0

AIで「未来の年表」はこう変わる――#1 河合雅司×井上智洋

2017年11月27日 11時00分 (2017年11月28日 10時41分 更新)

出典:『文藝春秋』2017年11月号


 少子高齢化による危機が叫ばれて久しい現代ニッポン。


 その一方で、近年目覚ましい発達を遂げているAI人工知能)にも注目が集まっている。AIは「人間から仕事を奪う」と言われる一方、介護などの分野で「人手不足を補ってくれるかもしれない」と期待もされている。


 人口減少とAIの発達は、日本の未来に何をもたらすのか。


『未来の年表』(講談社現代新書)をはじめとして日本の人口動態について著書がある、産経新聞社論説委員で大正大学客員教授の河合雅司氏と、『人工知能と経済の未来』(文春新書)の著者で、AI研究にも精通する駒澤大学経済学部准教授の井上智洋氏が語り合う。


◆◆◆



河合 私は人口政策、社会保障政策が専門です。残念ながら、日本の人口減少は止まりません。ならば、それを見据えた長期的政策が必要であると考えます。社会保障制度や雇用制度は、このままでは破綻は誰の目にも明らかです。2024年には「3人に1人が65歳以上の“超・高齢者大国”になる」、2026年には「認知症患者が700万人規模に」、2030年には「団塊世代の高齢化で東京郊外にもゴーストタウンが広がる」。私はこうした事態を「静かなる有事」と名付け、警鐘を鳴らしてきました。


井上 私はマクロ経済学が専門です。ただ、大学時代に計算機科学を専攻しており、人工知能に関連するゼミに所属していました。そんな経緯もあって、AIが経済に及ぼす影響も研究しています。


 日本の経済成長率については、2020年代後半に早くもゼロ成長時代に突入するという予測があります。要因は、まさに少子高齢化に他なりません。こうしたなか期待されるAIによる新たな革命は、一般に「第4次産業革命」と言われます。もうこの革命は始まっていると言う人もいますが、私は2030年ごろになると予想しています。AIは今ブームですが、まだ大して普及しておらず、そのころでないと、AIが生産性の向上に与える影響が、マクロ的な統計に表れてこないからです。なお、現在、囲碁や自動運転など特定の分野に特化した「特化型AI」が実用化されていますが、2030年ごろには人間のような知的作業をこなせる「汎用AI」の開発の目処が立つと言われています。「汎用AI」で、経済や社会のあり方が大きく変わる可能性があります。


AIが取って代わる銀行業

河合 まずはその2030年までを見て行きましょう。2030年といえば、人口動態では「勤労世代の高年齢化」が問題になっているころです。「高齢化」というと65歳以上の高齢者が増えることだけが問題ではありません。


 15年後の2030年前後は、40、50代が増え、20、30代がさらに減っていくことになる。明らかに社会全体としては若い労働者が減り、採用もしづらくなる。会社のなかでの役割も変わり、昔であれば、20代とか新入社員がやっていたような仕事を30代、40代がやらなくてはならなくなります。



井上 私も、そうした人手不足は2030年ごろまでかなり深刻に続く可能性があると思っています。


 よくAIに関して、「人間の仕事を奪う」ということが言われます。技術の進歩によって失業が生まれることを「技術的失業」と言いますが、これはAIでも必ず起きます。ただ、この頃は、その影響が業界、業種によって異なる“まだら模様”になるのではないでしょうか。


 今でも人手不足が深刻なのは、建設業や飲食店、介護の分野です。そのような分野は人が体を動かして作業することが多いので、AIが人の代わりになるには、AIとともにロボットを作らないといけません。研究開発が2段階必要なんです。そうすると、研究開発の進歩というのは遅いということになります。


河合 どういった仕事がAIに置き換わるとお考えですか。


井上 やはり巷間言われるように、すでに技術が進んでいる自動運転車によりタクシードライバーが失業するとか、ドローンにより配達員が職を失うということは少なからず起きると思います。ただ、それは2020年代前半以降徐々に進行するものと予想されます。


 一方で、現在既にIT化が進むことで少しずつ仕事が減っているのが「事務職」です。文章の作成や解析、事務手続きなどの効率化はAIを含むITが得意とするところです。なかでもこれから一番目立って技術的失業の問題が深刻になるのは、銀行業だと考えています。銀行員の仕事はかなりの部分がAIで代替できるからです。銀行業はすごく若者に人気がある就職先だと思いますが、こういったところでむしろ人手が要らない、余ってしまうということが起きる。一方で、建設業や飲食店で人手不足になる。そうした“まだら模様”になると思っています。



河合 IT技術の発展の速度を考察するときに、参考になるデータがあります。


 経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」(2016年)を見ると、2019年の約92万3000人をピークとして、翌年からIT関連産業の就職者が退職者を下回る状況になるとされています。2030年には、約85万7000人にまで減ると推計されます。IT人材は、2030年において、市場規模を最も大きく想定したケースでは、79万人程度の不足が見積もられています。AI開発スケジュールの停滞で実用化にも遅れが生じたりする可能性もあります。


井上 おっしゃるようにエンジニアが不足することにより開発が遅れる可能性はありますし、さらに深刻なのはそれを支える基礎的な技術の研究が遅れることです。現在、日本の科学技術はかなり急激な速度で衰えているという事実があります。


