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アルファード/ヴェルファイアの深い悩み

2018年2月13日 06時33分 (2018年2月14日 07時31分 更新)

トヨタ全モデルの中でも「売れるクルマ」であるアルファード/ヴェルファイアのマイナーチェンジが行われた

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 トヨタ自動車はアルファード/ヴェルファイアのマイナーチェンジを行い、1月8日に発売した。

 価格は335.5万円から751万円。立派な高級車の価格であるにもかかわらず、ピークの2015年には国内でアルファード/ヴェルファイアの兄弟車合計で年販10万台超えを達成した。17年実績でも9万台オーバー。合計とはいえその台数はヴィッツに匹敵する。トヨタでも屈指の売れるクルマだ。

●マイナーチェンジの中身

 マイナーチェンジで最も力が入っているのは予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense」の第2世代の初搭載だ。従来トヨタは比較的安価な「Safety Sense C」と上級版の「Safety Sense P」の価格帯ハイロー戦略を取ってきたが、第2世代ではこれを統一し、車両の価格に関係なく同等の安全が確保できることを目指すという。

 それは、カメラとレーダーが小型化された恩恵であり、ヴィッツ・クラスであっても取り付けが可能なサイズまでユニットをコンパクト化できたことによる。ただし、現実問題として車両の基礎設計年次によってはセンサーやフィードバック系のチャンネルが違うため、機能のすべてが完全に同等というわけにはいかない。ただ、トヨタの方針としては、それをそろえていく決意なのだと言う。

 パワートレインはV6 3.5リッターと、直4 2.5リッターに加え、ハイブリッドという構成になる。乗って見るとやはりV6が良い。ハイブリッドがダメというわけではまったくないが、高級車然とした振る舞いをこのクルマに求めるのであればV6にアドバンテージがある。

 他のグレードでも傾向は変わらないが、アルファード/ヴェルファイアは、実は結構なドライバーズカーだ。もちろんトヨタがTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)採用モデルでたびたび言うような「意のままに」というクルマではないが、しずしずと走らせるものとしては、見識の高さを感じるセッティングだし、操舵に対するクルマの動きも悪くない。

●四角いミニバンの宿命

 丁寧に運転すれば、Gの総量を一定にしたまま加減速から旋回へと滑らかにつなげることができる。初代アルファードの、ステアリングギヤが2割引されているような不感症操舵から思うと隔世の感がある。少々感心してセカンドシートに移った。

 ミニバンは皆そうだが、走り出した瞬間から疑問符である。かかとで感じる床板の振動がひどい。のみならずその振動をシートフレームが伝えてシートバックがずっとビリビリと振動している。これよりひどい振動のシートは記憶にある限りクライスラー・ボイジャーだけだ。あれは2列目と3列目のシートを床下に収納するために、床の剛性部材が削られ、折りたたみ機能のためにシートのフレームもぐにゃぐにゃだったので、あまりの振動に背もたれに体を預けていられず、横を向いてドアを背もたれにしたほど酷かった。

 さて、それに比べればマシではあるものの、ボイジャーを思い出させた時点でトヨタの負けである。何でこんなことになっているのか? それが今回のテーマである。

 例によって長話なので、気長に読んでいただきたい。まずはパッケージだ。クルマのシートの座面というのは、後ろにいくほど高くなるのがセオリーだ。これをシアター配列と言う。それは前方視界が後席パッセンジャーの開放感に直結するためで、後ろにいくほど座面が下がると、穴蔵に押し込められたようになる。だから後席を優先とするなら、運転席の座面は低く設定したいのだ。

 ところが、アルファード/ヴェルファイアは今過渡期にある。オーナードライバーが自ら運転するクルマから、後席にオーナーが座って運転手に運転を任せるショーファー・ドリブン・カーへと徐々に移行しつつあるのだ。はっきりと後席優先にしきれないジレンマを抱えている。

