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優秀なバイヤーは一番高い価格で買う コナカ社長の考え方

2018年6月14日 08時16分

2016年、「DIFFERENCE」を展開する

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 株式会社コナカ社長、湖中謙介氏は「普通」を知らない。大阪で過ごした少年時代から、何ごとも“自分なり”にせずにはいられなかったらしい。例えば、小学生のころの話だ。

 「学校からもらう教材は、学ぶべきことが全部書いてあって不便なんです。私は自分が重要だと思うところだけノートをとって、理解したら消していました。いつも、ノートには今の自分に必要な情報だけまとまっている、というわけです」

 経歴も異色だ。青年になった彼は、名門・神戸大学へ入学するが……。

 「実家から電車で片道3時間かかるのに、親は下宿代を出してくれません。でも、叔父が外食産業の経営者で、たまたま大学の近くに社員寮を持っていたから『入れてほしい』と頼んだんです。すると『一部屋あきがあるぞ、何月何日にここに来い』と言われ……行ってみると彼の会社の入社式だったんです。

 次の日、私はなぜか新大阪のレストランで働いていました(苦笑)。しかも、たまたま始めた外食の仕事がおもしろく、正月も働くほど夢中になってしまったんです。ついに親に知られて呼び出しを食らいました。『大学はどうした!』と言われると思って顔を出したところ、父は『謙介、ウチは洋服屋だぞ!』と言うんです」

 順番は逆だが、この子にしてこの父あり、といったところだろうか。結局、湖中氏は大学を中退し、家業を手伝うようになった。広い世間に出たら、世の中が褒めてくれることより、自分がおもしろいと感じることにのめりこみたくなったのだろう。

●面接では陽気な人を採用する

 彼が印象的な言葉を発する。

 「いまも人生をどう生きようか考えている途中なのですが、当社へ入社するまではもっと迷っていたんです」

 下宿代も出さない父が息子を特別扱いするわけもなく、彼は入社後、すぐ現場に放り込まれ、次第にこんなことに気付いた。

 「経験が少ない社員に立地がいい店を任せると、決められたことをソツなくこなせば売り上げを確保できるから、いつしか 『こうしていればお客さまは来てくださる』と思い込むようになります。そんな人間が立地の悪い店に行くと、決められた作業だけでは業績が伸ばせず、対策が打てずに最悪、店をつぶしてしまいます。

 一方、若い時期にあまり売り上げがよくない店舗に行った社員は、毎日『困った、困った』と陳列を変えたり、接客を変えたりして、いつしか自分の頭で考えるクセをつけていきます。こういった社員には、その後、どんなお店を任せてもうまくやってくれますよ。

 余談ですが、私は面接で陽気な方を採用しています。『売り上げが伸びない……』と暗くなってもつらい思いをするだけ。一方、明るい人は『どうしよう!?』と考え始めます」

 自分の人生とも重なるのだろう、迷いに迷って自分の頭で事態を打破する側の人間と、唯々諾々と人の言うことを聞く側には大きな溝がある――。次第に、彼は探索を始めるようになる。子どもが近所を探検するように、自分なりの地図を広げていけばいい、とでも考えたのだろうか。

 「仕事仲間や取引先から学びたくて、時間をつくっては訪ねていたんです。誰にでもスゴいところはあります。そして『なぜこんなことができるんだろう』などと感心すると、それが自分の糧になるんです」

 いわゆる“好奇心が旺盛”というとろこだが、訪ねるだけでは足りないらしい。

 「流行している何かも、体験するか、最低限、見ておかないともったいない感覚があります。例えば最近なら、仕事でタイに行ったついでにコスプレの祭典ものぞいてきましたよ。私は間違っても『不思議な文化だなあ』などと、簡単に済ませることはありません。コスプレイベントにはわざわざ聖地、秋葉原で衣装を仕入れている方もいました。彼らの情熱の源は何なのか? 私どものビジネスでも『日本人ビジネスマンと同じ格好をしたい』といった形で生かせないのか? そんなことを考えるんです」

 こんな“探索”が、経営者・湖中氏の原点になった。

●一番高い値段で買うのが優秀なバイヤー!?

 彼は商品開発を担当していたころ、世界中の工場や、スーツの原料となる羊毛の産地や研究所を訪ねていた。そのなかに羊毛の加工技術を研究している団体があり、湖中氏はそこの日本人技術者と懇意になっていたのだ。

 その技術者は、髪にかけるパーマの原理を応用し、繊維に形状を記憶させる「セット加工」の研究をしていた。形状を記憶させればシワになりにくいスーツがつくれるかもしれない。しかし、彼だけではどうしても超えられない壁もあった。パーマに使う薬品に耐えられる染料、さらには熱を加えた状態で形を整える縫製技術が必要だったのだ。

 湖中氏は「ちょっと待てよ」と考えた。解決のアテがあったのだ。

 少し遠回りしたい。彼は取引先の見つけ方、付き合い方も独特だった。こんなエピソードがある。

 「ニュージーランドに行ったとき『独りで羊の改良をしている牧場主がいる』と聞いて訪ねてみたんです。すると、なんと細さ15マイクロン(細さの単位)だったから驚きました。従来の高級品でも18~20マイクロンだから、圧倒的に風合いがいいんです。

 私は『糸が細すぎて繊細だから、長時間着るスーツには向かない、これでつくるならコートですよね?』と話しました。すると、彼がこう言うんです。『やっとキミが来てくれたか。僕はこの羊毛の価値がわかって、使いこなせる人物が来るのを待っていたんだよ』と」

 工場とも独特の付き合い方をしていた。

 「当社のバイヤー(仕入れ担当者)には、たびたび『一番高い値段で買うのがいいバイヤーですよ』と話しています」

 1000円と言われたら990円で買ってくるのがいいバイヤーなのでは?

 「いえ、それでは工場が疲弊してしまいます。工場が1000円必要だと言うなら、1000円でもお客さまがこぞって買ってくださる商品にする、それが優れたバイヤーです」

 根っこにこんな考えがあるので、コナカはほぼSPA(=製販一体)と言っていい体制を築けているのかもしれない。今、小売り業界は「製販一体が強い」と言われている。どこかの工場がつくった商品を買って店頭に並べるのでなく、小売店がお客さんの声を聞き、自社工場で新たな商品を開発するほうが、より市場のニーズに合った商品開発ができる。

 湖中氏は、取引先とどう付き合うのが正しいのかを自分なりに見極め、よくある「小売り」と「メーカー」の関係を壊すことで、製販一体、これに材料の供給元や技術者までを加えた、コナカ独自の体制を築いていたのだ。

●お金やモノより勇気を無くすほうが怖い

 話を戻そう。熱処理を加えつつの縫製は、コナカにとって実現が難しいことではなく、02年、コナカは「夢の防シワスーツ」を売り出した。これが「シャワークリーンスーツ」に進化した。意外だが、ウールは汚れに強い。着るたびに洗わなくてもよいのは、繊維が汚れを弾き、内側に入れないからだ。

 だが、コットンや木綿のように洗濯機で洗うと、均質にひねられていた糸がこすれてヨレヨレになってしまう。ならばと糸の強度を高めた「ウォッシャブルスーツ」もあったが、洗濯のあと丁寧にアイロンをかけないと着られなかった。

 そこで、先の日本人技術者は考えた。防シワスーツのような復元性を持ったスーツにシャワーをかければウールの表面についた汚れを水洗いできないか? スーツの生地は水を弾くが、ならば繊維をつくるときに水に溶ける糸を混ぜておけばいい。生地にする前に水で溶かせば、絶妙なスキマができて水を弾かなくなり、汚れを洗い流せるはずだ――。

 そして、技術者はこのネタをコナカに持ち込んだ。以下は、その日本人技術者のコメントだ。

 「我々は技術情報を無償で提供していたので、日本企業のなかには『いいモノがあれば持ってきてもいいよ』という、あまり熱心でない対応のところも多かったんです。その点、コナカさんは技術開発時に工場を見せてくれるなど快く協力してくれていました」

 この話を受け、コナカ社内では激論が交された。スーツにシャワーなど聞いたことがない。水をかけるのは勇気がいる。果たして消費者は受け入れてくれるのか? 湖中氏はこう判断した。

 「日本の消費者は世界で一番厳しい。ということは、こういった進化もきっと受け入れられるはずだ。日本の消費者を信じよう!」

●怖れず、オリジナルの何かをつくろうとする

 湖中氏の姿勢は、一貫している。まず「怖れず、オリジナルの何かをつくろう」とする。彼はよりよい答えを求め、世界を探索し、他者と敬意を持って接した。するとあるとき、探索で知り得たモノが急に重なって自分だけの何かがつくれた。そして、せっかくいいモノができたなら、奇異な印象があっても思い切って世に出そう。

 「要するに、私は楽観的なんです。ただ、それが意外と大事だとは思います。人生も経営も同じかもしれませんが、お金やモノをなくすより、勇気をなくすことのほうが恐ろしいことですから……」

 こうして08年に「シャワークリーンスーツ」が世に出た。商品はロングセラーになり、「シャワークリーンスーツ以外は着る気がしない」といった顧客も現れた。しかも、湖中氏の快進撃は始まったばかりだった。

(後編に続く。6月18日掲載予定)

夏目人生法則)

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