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JINSが「メガネ業界の非常識」と言われながらも成功した理由

2018年4月17日 11時00分

 普段何気なく掛けているメガネ。身近なツールである一方で、街で見かけるショップやメガネの専業メーカーがどのようなスタンスで、どのようなビジネスを展開しているかまでは案外知らない人も多いだろう。そこで、今回は“メガネをビジネスする”をテーマに業界の最前線で活躍する経営者に連続インタビューを敢行した。


 第1回は、アイウエアブランドJINSを運営する株式会社ジンズ代表取締役社長の田中仁氏。メガネを気分やシーンによってかけかえる。低価格化によりメガネの新しい在り方を提案したJINSは、ブルーライトカットをはじめとした“機能性アイウエア”で新たな市場も創り出した。


 メガネを通じたライフスタイルの変革に挑戦し続けているJINSの原動力とは。そして、これからの戦略とは――。



■メガネの民主化をしたかった

――この10年でメガネ業界は大きく変化しましたが、田中社長はその変化をどうご覧になっていますか?


田中 まず挙げられるのが、単価下落によるマーケットの縮小。一方で現在はメガネをファッションとして取り入れる人が増えてきて、少し持ち直してきています。とはいえ、まだ洋服ほど頻繁に替えるものにはなっていませんが。


――JINSは1988年に設立され、2001年よりメガネ事業に進出されています。業界外から参入されて、当時のメガネ業界はどのように映りましたか?


田中 メガネは本来、お客様が主役であるはずなのに、これまで販売店側に主導権がありました。たとえば、視力データをお客様に公表しないなど。レンズについての情報を知らされないまま、店に勧められるままに買っていた。それに、2万円のメガネを買うつもりが、レンズ込みで最終的に5万円になった、というようなことも多かったですよね。そうした意味で、我々はメガネの民主化をしたと思っているのです。


――メガネ選びの主権をお客様に、ということですか。


田中 はい。その一つが、2009年に導入したレンズの追加料金無料という価格体系です。JINSでは、一般に超薄型といわれる屈折率1.74のレンズでも0円。もちろん薄型のレンズにすると原価は高くなりますが、それは店側の都合でお客様からしたら釈然としない内容だったはずなのです。だからこそ、ゼロにしたかったのです。それまで高い追加料金を払っていた方からは、「JINSは神」なんて言われたこともありましたよ(笑)。もちろんメガネ業界においては非常識なことだったので、「あの会社は潰れるだろう」というようなことも言われました。これでJINSは終わったと。


■“機能性アイウエア”で新市場を創出

――たしかに、レンズの追加料金0円というのはインパクトがありました。では、この価格体系の導入が、ビジネスとしての飛躍につながったのでしょうか。


田中 その一つであることは間違いないです。じつはこの2009年というのは、会社のビジョンを決定し戦略を大きく変えた時期でもあるのです。というのも、メガネ業界に参入した当初は、先ほどお話ししたメガネの民主化、つまり情報の囲い込みをしないということと、フレームの低価格化だけで勝てると思っていたのです。けれど、類似の店舗も次々に出現して競争が激しくなるなかで、次の差別化が急務となった。そうして打ち出したのがレンズの追加料金0円、そしてもう一つが軽量メガネの「Airframe(エアフレーム)」です。


――JINSが打ち出した機能性アイウエアの第一弾ですね。


田中 このエアフレームは、これまでメガネには使われていなかった素材を使い、“軽さ”に特化することで、これまでにないかけ心地を実現しました。すると既存のメガネのかけ心地にストレスを感じていた方たちから支持され、爆発的にヒットしたのです。その後、同業他社からも似たようなフレームが発売されました。


――軽量メガネというジャンルが確立されるきっかけとなりましたね。


田中 その次に大きかったのは、やはりブルーライトカット機能を兼ね備えたパソコン用メガネ。「JINS PC(現:JINS SCREEN)」ですね。


――これは本当にヒットして、ブルーライトという言葉も広く認知されました。


田中 発売は2011年9月ですが、2012年11月には累計販売本数が100万本を突破し、「JINS=機能性アイウエア」というイメージが不動のものになったと思っています。


 さらに、現在ブルーライトカットよりも、もっと大きな存在になる可能性を秘めた製品を発売しているのですよ。バイオレットライトを透過するレンズです。


■バイオレットライトで近視を抑制!?

――バイオレットライト……ですか?


