新宿から電車でおよそ10分、1日に11万人以上が乗降する下北沢駅。これまでの下北沢は、古着や芝居などのイメージが強かったのではないだろうか? しかし下北沢周辺では、現在、線路の地下化や駅舎工事などが行われており、以前とは違う下北沢になりつつある。

今回は、「複々線化」が進む小田急線の動きを中心に、小田急電鉄に話を聞いた。

「開かずの踏切」。以前は最大で1時間に50分以上も開かなかった?!

現在、小田急小田原線では、東京都の「連続立体交差事業」と小田急電鉄の「複々線化事業」が一体的に行われている。簡単に言えば、これまで地上にあった線路を地下に移し、「開かずの踏切」を解消する連続立体交差事業とともに、上下線各1本だったもの(複線)を各2本に増やす(複々線)計画だ。2004年から始まったこの工事は、現在はどこまで進んでいるのだろう? 複々線建設部・課長代理の山野泰弘さんが話してくれた。

「現在行っている工事は、地下のトンネルに4本の線路を通す工事です。

下北沢周辺は、『2線2層構造』(地下に緩行線トンネルと急行線トンネルの2つのトンネルがある状態)となっており、トンネルのさらにその下にもうひとつトンネルがあるイメージです。2013年3月に一番下の急行線トンネルが完成して、これまで地上にあった鉄道が現在はそこを走っています」(山野さん)

小田急線では、これまで朝方ラッシュピーク時の混雑などが問題視されてきた。車両の長編成化や列車の増発など、さまざまな対策はしてきたものの、大幅な混雑緩和には至らず、さらに速達性の悪化や電車の渋滞、開かずの踏切などの問題もあったという。鉄道を立体化し、さらに複々線化をすることで、それらの問題を一気に解決しようというのが、この事業の狙いだ。

複々線化・ダイヤ改正で「下北沢」が変わる。小田急の取り組みとは?

【画像1】複々線化することによって、混雑緩和や所要時間短縮などが見込まれている(画像提供/小田急電鉄)

2013年3月に地上を走っていた線路を地下の急行線トンネルへ切り替えるまで、下北沢駅周辺には、開かずの踏切が9カ所あり、最長で1時間に50分以上も閉まっていた時間帯もあったのだそう。しかし、線路が地下化されたことで、開かずの踏切問題とそれに伴う周辺道路の混雑などは解消された。

「地下化以降は、残る緩行線トンネルの構築や下北沢・世田谷代田・東北沢の3駅の駅舎工事をやっていて、2017年の3月には、ようやくトンネル工事が完了します」(山野さん)

すでに、東北沢の駅舎は2016年11月に完成し、世田谷代田駅も2017年3月に完成予定。「下北沢駅については、2018年度末には完成予定」とのこと。2017年度末には緩行線トンネルも開業し、複々線での営業を開始する予定だが、それまでの間、線路の整備や信号設備、電車線の整備工事があるため、まだまだ気が抜けないとのことだ。

複々線化・ダイヤ改正で「下北沢」が変わる。小田急の取り組みとは?

【画像2】2017年3月に完成予定の世田谷代田駅舎の外観イメージ図(画像提供/小田急電鉄)

複々線化・ダイヤ改正で「下北沢」が変わる。小田急の取り組みとは?

【画像3】2016年11月に完成した東北沢駅舎の外観イメージ図(画像提供/小田急電鉄)

2018年3月のダイヤ改正で混雑も緩和する見込み

通勤・通学に電車を使っている人にとっては、ダイヤの改正や交通アクセス向上も気になるというのが正直なところ。これについて話してくれたのは、交通企画部・課長代理の飯田尚宏さん。

「2018年3月にダイヤ改正を予定しています。

今回は、『混雑緩和による快適な輸送環境の提供』『所要時間短縮による都心方面へのアクセス向上』『千代田線直通列車増発による都心中心部への利便性拡大』の“3本の柱”をもとに抜本的にダイヤを変える予定です。現在、世田谷代田-下北沢間がもっとも平均混雑率が高く、191%(体が触れ合い、やや圧迫感がある)。ダイヤ改正後は、これが160%程度(新聞・雑誌を楽な姿勢で読むことができる)になる見込みです」(飯田さん)

