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イスラエルのビジネスエリートが語る「日本の企業はここが残念」

2017年11月22日 07時00分 (2017年11月23日 06時41分 更新)

 イスラエルがハイテク国家として成長できた背景には、サイバー特殊部隊「8200部隊」に象徴される軍の超エリート教育があった。『 知立国家 イスラエル 』(文春新書)の筆者・米山伸郎氏が司会となり、東京を拠点に活動するイスラエル特殊部隊出身のビジネスエリートに日本経済のポテンシャルと限界について聞いた。


(全2回・「 イスラエル軍サイバー特殊部隊出身者が語る『私たちが日本にきた理由 』」から続く)


〈知日派のイスラエル人たちは、日本に大きな「伸び代」があることを感じ取っている。少なくともイスラエルに比べて、日本のベンチャー市場にはまだまだダイヤの原石が埋もれていると彼らがみているのは間違いない。今後、日本とイスラエルが協働してその伸び代を実現させる可能性は大いにある〉


――『知立国家 イスラエル』はじめに イスラエル急成長の秘密を探る



■簡単ではない新幹線のオンライン予約

――みなさんの日本との関係について詳しく聞いていきます。


 ヨアブ 日本とイスラエルの架け橋になると考えた理由から話しましょう。私が最初に日本に移り住んだのは1999年でした。当時、イスラエルが日本より進んでいた分野はありませんでした。よくイスラエルの友人や親族にそのような話をしたことを覚えています。日本は建設、コンピュータ、製造業など、あらゆるテクノロジー分野で先進的だったのです。ところが、2010年代に入って再び日本を訪れたとき、日本は以前と同じような立ち位置にいましたが、イスラエルは根本的に変化していたのです。


 大きなドライビングフォースになったのは、やはりインターネットの存在でしょう。情報を効率的に安価にやりとりすることが可能になり、地図の上では小さく隔離されたイスラエルの競争力を高めるビジネスチャンスが訪れました。飛行機に乗せなくても、広大な工場を建てなくても、ソフトウェアは世界中に売ることができるからです。トヨタの「カイゼン」のような長年のプロセスを経なくても、これらの企業はジャンプアップできます。日本の競争力は明らかに低下しています。モノづくりのポテンシャルはまだまだ高いですが、新しいグローバル競争に太刀打ちできる産業ではありません。


 アサフ 私も「先進国」のイメージがあっただけに、いろいろ違和感がありました。


 ヨアブ 例えば、新幹線は素晴らしい交通システムですが、15年前に私が日本に住んでいたときから大きくは変化していません。オンラインでチケットを買うことは簡単ではありませんが、海外から訪れる人間にとっては信じられないことです。日本人は、まだまだレンタルショップでDVDを借りますよね。世界中ではストリーミングサービスがはやっている中で、かなり奇異な印象を受けてしまいます。中国のような規制や検閲がないのに、世界中で標準化されているサービスが十分に提供されていない現状がある。


 ニール ソフトウェアの技術が、必ずしもハードウェアの水準に追いついていません。


 ヨアブ 「ここには、コネクションを活かす場面がいくらでもある」と感じました。イスラエルの競争力は、近年急速に高まっていますからね。ただ、イスラエルは日本と比べると製造拠点の品質は大きく劣っていますから、両者をつなげる価値があるのです。



 ニール その理念に共感したので、私はヨアブと一緒に働いています。イスラエル政府は最近では中国にインフラ建設を発注しているケースが目立ちますが、もっと日本とのつながりを強めるべきだと思います。私は日本のトイレに感嘆しましたが、トイレテクノロジー以外にも、「ワオ。これはイスラエルに導入すべきだ」と感じたものが多々ありますから(笑)。


 アサフ 私が働いているのは、ソフトバンクとイスラエルのベンチャー企業・Cybereason(サイバーリーズン)の合弁事業です。1年半ほど前、日本にもオフィスをオープンさせました。そして私は日本語の勉強をしていましたので、日本での職場をオファーされたのです。


 私のミッションは、現地スタッフを訓練することです。4、5年前に初めて日本でサイバーセキュリティ関係の仕事をしたとき、すべてが10年遅れの水準だったことに驚かされました。自社製品について説明する前に、サイバーセキュリティの基礎的な「講習」が必要だったことも少なくありません。しかし、日本は中国、北朝鮮、ロシア、東ヨーロッパなどあらゆる地域から容赦ないサイバーアタックを受けているので、その防御のお手伝いをすることで大好きな日本社会に貢献したいという思いもあります。


