パスタは、テレビ番組や雑誌でも「女性に人気」と謳われることが多いし、一般的に「女性が好きなもの」「デートや女子会でよく食べるもの」というイメージがあるように思う。

でも実は、スタンドなどの一人客が入りやすいパスタ屋に行くと、男性客が圧倒的に多いことが以前より気になっていた。


女性の場合、一緒に食事する相手との無難なセレクトとして「パスタでも食べる?」というのも多いが、一人でパスタ屋さんに来る男性というのは、もっと熱く積極的にパスタを求めているように思う。

「ナポリタン=男性」のイメージはあるが、そればかりじゃなく、パスタ全般が好きな男性が多い気がするのだ。

そんなことを考えていたら、積年の「男性の熱烈なパスタ好き」説を確信する本が出た。すでに各所で話題になっている、ペペロンチーノでまるまる1冊になった本『男のパスタ道』(日経プレミアシリーズ)だ。
著者の土屋敦さんにお話を伺った。

「パスタ好きの男性は非常に多いと思 います。
昔から周囲にも多いですし、ネット上などでもパスタのゆで方や銘柄について議論している人は、20年前からたくさんいました。私の本も(タイトルからして当たり前といえば当たり前ですが)、購入者のほとんどが男性で、すでに2回増刷がかかっていますので、それだけパスタに興味のある男性が多いとい うことでしょう」

男性にとってのパスタの魅力とはどんなものなのでしょうか。
「まず、そもそも麺が好きな男性が非常に多い。私の知る限り、ラーメンやうどん、蕎麦が好きな男性の多くはパスタも好きです。外食におけるパスタに『女性が好きなもの』というイメージがあるのは、単にパスタがおしゃれなカフェやイタリアンで供されているからでしょう。そういう店に男性は一人で入りにくい。
一方、スタンド系の『ロメスパ』は男性ばっかり。この業態はラーメン店などに通じ、麺好きの男性が心置きなくパスタ(というよりスパゲッティと言ったほうがしっくり来ますが)を堪能できます」

一人暮らしの男性が家で作る料理としても圧倒的に多いのが「パスタ」だと思うが、それはなぜ?
「乾燥パスタは保存が効くので、ときおり自炊をしたい男性にもパスタは非常に重宝するものです。また、唐辛子も長期保存可が可能で、にんにくも生鮮食品に比べれば長持ちするので、ときどき、ペペロンチーノを自宅で作る一人暮らしの男性は多いと思います。それを繰り返しているうちにだんだん凝ったパスタ作りにハマる人も出てきます」

そんな土屋さんにとって、パスタとは「一人暮らしを始めた19歳のときから、なくてはならない存在」だそう。
「パスタがほぼ主食という時期もありました。パスタを日々作っていたことで料理に目覚め、ついには料理研究家になったわけですから、恩人のような存在でもあります」

他の麺類とは違う、パスタの魅力とは?
「パスタは他の乾麺と違って麺に塩が入っておらず、デュラム小麦と水だけでできている、究極にシンプルなものなのに、ゆで方ひとつとっても非常に奥が深い。
ちょっとした扱いの違い、味が変化するので非常に面白い。食感の違いを感じたり、ソースとのからめ方を工夫したりと、料理作りにおいて『細部』を意識するようになったのもパスタのおかげです」

そもそもペペロンチーノで1冊の本を書いた理由については、次のように語ってくれた。
「単にパスタの本を作ろうとしたら、ペペロンチーノに関する部分だけで20万字ぐらいになっちゃって、泣く泣く削って、現状の本の形になっただけです。最初に編集者と企画を話し合ったとき、『ペペロンチーノだけで一冊書けちゃったらウケるかもしれないけど、まさか、絶対無理だよね。トマトソース系やクリーム系も入れて本にしよう』と話していたんですが、そのまさかが実現して、さらに削るはめになるとは。まあ、そんなにたくさん書けるってことは、それだけパスタの世界が奥深いってことでしょう」

麺類が好きで、なおかつ、凝り性の人も多い男性が、パスタを愛するのは、実はごく自然なことなのかも。

(田幸和歌子)