ダイヤ改正はまだ先のため、具体的にどれほどの時間短縮ができるか何とも言い難いところではあるが、目安として、町田~新宿では10分短縮。登戸や新百合ヶ丘から新宿間などでは、5分以上の短縮が見込まれている。

複々線化・ダイヤ改正で「下北沢」が変わる。小田急の取り組みとは?

【画像4】通勤ピーク時の所要時間の比較。10分短縮されれば、仕事前に一息つく時間も確保できそうだ(画像提供/小田急電鉄)

「最近は小田急沿線から新宿方面だけでなく、千代田線直通の代々木上原方面への利用も増えています。

代々木上原までは線路が複々線化されるので、新宿方面の列車も増えますが、千代田線直通列車は、現行5本から12本に増えます(※)」(飯田さん)
※ピーク時1時間当たりの本数

「子育て世帯も住みやすい街」を目指して、開発が進む下北沢

交通利便性が高まるのは鉄道だけではない。これまで下北沢では、駅前にロータリーがなく、タクシーやバスの乗り入れができなかったが、駅前広場を整備することで改善されるという。

「下北沢駅は、タクシーやバスを利用するには、少し離れたところに移動する必要がありましたが、世田谷区さんが整備する駅前広場が完成すれば、交通利便性は格段によくなります」(山野さん)

電車だけでなく、タクシーやバスでの移動も選択肢に。それだけでも、ユーザーにとってのメリットと言えそうだ。

ところで、線路がなくなったスペースに何ができるのかが気になる。開発推進部・課長代理の阿部拓人さんは、鉄道工事が完了した場所から上部開発が進むという。

現在、どこに何ができるなどの詳細は検討中らしい。

とはいえ、大まかなイメージはできているそうだ。

「下北沢は若者に人気の街ですが、子育て世帯には住みづらいという声がありました。小田急単独ではなく、世田谷区さんと連携しながら、子育て世帯も住みやすいと感じられるような街づくりを目指しています」(阿部さん)

たしかに、これまでの下北沢は古着や芝居など、いわゆるサブカル的なイメージが強かった。また、狭い路地が多い印象があるが……。

「東北沢・下北沢・世田谷代田の3駅間は、実は徒歩圏内でそれぞれの距離が700mくらい。

これまでは狭い路地を移動しなければいけませんでしたが、もともと線路があったスペースが空いたことで、これらの3駅を直線的につなぐ世田谷区の通路が整備されます。駅前のメインストリートで車を気にせずベビーカーを押せる地域は、都心ではそうありませんよね。子育て世帯を意識した住宅や小さな公園もあり、子育て世帯にもイメージできる地域に生まれ変わると思いますよ」(阿部さん)

スペースができ、広がることによって、防災面の脆弱性も解消。緊急車両も通りやすくなる。実はすでに上部開発の第一弾は終了しているそうで、「昨年2月に世田谷代田に子育て世帯を意識した『リージア代田テラス』という賃貸住宅をつくりました。富士山が見える部屋もあるんですよ」と、阿部さん。

なんでも、トンネルの終端、電車が地下から地上へと顔を出すところでは、富士山の姿を見ることができ、ちょっと自慢できる街の魅力といえそうだ。

住んでも良し、遊びに行くも良し、乗り換えに使うも良し。以前の面影を残しつつ、さらなる進化を遂げる下北沢周辺。今後の動向からも目が離せない。

●取材協力
・小田急電鉄●参考
・小田急線の複々線化事業について
・シモキタ・スタイル
・シモチカナビvol.15~16
・小田急電鉄ニュースリリース(2013年11月21日)
・小田急電鉄ニュースリリース(2016年2月24日) 元画像url http://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2017/03/129924_main.jpg 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル