サイボウズの青野慶久社長と連合の神津里季生会長の対談が、ちょっとした話題となっているのでフォローしておこう。

【参考リンク】働き方改革、楽しくないのはなぜだろう。

サイボウズという企業は、在宅勤務や副業の解禁といった人事制度改革を率先して実現したIT企業で、働き方改革の「お手本」とも言われる会社だ。そのトップと、労働組合のドンとの対談で、はたして何が飛び出すのか...... と期待する人も多かったかもしれないが、結論から言うと非常にしょっぱい内容である。

連合会長は戦国期の室町将軍レベルの実権しかない

ツイッターには、こんなカキコミも見られた。

「なんなの? この連合会長のグダグダ、暖簾に腕押し感が半端ない!。>従業員の同意がない転勤を禁止してほしいです──サイボウズ青野慶久、連合の会長に働き方について意見してみた | サイボウズ式」
田端@「ブランド人になれ!」Amazonビジネス実用でセールス1位 2018年8月9日

対談では、なんとかエッジの効いたコメントを引き出そうと、やる気満々のサイボウズの青野社長に対して、我らが連合会長は「そうですね」「たしかに」「おっしゃるとおりです」と当たり障りのない発言に終始。これだったら新橋駅前を歩いているオッチャンをつかまえて話させたほうがまだおもしろいことを言うだろう。

でも、じつは連合会長がしょっぱいのには理由がある。今回は番外編的に連合の中の話をまとめておこう。

「日本の労働組合のドンは連合会長であり、労働組合の政策や提言をすべて仕切っているのは連合会長である」と思っている人がよくいるが、それは明確な間違いだ。

たとえば昨年(2017年)、連合会長が傘下労組に対して「経営側とあまり長時間の残業を可能とする協定は結ばないように」との通達を出しているが、ほぼすべての労組はスルーしている。

筆者の知り合いの労組役員などは「わかっててできもしないことを言うんじゃないよ(笑)」と、鼻で笑っていたほどだ。

日本の労働組合は「カイシャの第二人事部」

連合というのは、しょせんは個々の企業別労組の寄り合いにすぎない。

連合の会長というのは、その寄り合いの名誉会長ポストくらいの重さしかなくて、労組全体の意見を集約したり、指示して従わせたりするなんてことは、どだい無理な話なのだ。だから、エッジの効いた話をさせようとすると「暖簾に腕押し」状態にしかならないのだ。

たとえるなら、戦国期の室町将軍くらいの位置づけである。室町将軍だから、ちょっとでも傘下労組の気に障ることを言うと本当にタマを取られかねないことになる。昨年、連合執行部が政府の進める働き方改革に含まれている高度プロフェッショナル制度を容認する姿勢を示したところ、傘下の労組から強い反対を受け、撤回に追い込まれたことがあった。

残業自粛で減った残業代を別の形で取り戻すためにも必要な制度なのだが、朝三暮四レベルのおつむの末端労組には理解できなかったのだろう。

あのまま執行部が強行していたら執行部の責任問題となっていたはずだ。

そういえば、前々会長の高木剛氏も、会長辞任前に月刊誌に寄稿し、「既得権問題」や連合の寄り合い体質について言及。苦しい胸の内を語っている。

では、日本の労働組合とはなにか――。簡単に言えば「従業員の福利厚生を担当する第二人事部」というのが正しいだろう。

一応、従業員寄りとはいえ、しょせんは第二人事部だから、経営側と喧嘩しないで協調する。

会社のために三六協定を結んで月45時間を超えて残業できるように取り決める。組合員の全国転勤も黙認する。そして、会社のために非正規雇用を積極活用し、不況が来たら派遣を切る。

まあ、あえてそのオンリーワンの役割を一つ挙げるとすれば、「格差とか過労死の問題がクローズアップされた際にメディアに労働者代表として出てきて、矛先が会社や終身雇用制度に向かないようにほどほどにガス抜きする」ことくらいだ。

だから、連合の中の人がメディアに出ていたら「ああ、ガス抜き工事やってるな」と、泣きながら手を振ってあげるといいだろう。(城繁幸)