いわゆるVIPカーは世に数あれど、国のトップが乗る公用車ともなれば、その国の威信をかけた特別仕様車がよく見られます。アメリカ、ロシアほか、どんなクルマが用いられているのでしょうか。

選び抜かれた、いわば究極のVIPカー

 古今東西、一国のトップともなると、身辺警護と威厳の両方を保つため、移動に際しても特別仕様のクルマを用いることが多くなります。首脳会談やサミット、国際会議のオフショットなどでちらりと映像に映る各国トップの公用車は、それぞれ、さまざまな理由から選び抜かれた車両なのです。世界的なトップたちのクルマを見てみましょう。

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わが国の総理大臣公用車の1台、レクサス「LS600hL」(2017年5月30日、柘植優介撮影)。

動く要塞 アメリカ大統領専用車「ビースト」

 世界一有名な公用車ともいえるのが、トランプ米大統領の大統領専用車「ビースト」でしょう。GM(ゼネラルモーターズ)「キャデラック」の特別仕様で、大統領専用機「エアフォース・ワン」になぞらえて「キャデラック・ワン」とも呼ばれています。

世界のトップが乗るクルマとは 防弾はあたりまえ、国の威信もかかる公用車たち

アメリカ大統領専用車「ビースト」。「キャデラック・ワン」とも呼ばれる(画像:アメリカ合衆国シークレットサービス)。
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トランプ大統領とアメリカ大統領専用車。扉の厚さが見て取れる(画像:アメリカ国防総省)。
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オバマ前大統領とアメリカ大統領専用車のインテリア(画像:アメリカ国防総省)。

 すごいのはその防御能力。

全ての窓はポリカーボネート5層構造で、厚さは約13cm、シャシーもセラミックなどの複合装甲で同じく13cmほどあり、至近距離で爆弾が爆発しても耐えられる構造だといいます。扉を閉めれば、室内は外気から完全に遮断され、化学兵器や生物兵器などによる攻撃にも耐えられるようになっているそうです。

 トランク内には酸素タンク、フロントグリルには暗視スコープとレーダー、そしてケブラー繊維で強化された特殊なタイヤは、パンクした状態でも100km以上の走行が可能だといいますから、ちょっとした軍用装甲車は裸足で逃げ出すレベルだといえるでしょう。

 1台約17億円。これをアメリカは12台保有しているそうです。

ロシア経済の起爆剤に? 国を挙げた大統領専用車製造

 アメリカの永遠のライバルといえばロシアですが、そのロシアのトップ、プーチン大統領は2018年5月、4度目の大統領就任演説ののち、あるモノを初公開しました。

それが、一大プロジェクトで開発された国産大統領専用車です。

 この大統領専用車は、「コルテージ」というロシア製政府専用車製造プロジェクトのもとで、2013年から研究・開発が行われたといいます。プーチン大統領は、今までドイツ車であるメルセデス・ベンツの最高級リムジン、「メルセデス・マイバッハS600プルマン」の装甲仕様車両を大統領専用車として使用してきましたが、ここにきて国産車へ乗り換え、その性能をアピールし始めました。

「この車両は必要なテストに合格し、国家元首にとって安全であることが証明された」という公式見解とともに、この車両の民間バージョンが売り出されることも発表され、ロシア国産車の市場はこれから活気を帯びてきそうです。

意味はないらしい、北朝鮮の公用車と並走するボディガード

 先ごろアメリカのトランプ大統領と歴史的な会談を行った北朝鮮のトップ、金正恩委員長は、クルマで移動する際に12名もの屈強なボディガードを並走させて話題となりました。その際に彼が乗っていたクルマは、メルセデス・ベンツの高級リムジンモデル「メルセデス・マイバッハ」。

詳細は明かされていませんが、防弾仕様にはなっていると考えられ、「ビースト」ほどではないにしろ、ある程度の防御は可能だと考えられます。むしろそういった場合、並走するボディガードたちの安全のほうが気になるところです。

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ロシア国産大統領専用車「コルテージ」(画像:ロシア大統領府)。
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「メルセデス・マイバッハS600プルマン」の市販モデル(画像:ダイムラーAG)。
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わが国の総理大臣公用車の1台、トヨタ「センチュリー」(2007年、柘植優介撮影)。

 さて、日本のトップである総理大臣の公用車はどのようなものでしょうか。

2018年8月現在、トヨタ「センチュリー」とレクサス「LS600hL」の2車種が併用されているとのことです。もちろん防弾ガラスや装甲が施された防弾仕様ですが、セキュリティの問題から詳しくは明かされていません。

少しでもその姿を見るために、「パパモビル」とベントレー

 最後に、国のトップではありませんが面白いクルマを2種紹介しましょう。

 ひとつ目はローマ法王の専用車「パパモビル」。前法王ベネディクト16世の専用車は、なかで立ち上がっても手を振れるように、後部座席は一段高い位置にひとり用の座席が設けられています。その前後左右は防弾ガラスでおおわれているものの、見た目は野球のピッチャーが、グラウンドに出ていくときの専用カー(リリーフカー)を彷彿とさせます。

ちなみに現法王のフランシスコは、このパパモビルをオープンカーに改造しました。「失うものはない。神に命をゆだねる」と彼は言いますが、警備担当者は気が気じゃないでしょうね。

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2015年、ローマ法王フランシスコが訪米した際の「パパモビル」(画像:アメリカ合衆国シークレットサービス)。
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ベントレー「ステートリムジン」(画像:ベントレー)。
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ベントレー「ステートリムジン」とエリザベス2世(画像:ベントレー)。

 ふたつ目は、イギリスの女王エリザベス2世の専用車両。2002(平成14)年、即位50周年を記念して特別に設計されたベントレーの車両です。高い天井や大きく開くドアは、王室の人びとが乗り降りしたときに、威厳を持った姿を保てることを考え抜いて設計されたといいます。しかし、その最大の特徴は「女王の姿をひと目でもみたいという多くの人の願いをかなえるため、現存するいかなるクルマよりも外からの見やすさを向上させた」という設計理念。その姿は落ち着いたえんじ。車体は低く車高は高く、何よりも大きな窓が目を引きます。ベントレーの特徴ともいえるやわらかい曲線は、強さと優しさが同居した女王の姿そのものといえるかもしれません。女王は、その理念と美しい車体に感動し、同じクルマをもう1台注文したといいます。

 防御、国内産業、威厳、人びととのふれあい。さまざまな考え方で生み出され、運用されるさまざまな公用車。国のトップのクルマから、国際情勢やその国の内情を考えてみるのも面白いかもしれませんね。

【写真】8800万円(税込)也、「メルセデス・マイバッハS600プルマン」のインテリア

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「メルセデス・マイバッハS600プルマン」市販モデルのインテリア(画像:ダイムラーAG)。