――日本はサイバーセキュリティの欠如によって、相当額の損失をしているということでしょうか。


 アサフ その通りです。警察レポートによれば、日本はサイバーアタックによって毎年10億ドル単位の損失を出しています。直接的なデータ窃盗もありますし、知的財産や特許の不正入手も甚大な被害になっています。大企業は、こうした問題を認識しているはずですが、なかなか新しい環境に適応できないのが現状です。


 私たちはソフトバンクをパートナーにビジネスを展開しています。これは本当に幸運なことでした。「ソフトバンクが価値を見出しているのなら、それだけの意味があるのだろう」という評価につながっているからです。ただ、それは他の業種にも言えるかもしれませんね。大企業の動きを見てからでないと、評価が定まらないという問題です。


 ニール ブランド意識ですね。


 アサフ 私たちは1年半で顧客数を4倍以上にすることができましたが、かなりのハードワークでしたね。ソフトバンクのような巨大企業の支援がなければ、とても無理だったでしょう。



■間違いなく文化的な摩擦は起きるが

 ニール 私は日本に関するイスラエル人の意識も変えたいですね。イスラエルの起業家には「このハードウェアのテーマパークに一度はおいでよ」と言いたい。日本が何を提供できるのか、まず身をもって体感してほしい。この魅力を味わったら、安易に「とりあえずアメリカへ行こう」という発想にはならないはずです。もちろん、日本は遠いですし、イスラエルからの直行便もない。過去に「失敗」した企業からは、「もう日本はいいよ」なんて声も聞こえてきます。アジア支社はシンガポールや中国にあれば十分だと。こんな状況だからこそ、イノベーションのための両国の架け橋が必要なのです。


 アサフ イスラエル企業が日本とのビジネスを始めると、まず間違いなく文化的な摩擦を経験することになります。イスラエル人は「なぜ日本人は何でも正確じゃないと気がすまないんだ」と当惑するし、逆に日本人は「なぜイスラエル人は正確な回答をしてくれないんだ」と頭を抱える(笑)。


 ただ、個人的には日本のビジネス文化にはいい点がたくさんあると感じています。職業倫理は高いし、オフィスも整理整頓されている。私はイスラエルの精神を日本の効率的で秩序だった職場に持ち込めることをとてもポジティブにとらえています。街中で突き飛ばされることもないし、みんな行列にキチンと並んでいますからね。イスラエルでは……。


 ニール そもそも列なんてないからね(笑)。


 アサフ 社会の秩序は、本当に意味があることなんです。


 ヨアブ 実際に日本とイスラエルのビジネスを融合させるためには、どんな方法があるのか。即時的な効果が見込めるのは、Cybereasonのようなジョイントベンチャー(合弁企業)ですね。ただ、それだけでは十分とは言えません。イスラエル企業の日本進出を手助けしつつ、日本企業によるイスラエルへの投資を呼び込むことが、私たちの目下最大の仕事です。



〈イスラエルは「俺がやらずして誰がやる!」というメンタリティを感じさせる。なにしろ「国の生存」がかかっている。それは危機感と表裏一体である。だからこそイスラエル国内はもとより、世界中のユダヤ人がネットワークで繋がり、助け合う。目標はただ1つ、「生存」。そのために、イスラエルは「知」を結集してきたのである〉


――『知立国家 イスラエル』はじめに イスラエル急成長の秘密を探る


――国民1人あたりの起業率、ベンチャーキャピタル投資額などで、イスラエルは世界トップクラスです。なぜイスラエル人は日本人と比べて起業家精神、アントレプレナーシップに富んでいるのでしょうか。


 ヨアブ 一人ひとりの個人には国籍が違っても大きな違いはないと思います。違いを生み出すのは環境です。アントレプレナーシップについても同じことが言えます。日本社会では、新しいことを始めても、必ずしも賞賛や評価の対象になるわけではありません。よほどの変わり者でなければ、そのような存在になろうとは思わないでしょう。私自身も、日本社会で生まれ育ったら起業しようという発想にはならないと思います。


――日本には、「出る杭は打たれる」ということわざもあります。


 ヨアブ 起業するまでには、本当にたくさんのハードルがあります。有名大学を卒業して「ユーシュー」な人ほど、他にいくらでもキャリアの選択肢がある。一方、イスラエルでは起業家になる環境が揃っています。


