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「昭和の喫茶店」が廃れる一方で「ルノアール」が好調な理由

2018年4月24日 06時10分

ルノアールの外観

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 首都圏のビジネスパーソンがほっと一息つける都会のオアシス「喫茶室ルノアール」を経営する銀座ルノアールが、8年連続で過去最高の売上高を更新する見通しだ。

 ルノアールのコーヒーは1杯600円前後と、喫茶店にしては割高だ。にもかかわらず、銀座ルノアールは2017年3月期まで緩やかに売上高が伸びている。08年に56億9300万円だったが、17年には76億4600万円と、過去10年で3割ほど増えている。

 18年も第3四半期までの売上高は58億4100万円で、前年同期の57億2900万円に対して2%ほど伸びた。また、経常利益は第3四半期までで3億6800万円となっているが、前年通期の3億2700万円をすでに上回る好調ぶりだ。

 今回は、利益が出にくく継続するのが難しいとされる喫茶ビジネスで、喫茶室ルノアールが第一線であり続けられる理由を探っていきたい。

●人気が再燃している理由

 店舗数は88店。グループ全体、他のブランドを含めて119店を展開している。昭和の雰囲気が漂う老舗喫茶店が低価格・セルフサービスの店に押されてどんどん廃れていっても、ルノアールは根強い支持で勢力を維持し、今また人気が再燃している感がある。

 ルノアールは「名画に恥じない喫茶店」のコンセプト通り、まるで画廊に居るようなゆったりした静かな雰囲気があって、接客がていねいで居心地が良い。これは低価格喫茶チェーンにはないものだ。

 大半の店でWi-Fiと無料で使える電源が整備されている。3時間で1000円くらいのネットカフェに比べれば、モバイルで仕事をする人にとってはコストパフォーマンスが良好。コーヒーを飲み終わったあとの絶妙なタイミングで運ばれてくる無料のお茶サービスもあり、時間を気にせず座っていられる。

 仕事の合間に頭を整理したり、本を読んだりするために来店する常連客も多く、新聞も無料で読める。つまり、一種のサテライト・オフィス兼休憩所として気軽に使える便利さがある。

 また、打ち合わせや商談によく使われることから、貸会議室を併設している店舗もあるほどだ。オフィスの延長線上で愛用されているのも、ルノアールの強みである。

●モーニングが団塊世代に支持される

 最近は定年退職した団塊世代が郊外から都心部に移住する流れがあり、朝・昼の時間帯でシニアの客層が増えている。モーニングは最も安いメニューで厚切りバタートースト、ゆで卵、スープが付いて飲み物にプラス60円(税込)から提供している。オープンから正午まで利用できて、割安感がある。

 名古屋独特の喫茶文化を背景に、人口の多いアクティブシニアと呼ばれる団塊世代のモーニング需要を核に伸張している、「珈琲所 コメダ珈琲店」など郊外型喫茶と並んで、フルサービスでもてなす昭和の喫茶の良さが見直されているシンボルといえるだろう。

 そうした追い風もあり、1964年に1号店を日本橋に出店して以来、創業から50年以上が経過した今も新規出店を繰り返している。17年7月に京成上野駅前店、8月に銀座マロニエ通り店、11月に川崎東口駅前店、18年3月に東京駅八重洲1丁目店を新規オープンした。

●もともとは煎餅店の新規事業だった

 ルノアールは東京五輪が開催された1964年にスタートした。花見煎餅という東京・中野のブロードウェイ前にあった煎餅店が、新規事業として喫茶部門を独立させた。

 当時は国際化に向けて東京の大改造が行われており、東京と大阪を結ぶ東海道新幹線、羽田空港と都心部を結ぶ首都高速道路が開通。地下鉄日比谷線開通と銀座総合駅の完成を中心とした、郊外と都心部を結ぶ地下鉄網の整備などが一挙に進行。文化面でも、銀座にアイビー・ルックの「みゆき族」なるストリートカルチャーが誕生するなど、急速なライフスタイルの変化が起こっていた。それまで日本では一般的ではなかったコーヒーを飲む文化が広がり、純喫茶が流行の業態として全国で立ち上がってきていた。