 一国の科学技術力を測るとき、代表的な指標になるのが論文数です。アメリカ、中国は突出していますが、他の主要国もほとんど右肩上がりで増えているなか、日本だけが減っています。AIを含むコンピューターサイエンスにおける論文数もかなり少ない。今の学生は、大学院を目指す人が明らかに減っています。これから少子化が進めば、学者になりたいと思う人はさらに減って、今の傾向に拍車がかかると思います。


 ところで、2030年までには、高齢者の生活や社会保障の問題も深刻になりそうですね。


■3人に1人が65歳以上

河合 2020年の東京五輪を終えたころから、日本は急速に高齢化が進むと見込まれています。


 一般には、「2025年問題」として認識されていますが、実際には2024年に団塊世代が全員75歳以上になり、高齢者全体で約3677万人に達します。実に、国民の3人に1人が65歳以上、6人に1人が75歳以上となる計算です。高齢化のスピードが速すぎるところに日本の課題があります。


井上 わずか7年後に、まさに「超・高齢者大国」が待っているわけですね。


河合 これにともない、社会保障費の膨張や認知症患者の増加などの問題がさらに大きくなります。


 介護保険の利用者数は、年々ハイペースで伸びており、厚生労働省の試算によると2025年には21兆円程度に膨らむ見通しです。


 内閣府の「高齢社会白書」は、認知症患者は2025年には、65歳以上人口の約20%にあたる730万人になると推計しています。我々はもう少し高齢社会の現実を正しく理解する必要があります。


井上 AIでカバーできることで言えば、例えば老人ホームで、顔画像をあらかじめ登録しておいて、徘徊の癖がある認知症の方が外出しようとすると、アラートが鳴ってスタッフに知らせるといった技術は既に出てきています。


河合 それは期待したいですね。これからは「認知症の手前」の高齢者にかかるコストも問題になってくるでしょう。基本的には元気なのですが、誰かの助けが少しだけ必要になるという状態の人は認知症患者よりもはるかに多くなります。たとえば、「切れた電球を取り替えることができない」、「ビンの蓋を開けられない」ということです。些細なことですが、これらへの対応は公的サービスではなかなかできませんし、民間に頼むとお金がかかってしまう。さらに、「物忘れ」なども社会保障ではカバーすることはできません。


 誰かのちょっとしたサポートを必要としている高齢者が大きく増えるなかで、どういった対策を立てていくかが今後の課題です。


井上 いまでもPepperなどのロボットが作られていて、今後、もっと身近に活躍できるようになると思います。ただ、ビンの蓋をあけるということを考えた場合、全く同じ形、大きさであれば専用のロボットで対応できるのですが、大きさも形もバラバラになってしまうと、意外と難しいです。あらゆる人間の動きをスムーズにこなせる「汎用ロボット」の開発が待たれます。


河合 次に2030年以降を見ていきましょう。井上さんは、この時期から、先ほどおっしゃっていた「特化型AI」に代わり、「汎用AI」が出てくる可能性を指摘されています。私は期待しつつも、人間を超えるAIがそんなに簡単に実用化するのかと、どこか疑っているところもありますが、もし、実現した場合は、未来はどうなると想定されていますか?


井上 私自身は、汎用AIは人間の知性までは超えないと考えています。ただ、人間並みか、人間をぎこちなく真似られるくらいのAIが登場したときには、かなりの範囲の仕事をAI、あるいはAIを組み込んだロボットにやらせることができるレベルになっているでしょう。


 そうなれば、人手不足というのはかなり解消されるでしょうし、「技術的失業」という側面から考えれば脅威とも言えます。


河合 具体的にどのような業種で影響が出るのでしょうか。


井上 現在もスマートフォンには、音声で要望を伝えるとそれに応えてくれる「パーソナル・アシスタント」が存在します。汎用AIは、まずはそれがものすごく賢くなったものとして活躍すると思われます。現在のパーソナル・アシスタントは、せいぜい飛行機やホテルの予約ができるぐらいですが、汎用AIになると、「会社の決算書を作っておいてくれ」とか「自動車産業の最近の動向を10ページ以内にまとめておいてくれ」と指示するとたちまち完成させるようになります。そうすると、企業の事務職が根こそぎ消滅する可能性すらあるわけです。


 また、汎用AIが「ロボット」の頭脳として搭載されるようになると、あらゆる肉体労働をこなすことができるようになります。そうなると、建設や介護などの業界でも人手不足を解消できることになります。



河合 私は、どんなにAIが普及しても、人間でなければできない仕事は必ず残ると思います。


井上 その通りです。私が考えているのは、クリエイティビティ、マネジメント、ホスピタリティの3つに関連する分野です。


 汎用AIについては、多くの研究プロジェクトで人間の脳の機能を真似て作る試みがなされていますが、人間の自分自身すら気づいていない潜在的な感性や感覚、欲望の全てがコンピュータ上にコピーされてソフトウェアとして再現されるわけではありません。クリエイティビティなどに関連する分野では、人間が自らの感性や感覚、欲望に基づいて判断することが求められます。


 ただし、こうした分野にAIロボットが全く進出してこないわけではなく、そこでも人間は言わば「機械との競争」にさらされます。たとえば、バーテンダーにはホスピタリティが必要だと思われますが、ロボットよりもホスピタリティが低いバーテンダーは失職してしまうでしょう。それでも、ものすごくホスピタリティが高い人間のバーテンダーは生き残ることになります。


AIで「未来の年表」はこう変わる #2  に続く)


(「文藝春秋」編集部)


注: この記事は配信日から2週間以上経過した記事です。記事内容が現在の状況と異なる場合もありますのでご了承ください。

コメントするニャ!
※絵文字使えないニャ!