん。

「しおりやブックカバーのデザインで、当店ならではの個性を打ち出すのは、創業当時からやっております。しおりのコレクターの方々とは交流もあるのですが……バッグですか?」
書泉さんの歴史からすると、バッグのデザインに懲り始めた時期はさほど早くなかったご様子。
残念ながら、私は、書泉さんが紙袋を配っていた時代を知らないが、1980年代の黒と金が映える光沢のある質感のビニール製の巾着型バッグ(フィンバッグ)は覚えている。
「それは、ビニール素材の中では、かなり初期のものですね。
しおりと同様に、創業者で先代の社長だった酒井正敏のアイデアで始まったんです」
 
だが、「フィンバッグからベルバッグにシフトした時期や、季節ごとにバッグの色や絵柄を変えるようになった時期については、正確な記録が無い」のだそう。
デザイナーさんについては、「毎シーズン2、3人いらっしゃるでしょうか?」とのこと。デザインによっては、シリーズ化されているものもあるそうだ。
「最近のものでは、アンディー・バーガーさんという方が担当されている、クマのブラウニーちゃんの絵柄などがそうです」
そういえば、私のコレクションにも、クリスマスバージョンのそのクマちゃんバッグがあったかも。

「しおりとは異なり、バッグに関しては、お客様にどのデザインが一番人気があったのかわからないままなんです。接客する店員の意見はよく参考にしますが。
いい素材で、デザインが良ければ、お客様に当店の袋を普段使いにして頂けるんじゃないかと思っただけで……時折、雑踏の中、現在は差し上げていない昔のバッグをお使いの方を見かけますし」

書泉さんの悩みは、バッグのデザインが、利用客に支持されているのかということ。
「袋をリユースしておいでの方は、私が見かける限り女の方が多いような気がするのですが、当店は男の方のご利用が多いんです」

また、エンターティメントの多様化、電子書籍などの台頭による売り上げ低下という問題もある。それなのに、書泉さんのバッグは、材質やデザインの面で、製造コストがかかるのだそうだ。この問題については、多色刷りをやめて、単色刷りデザインにシフトしたという。しかし、しっかりした素材のバッグを作るにも、石油系素材は去年1年だけで10%も値上がりしている。
その上、「書泉のビニールバッグのリサイクル料金は当社が負担するのですが、重い素材だと料金がそれだけかかるんです」
あの素敵なビニールバッグの裏には、見えない負担もあったのだ。

それに、環境問題を考えると、いい素材のビニールバッグを買い物客に配るのはエコじゃないと考える方もいらっしゃるだろうしなあ。

今回導入されたサイドシールバッグは、製造費も、リサイクル料金も安く抑えられる。だが、袋の中身が透けてしまうのが難点。利用客のプライバシーを考え、もう少し透け難い素材に切り替える予定とか。
取材に伺った9月末の時点では、小型書籍用と、雑誌などの大判サイズ用のサイドシールバッグ2種の他に、従来通りのしっかりした素材のバッグ4種が存在するとわかった。

お話を伺ってみてびっくりしたのは、バッグに関しては、利用者の声が書泉さんに届いていない様子だったこと。
私自身、今回のことが無ければ、ひっそりバッグを集め続けているだけで終わったに違いない。なんとか、この書泉さんの持ちやすいバッグが存続するといいと思うのってワガママ?
(いぬい亨)