 ルノアールの創業者・小宮山正九郎氏は東京五輪を機にしたビジネスチャンスを逃さなかった。差別化戦略として、高級ホテルのロビーをイメージした純喫茶としてルノアールを構築した。

 その頃、パレスホテルやホテルオークラといった、海外の要人が泊まれる高級ホテルが都内に続々とオープンしていた。高級ホテルのロビーラウンジでコーヒーを飲むことが国民のステータスとなっていた。

 高級ホテル並みの非日常的なサービスと空間を、ファミレスで実現しようとしたのがロイヤルホストなのに対して、喫茶で目指したのがルノアールなのである。

 店名は世界的に著名な画家の名前にする方針だった。ゴッホやドガも候補に挙がっていたが、穏やかな作風のルノアールで決まった。

 ルノアールの店づくりは、駅前にあるにもかかわらず座席と座席が離れていて、詰め込まれるような窮屈感がないのが特徴だ。創業者の語ったところによれば、じゅうたんにお金をかけ過ぎて、予定した数のテーブルと椅子を購入できなかったという。そこで、苦し紛れにまばらに配置したところ、意外にも顧客に好評。フカフカのソファーとの相乗効果により、「ホテルのロビーっぽい」とかえって集客が増えた。こういった経緯で、現在のスタイルが定着したという。

●チェーン展開にも積極的

 89年には日本証券業協会に株式を店頭登録(現・JASDAQに上場)。喫茶業界初の上場企業となっている。翌90年には早くも自社発行のプリペイドカードを導入。それ以前のことだが、83年に本格的なPOSシステムを導入して業務効率化を図ったのも、業界初であった。

 ルノアールは伝統的な純喫茶スタイルを取りながらも、いち早くチェーン展開。今もWi-Fiや無料で使える電源を業界に先駆けてサービスに組み込んでいるように、飲食業界の古臭い因習にとらわれずに変化し続ける社風がある。

 17年4月からは期間限定で創業当時の香味を再現した「復刻版ルノアールブレンド」を提供して好評を博したが、85年頃はまだコーヒーも砂糖もミルクも高価な時代。濃いめのコーヒーに、たっぷりのコーヒークリームと砂糖を入れて飲むのが、ぜいたくな嗜好品としての楽しみ方だった。

 今のルノアールのコーヒーは、酸味を抑えて苦味を強調している。さらには糖分を控える健康志向の高まりからブラックでも飲みやすい方向にシフトしている。昔から変わらないように見えても、時代の変化に対応している証拠である。

●伸び悩む新業態

 近年の課題としては、新業態開発に熱心に取り組んでもいるが、いずれも伸び悩んでいることが挙げられる。

 99年には低価格・セルフサービスの「ニューヨーカーズ・カフェ」をリリース。エスプレッソをメインとする、スターバックスに対抗したモダンな業態で、現在は7店ある。

 12年には、カナダのバンクーバーを拠点とするシアトル系コーヒーチェーン「ブレンズコーヒー」を日本でフランチャイズ展開していた、ビーアンドエムという会社を買収しているが、現在は東京・青山と埼玉・川越に2店あるのみだ。

 また、03年には女性向けフルサービスのパンケーキやパスタを充実させたエスプレッソも飲める「カフェ・ミヤマ」1号店を新宿南口に出店。現在は7店ある。ルノアールをややカジュアルに寄せて、エスプレッソマシンを導入した「カフェルノアール」という業態も7店ある。