 アサフ 結局、人間は人間なんです。どんな民族でもどんな宗教でも、スマートな人もいればそうでない人もいる。違いがでるのは、社会の成り立ちからでしょう。イスラエルの若者たちは、自分たちの意見が輝くこと、取り入れられることに大きな価値を認めます。そのためには、中小企業やスタートアップ企業に活路を見出すのです。大企業の安定性を求める日本とは反対ですね。


 教育制度の違いもあると思います。例えば、日本の学校では、「先生の言うことをききなさい」と教えられるそうですね。イスラエルでは、先生に従わないこと、あるいは上司や教授に面と向かって「あなたは間違っている」と言うことは至極普通です。私は入隊直後も、将軍に向かって「賛同できません」と告げたことがあります。いずれも日本ではあまり見られない光景です。間違いを指摘するにしても、恥をかかせないようにする。同じように英語を話す日本人でも、帰国子女と日本社会で育った日本人では、そのあたりの感覚がまったく違うように感じます。


 ヨアブ 私は日常的に日本語を話していますが、いまだに「ケイゴ」がうまく話せません。日本人だったら、きちんとケイゴを使えない社会人は「気さくな人」というよりは「知性の足りない人」だと受け取られてしまうんでしょう? 私は外国人だから、そのあたりを大目に見てもらえるんですよ。ただ、若い人がのびのびと活躍できる社会に徐々に変化してほしいとは思っています。



■「カイゼン」がインターネットに及べば……

――日本では革新的なウェブサービスが立ち上がっても、基本的には国内で完結してしまいます。一方、イスラエルのスタートアップでは、最初からグローバルマーケットをターゲットにしていると思います。日本のネットベンチャーは、まだ世界で勝負できるのでしょうか。


 ニール 「グローバルに」という合言葉は、イスラエルのスタートアップ企業に共通している点ですからね。私たちは今月末に都内で「ジャパン・イスラエル・イノベーションサミット」を開催しますが、そのテーマがまさに「グローバルに」。最初から外のマーケットを狙っています。


 ヨアブ とてもいい質問です。私は、そこに大きなポテンシャルがあると考えているからです。日本にとって、モノづくりのクオリティは大きな財産です。そこがインターネットやソフトウェアとうまく結びつけば、強力な武器になるはず。その過程で、イスラエルや他の国との提携もあるかもしれません。


 例えば、民泊サイトの大手Airbnbはアメリカの会社ですが、テクノロジー自体はそこまで複雑ではありません。こういうサービスは、日本企業が類似システムを作れば大きく使い勝手を向上させることが可能だと思います。日本発になるのか海外企業とのジョイントベンチャーになるのかは別として、細部まで行き届いた「カイゼン」がインターネットに及べば、Airbnbのような先行サービスに打ち勝てるようになるはずです。先ほど新幹線のオンライン予約の話をしましたが、少なくとも私の知る限りでは日本の鉄道システムは世界一です。


 アサフ 間違いない。


 ニール 食に関しても世界一です。日本における美食のイノベーションを確かめたければ、コンビニに足を運ぶだけで事足りるわけです。常に期間限定の新商品が発売されていますけれど、他の国ではありえません。


 アサフ しかも安い。イスラエルで普通の食事をしようと思ったら、日本の倍以上はかかりますから。日本に遊びにくる友達は「物価が高い国」だというイメージを持っていますが、少なくとも食とお酒は違う。みんな驚いていますね。



 ヨアブ 企業にも向き不向きはあると思いますが、グローバル展開するために効率的なのは、特定の分野に強みを持っている海外企業に投資をすることです。私の立場からは、イスラエル企業を推しますが。Cybereasonはその好例です。そうやってシナジー効果を積み重ねていくことで、日本のインターネット企業も海外に通用するサービスを展開できるようになるのではないでしょうか。


 ニール そして、買収先や投資先をあまり「日本化」しないことですね。


――「0から1」を生み出すのが得意なイスラエルのベンチャー企業、そして「1から100」への改善を得意とする日本のモノづくり技術の協働こそが、世界に通用するビジネスにつながるかもしれないということですね。今日はありがとうございました。


写真=山元茂樹/文藝春秋


(「文春オンライン」編集部)


注: この記事は配信日から2週間以上経過した記事です。記事内容が現在の状況と異なる場合もありますのでご了承ください。

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