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「社員を管理しない、評価しない」 個人と会社の幸せを追求した社長が心に決めたこと

2018年9月13日 06時50分

TAMの爲廣慎二社長

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 働き方改革を発端に、ワーク・ライフ・バランスを求める声がますます高まっています。しかし、第一線で活躍するビジネスパーソンほど、文字通り仕事と人生を分ける、このワーク・ライフ・バランスというコンセプトに違和感を覚えているようです。

 そんな彼らが共感を示す言葉が「ワーク・アズ・ライフ」。仕事と人生との間に境界線を引かず、自然体で働く、あるいは好きなことがいつの間にか仕事になっている状態を指します。

 企業のデジタルマーケティングを支援するプロダクション・エージェンシー「TAM」は、社員のワーク・アズ・ライフを「仕組みで」可能にしているユニークな会社です。

 TAMでは毎年、内省した上で自分の上司と対話するキャリアミーティングの場が設けられます。自分の強み、弱み、置かれた環境などを棚卸しし、社員のワークだけでなく、それを含むライフについて、時間をかけて共に考える。そうして社員は自己実現に向けて努力していくのです。しかし、中には何年かのミーティングを経て、転職や独立を決断する人も……。

 普通に考えれば、手塩にかけて育てた社員が離れてしまうのは、組織にとって痛手のはず。にもかかわらず、会社自らそれを促すのはなぜなのでしょうか。さらに、TAMには評価制度さえなく、給料を決めるのは社員自身だといいます。

 そんな“常識はずれ”の会社運営を26年にわたって続けてきた、TAM代表の爲廣(ためひろ)慎二さんに、その狙いを伺いました。

●人が人を正当に評価することなんてできない

――TAMには評価制度がないとお聞きしたのですが。

 導入しようとしたこともあったんですけど、どうも肌に合わなくて。というのも、人が人を評価するというのが正当に行われるようには思えないんですよね。

 僕も若いころは会社勤めをしていましたが、ことあるごとに「そんなことをやっていても評価されないぞ」と言われました。ほとんど話したこともない課長に評価されて、「あんたに何が分かるねん!」って思っていました。

 評価制度があると、どうしても「良い評価を得る」ことが働くモチベーションになってしまうじゃないですか。でも、僕からすればそれは著しく不自然なこと。「仕事って好きだからやるんじゃないの?」「点を取るために仕事をするとか、そんなアホらしいことはないんじゃないの?」って思うんです。

――その価値観はどこで培ったものなんですか?

 学生時代にリクルートでアルバイトをしていた時のインパクトが強かったんだと思います。当時はまだ創業者の江副(浩正)さんが最前線で旗を振っていて、アルバイトの自分も社員と一緒になって毎日営業に出ていました。そうして「自ら機会を創れ」という理念を肌で体感させてもらった。それがすごく楽しく、刺激的で。

 だから、腹の底にはリクルートのDNAがあるんだと思いますね。評価を得て、出世して、昇給して、それで幸せになるとか、ナンセンスやと思えてしょうがない。仕事なんて、自分のためにやったらええやん、と。

――じゃあ最近よく聞くワーク・ライフ・バランスなんて言葉は……。

 嫌いですね。バランスなんかあるかい、と。だって、好きなことだったら昼夜問わず没頭するのが普通じゃないですか。もちろん健康や体調管理をしっかりすることは大前提ですが、それがやりたいことなのであれば、誰の目も気にすることなく好きなだけやればいいと思うんです。

 だから経営者としては、メンバーがやりたいことを叶えるために出せるお金は出したいし、借金してでもやらせてあげたいと思いますね。もちろんそこには、そうしたほうが事業が伸びて会社としても成長するとか、そういう勝算があるからということもありますけど。

●自分の給料は自分たちで決めて

――好きなことをやるほうが人は力を発揮しやすいというのは分かります。でも、評価制度がないとなると、どのように成果を測り、給料を決めているんですか?