 12年に、埼玉県朝霞市にログハウス風の店舗で、広い駐車場を持つ郊外型喫茶「ミヤマ珈琲」を新提案。コメダを標的に全国展開を目指すもいまだ6店にとどまっている。さらには、ハンドドリップ、カフェプレスによりシングルオリジン(単独農園)のスペシャルティコーヒーを提供する、ブルーボトルコーヒーに対抗したサードウェーブ系「瑠之亜珈琲」を、15年にオープンしていて、飲食ビル「銀座インズ」に1店ある。

●新業態店の課題

 確かに、どの業態もクオリティは高い。しかし、銀座ルノアールの売り上げに貢献していないとまでは言わないが、第2の柱に達していないのは明らかだろう。競合他社の強い業態をベンチマークしたものが多く、ルノアールのようなオリジナリティを感じられないのも事実である。

 しかし、郊外型喫茶のミヤマ珈琲は、従来の直営ではなくフランチャイズ展開をしている。地域のオーナーを中心としたコミュニティづくりに貢献したいという、2代目社長・小宮山文男氏の強い思いが反映されている。コーヒー豆の仕入れ先であるキーコーヒーと資本提携したのも、ミヤマ珈琲を成功させたいからだったといわれている。

 銀座ルノアールの筆頭株主である花見煎餅は13年、キーコーヒーに全株式を売却して子会社となった。さらには、18年2月に現在の小宮山誠社長は58万株を5億円で売却。出資比率が24.68%から34.19%へと引き上げられている。つまり、キーコーヒーの子会社化が進んでいる。

 銀座ルノアール側からすれば、仕入れとコーヒーに関する技術面での連携に、大きなメリットがあることは間違いないが、キーコーヒーに郊外型店舗開発のノウハウがあるとは思えないのがネックだ。ただし、キーコーヒーはカフェやレストランを展開する「イタリアントマト」を子会社にしているので、フランチャイズビジネスのノウハウは持っている。

 ミヤマ珈琲は15年には熊本にフランチャイズ店を2店オープンしたものの、1店は閉店してしまっていて、顧客からの評判は高いとされるにもかかわらず停滞感がある。ミヤマ珈琲の弱点は何だろうか。例えば、コメダのシロノワール、星乃珈琲店のスフレパンケーキ、元町珈琲のワッフル、高倉町珈琲のリコッタパンケーキのような名物スイーツがない。キーコーヒー傘下にあるアマンドの果実感あふれたフレンチトーストを導入するなどの強力なテコ入れが必要だろう。

●新業態店を成長させられるか

 一方、後発の椿屋珈琲店が大正ロマンの世界観でつくり込んだ手法により、コーヒー1杯で1000円前後にもかかわらず、43店を展開し繁盛しているのがルノアールにとっての脅威になっている。

 00年代には大正ロマンをテーマにした改装をしていたが、17年からは昭和モダン風の内装に変えてきている。日本的なやわらかさと西洋のデザインが融合した和洋折衷により醸し出される豊かな昭和初期をイメージしたという。さらに、キーコーヒーが心血を注いできた、トアルコ・トラジャコーヒーを新規導入している。

 ルノアールには女性や若者が入りにくい雰囲気があるとされるが、あまたある喫茶・カフェと同じようになるのでなく、これまで通り(むしろ今以上に)ビジネスパーソンやシニアに向けたサービスを究めていけば、差別化が進んで安泰だろう。出店余地は首都圏以外にもあるはずだ。

 郊外型であるミヤマ珈琲の実験段階は終わったはずで、あとはスピーディーな出店ができるかどうか。ルノアールに次ぐ事業の柱になってもらいたいものである。

長浜淳之介

注: この記事は配信日から2週間以上経過した記事です。記事内容が現在の状況と異なる場合もありますのでご了承ください。

コメント 2

  • 匿名さん 通報

    【次へ】はせめて3までの記事にしましょうよ

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  • 山田 通報

    ルノアールは仕事しやすそうで、実はあのフカフカすぎるソファーが長時間パソコンいじったり物書いたりすると疲れるんだよな。

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