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2年間で2万個突破! 竹島水族館の「気持ち悪い」土産を作り出したプロ集団

2018年9月20日 09時15分

累計売上数は2017年の数字。現在は2万個を突破している

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 「ラッコやイルカがいないという、『劣等感』があるんです。僕たちは生き物に頼らずにお客さんに来てもらう方法を探すしかありません。水族館として邪道かもしれませんが、そうでもしないと生き残れません」

 竹島水族館の小林龍二館長(37歳)は、穏やかな笑顔で話しながらも危機感をにじませる。現在の竹島水族館は「毎月が過去最高の入館者を更新中」なほど人気を博しているが、わずか8年前までは閑古鳥が鳴いて閉館寸前の状態だったのだ。

 施設は狭く、予算は少なく、人員も少ない。常に新しいことを考え、周囲の協力を仰ぎ、お客さんに楽しんでもらえる努力を続けなければ水族館の存在はすぐに危うくなる――。小林さんは背水の陣を保って竹島水族館を引っ張り続けている。

 生き物に頼らずに客を喜ばせる方法として、小林さんや副館長の戸舘真人さん(38歳)が注目しているのが土産品コーナーだ。竹島水族館らしい魅力的な商品を並べることができれば、それを目当てに来てくれる客も増えるし、大人500円という安い入館料での収入を補うこともできる。まさに一石二鳥が狙える分野だ。

 定番商品の改革に関しては戸舘さんが担当している。そのくだりに関しては前回記事を参照してほしい。本稿で取り上げるのは、お土産品コーナーで爆発的な人気商品となった「超グソクムシ煎餅」だ。2016年春の発売から約2年半で2万個以上も売れている。

 全国各地で売られているお土産品のほとんどは、企画会社や問屋が開発を請け負い、流通コストや在庫リスクも負担する。その代わりにマージンを取っている。各地の温泉まんじゅうのように、味や形状がどこか似ている商品が多いのはそのためだ。しかし、「超グソクムシ煎餅」は企画から原料の内臓処理、箱の組み立て、在庫管理まで、小林さんをはじめとする飼育員が行っている。正真正銘の竹島水族館オリジナル商品なのだ。

●地元の経営者勉強会に講師として参加。そこは「外部協力者」の宝庫だった

 小林さんたちは水族館員であり、土産品作りに関しては素人だ。外部のプロに協力してもらう必要がある。2015年の秋に好機が訪れた。竹島水族館のある愛知県東三河地方で有力な金融機関である蒲郡信用金庫の鷹丘支店(愛知県豊橋市)が主催の経営者勉強会に、小林さんが講師として呼ばれたのだ。

 勉強会参加者の1人であり、後に「超グソクムシ煎餅」のリアルな箱作りを担うことになる富田委千弘(いちひろ)さんは小林さんの第一印象を笑いながら振り返る。

 「V字回復は僕たち経営者にとって憧れの言葉です。それを実現した小林さんに会いに行こうと思っていたら、『こちらから伺います』と鷹丘支店まで来てくれました。ジーパンとTシャツで茶髪の人が来て、最初は館長だとは思いませんでしたよ。でも、いろんな困難を乗り越えて竹島水族館を立て直したお話を聞いて、すごいなこの人! と刺激を受けました」

 富田さんは80年の歴史を誇る箱秀紙器製作所の三代目社長で年齢は50歳。ダンボール箱からお菓子の化粧箱までを幅広く扱う「箱屋」としてのキャリアも長く、仕事人としての自信を深めているはずだ。そんな富田さんが初対面で「すごいな」と小林さんに尊敬の念を抱いたところから、「超グソクムシ煎餅」プロジェクトは始まった。

 言いだしっぺは豊橋市内で和菓子店「童庵」を営む安藤チヒロさん(43歳)だった。勉強会の中で小林さんが「入館料収入だけでは限界がある」と本音をこぼしたのをキャッチして、独自の土産品開発を提案したのだ。

 菓子は童庵、箱は箱秀が作成を請け負える。さらに、この勉強会のリーダーである堀本貞臣さんはデザイン部門も擁する会社の代表である。良い企画さえあれば、すぐにでもモノづくりができる体制が偶然に整っていた。

 小林さんにはアイデアがあった。地元の漁師が持って来てくれる魚介類の中に、アナゴ漁の仕掛けに入ってしまうオオグソクムシがたくさんいる。何百匹もいるので全ては飼育できない。仕方なく、他の水族館に譲るなどしていた。「もったいない」と感じた飼育員の三田圭一さんが、オオグソクムシを試食した様子を発表して人気を集め始めていた時期でもある(関連記事を参照)。

「お客さんの中にも『私も食べてみたい』という人がいます。ならば、もう少し食べやすい形にして提供すればどうか、と思っていました」

●「おたくはああいうのをやったらイカン!」 上品な和菓子屋が背負ったリスク

 中身の煎餅に関して最もリスクを負ったのは童庵だった。オオグソクムシは巨大なダンゴムシのような見た目の深海生物で、強烈な臭いを発することでも知られている。上品な和菓子を製造販売している童庵のブランドイメージを壊してしまう恐れがあった。安藤さんは真面目な表情で振り返る。