 給与は社員自身が決めます。そのための「WDP」という制度があるんです。

 Wは「Work(ワーク)」の略で今期の振り返り、DPは「Development Plan(ディベロップメント・プラン)」の略で来期の計画を意味します。150人のスタッフ全員が毎年、このシートを書いた上で、リーダーと面談します。

 ワークについては、会社のクレドにも定めている5つの要素「ハードワーキング」「インテリジェンス」「誠実」「コミュニケーション」「ストレス耐性」に関して、「今期はどんなことができたか」を振り返ります。そして最後に、来期の給与を話し合う。例えば「今期はこれだけの成果を残したのだから、5万円増やして」とか。逆に「週に1日は他社の仕事をしたいので、給与は減らしてもらっていいです」という人もいます。

 さっきも言ったように、他人に評価されるために働くなんてしょうもない。その代わり自分で自分を評価して、望む待遇は言ってください、と。これがTAMの成果の振り返りです。

 もちろん、各チームの予算は決まっているので、必ず希望通りにいくとは限りません。その要求を受け入れるかどうかの判断は、各チームのリーダーに一任しています。しかし、リーダーとしてもメンバーに不満を持ったまま働いてもらうのではチームとして成果を出せないため、どうにかやりくりをしようとするわけです。場合によっては、リーダーが自分自身の給与を減らして、成果を上げた社員の要求を受け入れることもありますよ。「僕より◯◯さんのほうが貢献しているから、僕の分を◯◯さんにあげたい」って。

――評価制度がなくても組織として本当にうまくいきますか? サボったり、自分勝手に振舞ったりする社員は出てこないんでしょうか?

 ありませんね。TAMのプロジェクトは複数人で取り組むことが多いので、サボったり、いい加減なことをしていると、次第に「プロジェクトに参加して」とお声が掛からなくなる。だからそういうサボるような人は自然と淘汰(とうた)されていくんです。

 まあ、サボりたかったらサボればいいし。それがその人の人生にはね返ってくるだけなんで。僕自身はあまりそういうネガティブな目線で皆を見たことがないですけど。

●優秀な社員の挑戦を涙で送り出す

 TAMにはもうひとつ、「キャリアミーティング」という制度があります。こちらもメンバー全員が年に1回、自分のキャリアについてリーダーと話し合います。今の働き方を50歳まで続けたらどうなるか。自分の強みは何か、弱みは何か。なりたい理想の自分とは……こうしたことを通常、2年から5年かけて突き詰めていき、自分のキャリアは自分で作ってくださいと言っているんです。

 でも、これをやると毎回、何人かの社員が会社を辞めてしまうので、我々にとっては厳しい仕組みでもあるんですよ(苦笑)。辞める理由は「大学院に戻って勉強します」とか、「違う会社に行って挑戦したい」とか、人それぞれですが。その理由が筋の通ったものであれば、涙を流しつつも、拍手で見送ってきました。

――優秀な社員が抜けるのは会社にとって大きな痛手ですよね? どうしてわざわざそれを促すような制度を設けているのですか?

 だって、社員の人生は彼ら、彼女らの人生であって、僕の人生ちゃうし。一人一人が好きなようにやることが、その人の未来を作るんだといつも思うんです。

 創業当時に決めたTAMの理念は「勝手に幸せになりなはれ」。これは26年間、まったく変わっていません。

 その根底には、会社なんていつつぶれるのか分からないんだから、という思いがあります。会社に頼るのはやめてくださいよ、ということです。

 僕は独立した直後にバブルが崩壊したので、当時は毎日の風呂代もなかったんです。1年くらいは嫁さんにどうにか食わせてもらって、なんとか耐え凌ぐような状況でした。でも、そんな時でも社員が2、3人はいて、その後5人、10人と少しずつ増えていって。「ついてきてくれるこの人たちを幸せにできないなら、会社をやる意味なんてないなあ」って思いました。

 けれども、会社が彼らを幸せにすることなんてできないんですよ。だって、会社の未来なんか誰にも分からないんだから。彼らが幸せになるには、皆が勝手に幸せになってくれるしかないんです。そう考えたら、会社が彼らを管理したり、評価したりなんてできるはずがない。

 だから、会社はあくまで彼らが成長できる「場」を用意するところ。彼らがそこにいる間に「生きる力を鍛える場」だと思っていて。創業して2、3年経ったころ、そうはっきりと気付きました。

――社員一人一人の人生を考えたら素晴らしい理念だなと思うんですけど、それで営利組織としての会社が成り立ちますか?

