「ジャンボジェット」の愛称で広く親しまれたボーイング747ですが、2017年7月現在、その旅客型の生産が終了間近といいます。海外を身近なものにした功労機はなぜ消えつつあるのでしょうか。

日本国政府専用機の747、まもなく777へ

 2017年7月23日(日)に、航空自衛隊千歳基地において航空祭が開催されました。千歳基地には首相や外務大臣など政府要人の外遊や皇族の表敬訪問などで活躍する政府専用機、ボーイング747-400が所属しています。普段ではなかなか見る事のできない政府専用機が、航空祭では間近でその姿を見る事が出来るとあって、多くのファンが集まります。

 例年であれば千歳基地のF-15Jと編隊飛行を組んだり、飛行デモを披露したりするのですが、今回は天候の関係で残念ながらキャンセルとなりました。

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千歳基地航空祭で通過飛行する、日本国政府専用機747-400(2017年7月、石津祐介撮影)。

 その政府専用機ですが、2019年度に747から同じボーイングの777へ機種変更がされる事が決定しています。

次期政府専用機の選定においては、同じくボーイングの787やエアバスのA350などが候補に挙がりましたが、787は執務室や貴賓室など機内スペースの関係で、A350は日米同盟の象徴としてアメリカのボーイングを優先するとの理由で、候補を外れたと言われています。

「ジャンボジェット」はなぜ消える? 世界を狭くしたB747旅客機、生産終了への経緯

整備などの運用はJALが担当してきた(2017年7月、石津祐介撮影)。
「ジャンボジェット」はなぜ消える? 世界を狭くしたB747旅客機、生産終了への経緯

緊急時の在外邦人輸送にも使用される(2017年7月、石津祐介撮影)。
「ジャンボジェット」はなぜ消える? 世界を狭くしたB747旅客機、生産終了への経緯

次期政府専用機は777-300に機種変更され、2019年度から運用開始予定(2016年4月、石津祐介撮影)。

 政府専用機は1991(平成3)年から運用されていますが、操縦士などの乗組員は航空自衛官で、その整備や機内食の提供などの運用はJAL(日本航空)が行ってきました。ところが現在、JALの747型機は全て引退しており、既に老朽化した機体は燃費効率も悪く、早急に更新をする必要がありました。

 ANA(全日空)からも旅客型の747はすべて引退しており、日本のエアラインや航空自衛隊が保有する現役の旅客型747は2017年7月現在、この日本国政府専用機のみです。そして世界的にも数を減らしており、その生産はすでに風前の灯といいます。

「ジャンボジェット」の愛称で広く親しまれたあの747が、なぜそのような現状に陥っているのでしょうか。

747の半世紀 海外旅行を身近にした「ジャンボジェット」

 そもそも747とは、どのような飛行機だったのでしょうか。

 先述のように、「ジャンボジェット」の愛称で親しまれた747は1969(昭和44)年に初飛行し、1970(昭和45)年にはパンアメリカン航空のニューヨーク~ロンドン線に就航しました。それまでの国際路線は150~200人程度の乗客数であるナローボディー機のボーイング707やダグラスDC-8が主役でしたが、この747の登場によって旅客機の大量輸送時代が始まりました。

一度に多くの乗客を運べるので航空機の運賃も値下がりし、海外旅行をより身近な存在にした機体ともいえます。

 航空機はその後、さらなる高速化と大型化を目指して進化しました。高速化を目指した航空機「コンコルド」は最大速度マッハ2.0で飛行が可能でしたが、輸送コストや騒音、航続距離の問題、墜落事故などが原因で2003(平成15)年には引退しました。

「ジャンボジェット」はなぜ消える? 世界を狭くしたB747旅客機、生産終了への経緯

成田空港に着陸するタイ航空のA380。747のライバルとして登場した大型機(2017年2月、石津祐介撮影)。

 一方、大型機の市場を独占していた747のライバルとして、エアバスのA380が2005(平成17)年に登場しました。

全2階建の機体で、最大800人以上の乗客を輸送する事が可能な世界最大の旅客機です。ボーイングは、まだ開発中だったA380に対抗する機体として747の新型プロジェクト「747X」の開発を進めていましたが、需要が見込めないと開発計画は2001(平成13)年に中止され、中型機である787の開発に注力することになりました。

開発計画復活、新型をリリースするも…

 一度は747の新型開発を諦めたボーイングですが、2005(平成17)年に新たな「747-8」の開発を決定します。大型機の需要が、航空機市場でまだ見込まれることと、新たに開発した787の技術を活かせばコストを掛けずに新型機が開発できるという判断でした。747-8は貨物型の8F(フレイター)と旅客型の8I(インターコンチネンタル)が開発され、2010(平成22)年には初飛行を行いました。

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羽田空港を離陸するルフトハンザの747-8I(2016年12月、石津祐介撮影)。

 8Fは日本貨物航空やキャセイパシフィックなどが、同じく貨物型である747-400Fの機材更新用として導入し、ある程度のセールスを記録しましたが、旅客型の8Iは777や787などの双発機が航空機需要を占める現在のマーケットには受入れられず、現在はルフトハンザ(ドイツ)、大韓航空、エアチャイナが運用するのみとなっています。

 そのような状況から、8Iは2016年より減産体制に入りました。軍用としては、アメリカ大統領の専用機であるエアフォースワン(747-200Bの改造型VC-25)の更新用に3機の導入が決定しており、また貨物型の需要は見込まれるものの、旅客型は2017年7月現在、受注残が2機にまでなってしまいました。このまま新たな注文が入らない限り、旅客型の747は生産が終了する可能性が大きいと言われています。

なぜ旅客型の4発機は淘汰されつつあるのか

 エンジン2基の双発機が需要を占めるようになったのには、もちろん理由があります。

 かつて双発機は、洋上や極地のように空港がなく緊急着陸が出来ないエリアの飛行を禁じられており、言わば短距離専用の航空機でした。

ところが時代の進化にともないエンジンの信頼性が上がると、「ETOPS(Extended-range Twin-engine Operational Performance Standards)」という審査基準が設けられ、双発機でも長距離の運用が可能になりました。

 これにより燃費や整備面で優れる双発機が、3発や4発の大型機と同じ路線に導入される事になり、結果、747やダグラスDC-10、ロッキードL-1011「トライスター」などの機種が姿を消すこととなりました。

「ジャンボジェット」はなぜ消える? 世界を狭くしたB747旅客機、生産終了への経緯

「ETOPS」認定を受けたANAのボーイング787(2016年11月、石津祐介撮影)。

 747-8は、貨物型や要人輸送機としての受注は続くようですが、双発機が中心の現在のマーケットでは、旅客型の生産継続は難しい状況となっているようです。

 半世紀にわたり活躍した夢の大型旅客機747、その生産が静かに終わりを告げようとしています。

【写真】引退なぞどこ吹く風? ボーイング747最新型、8F

「ジャンボジェット」はなぜ消える? 世界を狭くしたB747旅客機、生産終了への経緯

香港国際空港に着陸するキャセイパシフィックの747-8F。同じ747でも貨物型は当面生産が続くと見られる(2016年3月、石津祐介撮影)。