 自ら運転する人からは「運転席からの見下ろし感が嬉しい」という声があるらしい。周囲のクルマがセダンであればそれが高級車であろうとも、高所から睥睨するのが満足感につながるのだそうだ。そういうはしたない発言をするオーナーがいるからアルファード/ヴェルファイアのイメージが何ともなことになっているのだが。

 さて睥睨したいとなれば、1列目のシートは高くしなくてはいけない。当然そうなれば2列目、3列目はそれより高くということになる。これをやると不都合が出てくる。2列目シートがどうしたって床に対して座面が高くなる。学校の椅子のような座り方だ。思い出してほしいのだが、ソファの座面は低く、学校の椅子の座面は高い。運転手を雇って踏ん反り返るための2列目キャプテンシートであるにもかかわらず、背筋を伸ばしてお行儀よく座る姿勢になってしまう。

 このクルマの2列目シートは、床に対してもっと座面を低く、そして座面の前上がり角を大きく取るべきだ。それは豪華なオットマンを付けるより優先すべきことだろう。座面が水平だとちょっと強めのブレーキを掛けただけで、体が前へ滑り、足を突っ張って支えなくてはならなくなる。しかもこのクルマをそういう風に使う人がモケットシートを選ぶはずはなく、最低でも合皮、多くは本革シートだから余計滑る。

●運転するのはオーナーか運転手か?

 チーフエンジニアにいったい1列目と2列目どっちを大事にしたいのかと尋ねると、「これからという話であれば、このクルマは運転手付きの方向にしていきたいと考えています」と言う。「だったら」と言えば、「と申しましても、国内で10万台を売っていきたいと考えると、現状ではドライバーカーとしての部分もなかなか切り捨てられないのです」。責任のない外野のたわごとかもしれないが、岡目八目とも言う。ここを割り切らないとこのクルマは先に進めない。

 さて、では振動はなぜ出るのか? そもそもミニバンという車型に無理がある。四角い箱にスライドドア。運転席はAピラーとBピラーで前後を輪切り方向の環状構造に挟まれている。3列目もCピラーとDピラーで同様である。しかしスライドドアの場合、BピラーとCピラーの間隔がどうしても長くなる。しかも2列目と3列目の乗降性の確保のために、ドアの間口は床とツライチが求められる。普通の乗用車には必ず敷居があり、それがボディ剛性に大きく貢献している。中央は中央でウォークスルーのための廊下なのでセンタートンネルもない。床だけでなく屋根側も目一杯空けるために鴨居が存在しない。要するに1列目と3列目の間は屋根と床の板だけでつながっている。

 では床板を二重にするなど、立体構造にしてそこで剛性を確保しようとすれば、今度は乗り降りが大変になる。「低床にしてくれ」と要求されるわけだ。無茶苦茶な話だ。

 しかもチーフエンジニアに聞くと、それ以外にも問題点はあるらしい。フロントからリヤへ向かって走る構造材が、下側のドアレールに圧迫されてそこだけ細くなっているのだそうだ。もちろん理想は太い構造材をまっすぐに後ろへ伸ばしたい。しかしドア開口部を大きくしろという要求を飲むとサイドシルの最も構造メンバーを通したい位置に大型のドアレールを設けなければならなくなる。ちなみに一般的なヒンジドアに対して、スライドドアは耐久性で劣る。その分をカバーしようとすれば否が応でも大型レールを採用するしかないのだ。

 その結果、2列目シートがマウントされる床は剛性が不足してブルブルと震える。ちなみに、この床の振動波は車両横方向なのだという。ここまで書いた問題点はエンジニアは十分に分かりながら、各方面から寄せられる厳しい要求をかなえるために、深く悩みながらクルマづくりをしているのだ。実際さまざまなことを試している。試みにシートのアンカーボルトを左右のどちらか片方2本外すと振動は激減するらしい。ただしそれでは商品にならない。キャプテンシートの場合、シートベルトアンカーはシートバックに埋め込まれている。ボルト2本抜いた状態で乗れば、衝突時にシートごと飛んでしまう。せめて振動の周波数が特定のところにかたまっていれば、シートの締結位置や部材の重量調整で床の振動と共振しないセッティングも可能だが、振動周波数がバラけているのでそれも難しいという。

