■「抱きしめられたい」と言っていた彼女が「抱く側」に
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 障害のある方を顧客対象(専門)とした障がい者専門デリヘル「はんどめいど倶楽部」で働くまゆみさんだが、彼女自身もまた身体に障害をもっている。

 昨秋、障害者の恋と性についての特集が組まれた番組内で、自身のそれらエピソードを語っていた。

 まゆみさんは、「この人なら障害をもつ自分のことを受け入れてくれる」と思っていた人と肉体関係をむすぶに至るが、その際に相手の男性から心無いひどい言葉を言われ、深く傷ついてしまう。まゆみさんは番組の最後に、「誰かそばにいてほしい。壊れるほど抱きしめてほしい」と、切なる心の叫びを話されていた。

 ところが「抱きしめてほしい」と語っていたまゆみさんは、前述のデリヘルでデリヘル譲として働くことになる。なぜ「抱きしめられたい」と言っていた彼女が「抱く側」になったのか? 障害を持つ身体で風俗の仕事をすることに不安はなかったのか? などの疑問をぶつけてみた。

 まゆみさんは、子どもの頃から性に対して興味が強く、風俗の仕事やそれに就くことに抵抗もなく、やってみたいとさえ思っていたという。

不安がなかった訳ではないが、不安な点はすべてデリヘル店オーナーに尋ねた。そしてもしそこでオーナーに「その身体で何ができるのか?」と言われれば、この話はここで終わっていたかもしれないが、オーナーは「キャストが障がい者でも良いのではないか?これこそ真のバリアフリーではないか?」と思いが至り、デリヘル譲まゆみさんが誕生することとなった。

 まゆみさんは「抱きしめてあげる」ではなく「一緒にあたたかくなりましょう」というスタンスで仕事をしていきたいという。この時点でまだまゆみさんは、実際に仕事には就いておらず、体を重ねる性的サービスの感触が体感としてつかめてないのではないか?と思ったのだが、オーナー曰く「店のコンセプトが恋人同士のような関係をキャストとお客様で作り上げていくこと、というのもあるからマニュアルはない。ふつうの恋人同士だってそうじゃないですか」と言う。

 しかし、自由の利かない身体で裸で見知らぬ人と密室に入るということに、危険や不安はないのか?という疑問が根強くあった為しつこく聞いてみたところ、完全予約制をとっていて、エントリーシートに自己の諸々を記入した上に面接をし、オーナーが客の安全性を判断してOKが出て初めてサービスを受けることができるシステムであることや、顧客に介助の必要性がある場合やキャストの安全面を考慮して、オーナーも同行し近くで待機する(オーナーはもともと介護福祉士として働いていた経験も持っている)。

■自分も誰かの役に立ちたいという願い

 そのようなシステムやオーナーの人となりに信頼を寄せ、まゆみさんは安心して仕事に就けているという。

 子どもの頃から人の手を借りる必要のあったまゆみさんは、「ありがたい」という気持ちと「申し訳ない」という気持ちが同時にあり、自分も誰かの役に立ちたいという思いが強くあった。

 そして、「自分は何もできない駄目な人間」と何かをやる前にすぐに思ってしまう自分自身を、この仕事をすることで叩き直せると思ったそうだ。まゆみさん曰く「自分を売りにする仕事なので、自分を肯定する力、良いところを自身できちんと認め強みにする脳力が必要な仕事なので、私なんかなどと思っている暇などない。ネガティブな空気が漂っているキャストにお客がついてくれる訳が無い。とにかくまず自分を肯定し認め、芯からポジティブにならないと、良い時間は作り出せない」と気付いたと言う。

番組内でも話されていたが、まゆみさんは以前交際していた男性と性行為がうまくできなかった。

 それは相手の男性がアダルトビデオや性的な情報を教科書と信じ込み、まゆみさんの身体的特徴を無視した体位ややり方を強いた為だ。散々強いて振り回した挙句にうまく事をできず「所詮脳性麻痺だな」とひどい言葉を放つ。まゆみさんの障害を承知の上そうしたというのに。

 相手は更には「セックスボランティア感覚」で関係を持ったと開き直る。後日頭を下げたのだが、謝罪の言葉を言い終え頭をあげるその彼の口元に浮かぶニヤツキを、まゆみさんは見逃さなかった。

 そんな経験をしているというのに何故に密室で裸で二人になる仕事をしようと思うのか?ともう一度尋ねてみたところ、「嫌な人にもたくさん出会ってきたけど、それと同じくらい良い人にもたくさん出会ってきた。だからどうしても人を嫌いになれない」と語る。

■社会や人の心のバリアフリーにつながる

 まゆみさんに話を聞いてから4か月の時が経ち、今ではリピーターが付くほどになった。

「やり方はいくらでもある。一般的なやり方に当てはめたり自分の中でのマニュアルを作るとできないことも多いが、その時の相手との感触や間合いをみてコミュニケーションをよくとるようにしている。次また別のやり方を試してみたり、リハビリの先生に身体の動きのことなど教えてもらい研究している」と言うまゆみさん。

 一般的な情報や他に自己を照らし合わせて判断したりすることは、何の役にも立たなかったり可能性を狭め広がりを押さえつけることもある。

 それは障害の有無に関係なく言えることであり、身体の自由に制限のあるまゆみさんだからこその説得力ある言葉だ。

 彼女がこの仕事をするうえで必要と言っていた「個々の特性を強みとして肯定する脳力」とは、彼女以外の人や社会にとっても、必要であり大切なことではないかと思える。何故ならそれこそが、社会や人の心のバリアフリーにつながる始まりの一歩に思えてならないからだ。