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35歳の“素人社長”がベイスターズを黒字化に導いた「順次戦略」と「散弾銃戦略」

2017年5月19日 11時00分 (2017年6月9日 18時18分 更新)

 史上最年少の35歳で横浜DeNAベイスターズの球団社長に就任し、5年間で赤字24億円から5億円超の黒字化に成功した池田純さんが『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方 35歳球団社長の経営メソッド』を上梓した。


 52億円の売上に対して24億円の赤字――。経営者からすると“倒産状態”の組織を託されたということになる。だが、池田さんは、「再生は出来るのではないか。直感的にこれはやるべきだと思った」という。そして、球界の常識やしがらみを飛び越え、さまざまな改革を断行し、見事にベイスターズという組織を蘇らせた。昨年10月、契約満了に伴い、球団社長を退任した池田さんは現在、Jリーグ特任理事、ラグビー協会特任理事、明治大学学長特任補佐など10以上の肩書きを持つ実業家として活動している。「球団経営はすべてのビジネスに通じる」という池田さんに「常識を超える」経営の極意を聞いた。


◆◆◆


■観客を増やすために、チームより経営強化が先

――ベイスターズの社長に就任した当初、池田さんは「35歳の史上最年少社長」「赤字24億円」「野球界の“素人”である」という点で球界の常識からすると特異な状況からのスタートでした。組織を改革するにあたってまず、何に着目されたのでしょうか。


池田 私が社長に就任したとき、ベイスターズは最下位に低迷し、観客動員数でも横浜スタジアムの座席稼働率が約50%という状況でした。私の役割は経営者として組織を再生し、黒字化することです。そのために一番やらなければならないのは、お客さんを増やすこと。


 実はこの最もシンプルな事実から目を背けている現状がありました。周囲からは、「最下位という状況ではスタジアムを満員にするのは無理。まずはチームが強くならないと、観客も増えない」と言われましたが、私は全く逆の発想です。「経営によって組織が強くなれば、その一部であるチームも必然的に強くなる」。経営者としての当たり前の発想ですが、今になって考えてみると球界の常識からは逸脱していたのかもしれません。


――実際に「100万円のVIPチケット」や「負けたら全額返金!?企画」「神奈川県内のすべての子どもたち72万人にベースボールキャップをプレゼント」など、“常識を超える”施策やイベントを次々に実行していきました。結果、昨シーズンは球団史上最多の観客動員数を記録し、横浜スタジアムの座席稼働率は93%と、全試合ほぼ満員状態を作り出しました。こうした発想はどこから生まれるのですか?


池田 私が球界とは関係のない“素人”であったことと、“意思決定権者”であったことが大きいと思います。しがらみや常識に縛られずにフラットな視線で事実と課題を見られますから。ベイスターズで行なった様々な施策は誰もが一度は考えたことかもしれない。でも、大抵はアイディアはあっても、障壁の方を先に考えてしまいます。


 私は社長=意思決定権者として、横浜を盛り上げ、野球という枠を超えたスポーツエンターテインメントビジネスにしなければ再生の道はないと思っていました。その目標には、普通のことをやっていたら到底たどりつきません。



■ハマスタを全試合満員にする!

――「経営でチームを強くする」という信念で、5年目には球団史上初のクライマックスシリーズに進出し、広島東洋カープとファイナルステージを戦いました。経営者として5年間でどんなビジョンを描いていたのでしょうか。



池田 戦略は2つあります。まずは順次戦略。段階を踏んで課題をクリアしたら、次のステップに進む。2段階、3段階先を見据えながら、順番に目標を達成していくやり方です。私は就任当初、「本拠地ハマスタを全試合満員にすること」「健全経営を実現すること」「優勝争いができるチームをつくること」の3つを目標に掲げ、「5カ年の改革プラン」を作成しました。


 1年目は横浜DeNAベイスターズという組織を把握し、野球界とスポーツビジネスの常識を知り、情報蓄積する一方で、世の中で話題になるような斬新な企画を積極的に発信していきました。2~3年目は私の武器の1つであるマーケティングを本格的に導入し、戦略ターゲットを30代から40代の働き盛りの男性層「アクティブ・サラリーマン」に定めました。さらに、球団の「革新的」というブランディングの醸成にも力を注ぎました。4年目からはビジネスの拡大期と位置づけ、「コミュニティボールパーク化構想」に基づき、オリジナルビールなど飲食の拡充も進めました。そして5年目には“絶対に無理だ”と言われてきた「横浜スタジアムの買収(友好的TOB)」に成功し、一体経営が実現したのです。


――では、もうひとつの戦略とは?


池田 散弾銃戦略です。順次戦略が結果を積み上げていく手法だとすれば、散弾銃戦略は、面白いと思ったアイディアやターゲットに向けてランダムに発信し続けていくという発想です。2つの戦略は同時に行なうことが重要で、散弾銃戦略では流れを読みながら、当たりそうな企画を引き当て、順次戦略にも生かしていく。これは、球団経営に限らず、すべてのビジネスやキャリアプランに通じるメソッドだと思います。


――ベイスターズで成功してきた斬新な企画の数々の裏には、芽が出なかったものもたくさんあるのでしょうか。


池田 正直、失敗したこともたくさんありますよ。野球の打者と同様、3割打てば成功なので。極端な話、7割の失敗を気にしていたら、何も生まれてこないでしょう。


池田 純(いけだ じゅん)
1976年1月23日、神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学卒業後、住友商事、博報堂を経て、2007年にDeNAに入社。執行役員マーケティングコミュニケーション室長を務める。2010年にNTTドコモとDeNAのジョイントベンチャー、エブリスタの初代社長として事業を立ち上げ、初年度から黒字化。2011年に横浜DeNAベイスターズの社長に史上最年少の35歳で就任。5年間で数々の改革を行ない、売上は倍増、観客動員数は球団史上最多、24億円の赤字から5億円超の黒字化に成功。2016年10月16日、契約満了に伴い、横浜DeNAベイスターズ社長を退任。現在はJリーグ特任理事、日本ラグビーフットボール協会特任理事、明治大学学長特任補佐、複数の企業の社外取締役やアドバイザーを務める一方、Number Sports Business College(NSBC)を開講するなど、いくつもの肩書を持つ実業家として活躍している。



※史上最年少社長が明かす「常識の超え方」2へ続く


(「文春オンライン」編集部)


注: この記事は配信日から2週間以上経過した記事です。記事内容が現在の状況と異なる場合もありますのでご了承ください。

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