 いや、もちろん会社としては大変ですよ。長く働いてくれていて、抜けてもらったら困るというような人が卒業してしまうこともある。そういう穴を埋めるには、新しく2~3人は入ってもらわないと成り立たないし、引き継ぎだってあるから、それはもう……。

 でも、その大変ってことが、裏を返せば新陳代謝でもあるんです。めちゃくちゃ大変だけど、その大変さを乗り越えること自体が組織の成長なんですよ。

 実際、このやり方をずっと続けていて、26年間一度も赤字になってないですからね。六本木ヒルズに住んだことなんかありませんから、商売人の才能はそんなになかったのかもしれないですけど(笑)。僕にとってはそれが自然なことなんですよ。

●ティールも分散型も、自然に考えた結果

――評価も管理もしない、社員一人一人が主体的に動くことで、組織としてもうまくいく。まるで最近話題の「ティール組織」のようですね。

 そうそう。人生すべてを仕事に持ち込むっていうのは、僕が元祖。10年前に同じことを言っても誰も分かってくれなかったけど、やっと時代が追いついてきたのかな、と(笑)。

――では、この先に描いている組織の未来像はありますか?

 「タンバリン」のようにすでに分社化してうまくいっているプロジェクトもありますけど、今後はプロジェクトの各リーダーがどんどん分社化していくといいなあと思って、実際に進めているところです。

 というのも、僕が経営者としてずっと引っ張っていけるなんて思ってないから。仕事が好きだから死ぬまで働き続けるとは思うけれど、それがここである必要はないので、どこか迷惑のかからないところを探して、と思っています。

 そして、僕が経営者のポジションから降りたら、もう全体を見る人はなしにしよう、とも。本体はバックオフィスの機能だけ。あとはそれぞれのリーダーが、僕が暮らしていけるだけの給料を払ってくれさえすればいい(笑)。そうやって、同じミッションを持った個人が非中央集権的につながるネットワーク組織になっていくんじゃないかと思っています。

――確かに、ここまで伺ってきたTAMの理念を考えれば、分散型の組織というのは相性が良さそうに聞こえます。

 僕は日本の「正社員が絶対的に偉い」という考え方にすごく否定的です。正社員だろうと、契約社員だろうと、フリーランスだろうと、呼び方や契約形態などはその時その時の自分のスキル、経験、将来の希望などに応じて選択していけばいいじゃないかと思っているんです。

 だからつい先日、日本の雇用環境ならではの中間的働き方ができたらいいのではと考えて、「フリーエージェント/ロケーションフリー・スタッフ制度」というものを作りました。

 最近はフリーランスとして働く人も増えていますよね。でも、フリーランスって、いつも一人で考えなくちゃいけなかったり、営業も頑張らなくちゃいけなかったりして、何かと不安じゃないですか。

 だったらTAMでやったらいい。その結果、仲間同士でシナジーが生まれたりして、完全に一人でやるより仕事がうまくいく。だからここにいる。これからの会社って、そんな感じでいいんじゃないかと思うんですよね。

(取材・文:浅田よわ美、岡徳之<Livit>)

「「社員を管理しない、評価しない」 個人と会社の幸せを追求した社長が心に決めたこと」のコメント一覧 6

  • びっくり! 通報

    「僕・私の給与を彼・彼女にあげて!」なんて言う労働者、いるのかなあ?

    2
  • 匿名さん 通報

    そうそう旨く行くならば右内輪、優秀で従順な社員でさえ信用おけない社会、安月給で働く労働者に信用があるハズがない

    2
  • 匿名さん 通報

    換えのきく仕事…人間労働の必要が無い仕事…おいらディレクションこんなモノとは違う…換えのきかない仕事

    1
  • 匿名さん 通報

    国家のため、夢を語ろう、当社で働くことが幸福になれる、家族的、チームワークのある・・・全部経営者の価値観に由来するもの。こういった企業が、社員を潰し、日本の社会問題を誘発する。

    1
  • 匿名さん 通報

    09:52日本語がおかしい。

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