 整理すると、問題解決の糸口は3つある。1つはスライドドアを諦めて、床下の構造材を前から後ろまで同じ太さで縦貫させる方法。マツダがCX-8でやったアプローチはこれだ。2つ目は乗降性とウォークスルーを諦めて敷居とセンタートンネルを設けて床そのものの剛性を上げる方法。3つ目は乗降性を諦めて床板を厚くすることで剛性を上げる方法。

 どれも販売から激怒されるだろう。エンジニアはこういう制約の中で苦悩しながらクルマを設計しているのだ。

 さてどうしたら解決できるか、筆者は床厚を増やすことを提唱する。最初に書いたシアター配列にしても、フロアの高さ自体が上がってしまえば、1列目は自然と睥睨視野が得られるし、2列目は今ほど床に対して座面を上げなくて良くなる。

 厚さを稼いで構造部材が通せるならば床板のブルブルが抑制できるし、開口部も犠牲にならない。問題の乗降性は、電動タラップを用意すればいいのではないか? どうせ高価なクルマだ。電動のかっこいいタラップがついたら想定ユーザーは喜びそうに思う。

 チーフエンジニアは「確かにおっしゃる通りで、社内でもその議論はあります。ただ、降雪時にタラップが作動するかとか、路肩に雪が積み上がっている場合そもそも使えないのではないかとか、いろいろと問題がありまして」と顔を曇らせる。

●次世代に求められるもの

 しかし、長期的に見たとき、例えばアルファード/ヴェルファイアがプラグインハイブリッド化、あるいは電気自動車化されてバッテリーを大量搭載しようとか、燃料電池を搭載したいと言った場合、もう床下にはまったくスペースがない。

 ワンボックス形状のミニバンは、モノスペースでパッケージ効率が良いことが高く評価され、1980年代からポストセダンの新形態として期待されてきた。バスやトラックの例を見るまでもなく、道路を走る車両のパッケージ効率は箱こそが一番である。しかし、そろそろそのスペース効率の高さが逆にネックになりつつある。無駄がなさすぎて、追加機器の置き場がないのだ。その面でもやはり床板を上げてスペースを増大したい。アルファード/ヴェルファイアの次世代のデビューが何年なのかまだはっきりとはしないが、恐らく次世代の現役中に内燃機関だけで走るクルマは激減するだろう。モーターを併せ持つのが当たり前の時代になれば、バッテリー搭載量が今のハイブリッドグレードよりもっと求められる。

 プレミアムなミニバンというその位置付けを考えれば、そうそう時代遅れも許されまい。今アルファード・ヴェルファイアは変革を目前にしていると考えられる。次世代ミニバンの夜明けは近づいている。

池田直渡)

コメント 36

  • 匿名さん 通報

    低価格の車にも安全装置を搭載するホンダやスズキ。安全装置を高い車の目玉として搭載するトヨタ。高齢者の事故を無くそうという気が全く無いトヨタ。いつも他社の後追い。

    28
  • 匿名さん 通報

    中国人白タク経営者とDQN御用達の車

    26
  • 匿名さん 通報

    元々がトヨエースと言う荷物運びの安い商用車がベース。乗り心地など期待できるような車ではなかった。よくぞ進化したが、値段が高すぎる。

    21
  • 匿名さん 通報

    床がブルブル振動するのは本当だしつらい。キャプテンシートだったかの車両に乗って長距離走ったけども、2列目だと疲労がすごかった。運転してる限りはそうでもないんだけど…。

    15
  • 匿名さん 通報

    知人のに乗せてもらったが、いい車と期待して乗ると裏切られる。結構振動や騒音があるし、乗り味も良くない。

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