 「実際、昔からのお客さんにお叱りを受けたこともあります。『おたくはああいうのをやったらイカン!』と。でも、和菓子離れが進み、製菓学校でも9割以上の学生が洋菓子を専攻するといわれている今、いろいろ挑戦しないといけないと私は思っています。うちは創業30年の店で、和菓子の世界では新参者です。上品な和菓子を一生懸命に作るという王道だけでは戦えません。若い人たちにうちの店に興味を持ってもらう仕掛けを今までも考えて実践してきました。『超グソクムシ煎餅』もその一環です」

 存続への危機感をバネにして思い切った新企画を打ち出す姿勢は、小林さんと共通するものだ。試行錯誤の末、ほのかに「オオグソクムシ臭」はするが味は普通の塩煎餅並みにおいしいものが出来上がった。

 オオグソクムシを模した形の箱作りで実力を発揮したのは箱秀の富田さんだ。原料である紙の効率的な使用や輸送のしやすさを考えると、ありきたりの四角い菓子箱にするのが正解である。変形の箱を企画してもコスト面で成立しないことが多い。

 「普通は提案するだけ無駄なんです。でも、小林さんのお話を聞いていて、『この人ならば変形でも作れるかもしれない』という勘が働きました。提案してみたら、『面白い。これでいきましょう!』とすごい勢いで食いついてくれたのです」

 繰り返しになるが、オオグソクムシは奇怪な見た目である。かわいい漫画風のイラストにして気持ち悪さを緩和するのが常道だ。しかし、小林さんはリアルな気持ち悪さにこだわった。

 「せっかくオオグソクムシそっくりの箱を作るのだから、写真を使うことで押し切らせてもらいました。オオグソクムシをいろんな角度から50枚ぐらい撮影したのを覚えています」

 その写真を受け取ったのは三愛企画のデザイナーである酒井朝子さん。あまりの気持ち悪さに「写真を見ているだけで無理!」な心理状態に陥ったが、富田さんと安藤さんと一緒に竹島水族館に行き、実物のオオグソクムシを見ることで印象が変わった。オオグソクムシには後ろビレがあり、水中を泳ぎ回ることもできる。海底にへばりついてジッとしている地味な生き物ではないのだ。

 「お客さまが驚き喜ぶ顔をイメージしながら作成しました。目指したのは、インパクトの中に可愛げがあり、さらに捨てたくないと思ってもらえるパッケージです」

●自分よりも他人を優先できるリーダー。だから、周りが積極的に協力する

 そして完成した「超グソクムシ煎餅」。2016年4月から年間1000個を目標に売り出したところ、GWが終わる頃には完売してしまった。土産品としては異様な売れ行きである。小林さんは「箱が欲しくて買ってくれるお客さんが多い」と分析している。

 「煎餅を食べ終えても箱を捨てずにおくのだそうです。筆箱にしたり、底に穴を開けてミニ四駆を入れてチョロQみたいに走らせたり。お土産品は四角い箱が普通だと僕は思っていたのですが、『他と一緒では売れません。むしろ箱で売りましょう』と提案してくれた富田さんのおかげでヒット商品が生まれました」

 一方の富田さんは小林さんの細やかなリーダーシップを指摘する。地元の経営者勉強会が発端となったので、企画料や試作料などを請求しようとは思わない。しかし、自分たちは商売人。赤字を被るようなマネはしない。この「超グソクムシ煎餅」にしても、在庫リスクは竹島水族館が負うからこそ成り立った商品だ。

 「それなのに小林さんは、『ちゃんと利益は出てますか?』といつも気にしてくれるんです。自分よりも他人を優先できるので、周りにいる私たちも積極的に協力したくなるのだと思います」

 童庵の安藤さんは周囲の反対を押し切って「超グソクムシ煎餅」に取り組んで良かったと言い切る。ヒットによる金銭的なメリット以上に、面白い挑戦をしている和菓子店として話題になり、人のつながりが広がっていることが大きいという。

 「小林さんから学んだことがあります。価格を決めるときに安めの金額を主張する小林さんに対して、『それだともうけることができませんよ』と私が意見。小林さんから返って来た言葉は『そんなに、もうけなくていいんです。お客さんが楽しんでくれるのが大事なので』という意外なものでした」

 まずはお客さんが喜ぶことを考え、次に仕入れ先などの関係者に損をさせない配慮をする。そのために自分たちでできることは面倒臭がらずに全てやる。手慣れた様子で箱詰め作業をする竹島水族館の飼育員たちの後ろ姿に、ヒット商品を支える誠実で地道な姿勢を見た気がする。

(ライター 大宮冬洋)

注: この記事は配信日から2週間以上経過した記事です。記事内容が現在の状況と異なる場合もありますのでご了承ください。

「2年間で2万個突破! 竹島水族館の「気持ち悪い」土産を作り出したプロ集団」のコメント一覧 3

  • 匿名さん 通報

    13:29 君は祖国統一が一番気がかりなんだろ?日本のことは気にしなくていいよ。

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  • 匿名さん 通報

    そんなに、もうけなくていいんです。お客さんが楽しんでくれるのが大事なので←勝ち負けにこだわる国に変わっちまったね。金金金金その癖に不景気。情けない国日本。

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  • 匿名さん 通報

    隣の市に住んでったけど昔はあの水族館って結構遊びに行ってたし、遠足とかでも言ってたけどなぁ。時代が変わっていかなくなったんだよな。昔はここと竹島の神社参拝がワンセットだったからなぁ。

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