田中 太陽光にはバイオレットライトという紫外線とブルーライトの間に位置する波長360~400nmの間の光が含まれています。じつはこの光に、近視を抑制する可能性があることが最新の研究でわかりました。現在ビルの窓も車のフロントガラスもメガネのレンズもUV400がほとんどで、このバイオレットライトを遮ってしまっていることが近視の増加と相関関係がありそうなのです。そこでこのレンズは、眼に有害とされる紫外線とブルーライトをカットしながら、バイオレットライトを通常のレンズより多く透過するものになっています。


――どういった経緯で商品化に至ったのでしょうか。


田中 産学連携でともに研究を行なっていた慶應大学医学部が、このバイオレットライトの作用を発見したことがきっかけです。先ほどお話ししたパソコン用メガネもそうなのですが、我々は2008年から産学連携をスタートさせていて、すべての製品にエビデンスを取り、サイエンスとともに成長していこうと決めました。


 というのも、当社の商品は価格が安いではないですか。それは多くの人に喜ばれている一方で、「JINSの製品って本当に大丈夫なの?」と疑いを持つ人もいるわけです。だからこそ、きちんと科学に基づいた研究開発を行なうことにより、エビデンスに裏付けられた製品を発売したいと思ったのです。ただ“なんとなくいい”というだけでは、許されないなと。メガネの小売業で社内にR&D(研究開発)室を持っているのは、世界でも我々ぐらいだと思います。


■研究開発は「ライフスタイルを作りたい」と強く思ったから

――おっしゃる通りJINSは次々と革新的な製品を開発して、視力矯正を必要としない人でもかけたくなるような新しい市場を創り出しています。そうした新しいことを既存のメガネ業界ができなかったのは、どうしてだと思いますか?


田中 そもそも、自分たちで開発研究をするという概念がなかったのではないでしょうか。未だに小売りはメーカーが開発したものを仕入れる、という既存のビジネスからどこも脱していないところが多い。なぜなら、ヒットするかわからないものに研究開発費を投入するのは、コストも体力も必要ですから。


――では逆に、なぜJINSにはそれができたのでしょう。おっしゃる通り結果が出るかわからないものに研究開発費を投入するのは、リスキーなことでもありますよね。


田中 それは、我々が常に「人真似でなく自分たちが時代を作りたい」、「ライフスタイルを作りたい」と強く思っているからです。ですから、どの製品に関しても研究に関しては迷わずスタートさせました。それをしないと、差別化できません。安くても絶対的な品質の良さがなければ、お客様は見抜きますよね。それでは早晩行きついてしまう。ですから、躊躇はなかったですね。


――これまで既存のメガネ業界とは異なる考え方で様々なサービスや製品を産み出すことができたのは、やはり業界外から参入したということが大きいのでしょうか。


田中 大きいかもしれないですね。自分のなかに業界の常識や慣習が染みていなかったので、まっさらな目で見ることができたのだと思います。それが、常識を疑うきっかけになったのかもしれません。ビジネスとして関わるまでは、サングラスぐらいしか買ったことなかったですから(笑)。


――ちなみに、現在はメガネを何本ぐらいお持ちなんですか?


田中 最近使っていないものまで含めれば、50本ぐらいですかね。


■日本だけは、ベーシックなものが売れる

――現在、海外の店舗も増えてきていますね。


田中 現在中国に125店舗、台湾に19店舗、アメリカに4店舗を展開していまして、今後フィリピンへの出店も予定しています。


――国によってユーザーの志向性に違いはあるのでしょうか。


田中 ありますね。トレンドという点では、日本だけが特殊かもしれません。アメリカと中国と台湾は比較的トレンドが近いのですが、日本だけはスクエア型などベーシックなものが売れるんです。おもしろいなぁと思いました。海外の企業が日本に来て苦戦するのもわかります。


――どうして日本だけ特殊になるのでしょう?


田中 国民性でしょうか。冒険することをあまり好まないなど、人より目立ってはいけないという意識があるのかもしれませんね。


■“メガネを販売する”ビジネスモデルからの脱却

――冒頭にマーケットは縮小しているというお話もありましたが、今後も新しいニーズを創出していけば、マーケットの規模は広がるとお考えですか。


田中 それほど大きくは広がらないのではないでしょうか。今はお客様のお金の使い方がどんどん変わっています。もうモノを買うことにさほど興味がないのではないですかね。高付加価値製品は別ですよ。たとえばフェラーリのような高級車は、単に車を所有するのではなく、“フェラーリに乗る”という体験や価値にお金を払っている側面もある。こうした付加価値を提案できないコモディティ化(汎用品化)されたものは、ハードだけでは難しいでしょう。


――そうなると、メガネ店もさらに淘汰されていく時代になると。


田中 ならざるを得ないでしょうね。それは自戒も込めて。我々もつねに変わらないといけないと思っています。そういう意味では、じつは今“単にメガネを販売するビジネスモデル”から脱却したいと考えているのです。


写真=平松市聖/文藝春秋


(「 JINS社長が語った『メガネをタダで配る』未来型ビジネスモデル 」に続く)


(伊藤 美玲)


注: この記事は配信日から2週間以上経過した記事です。記事内容が現在の状況と異なる場合もありますのでご了承ください。

「JINSが「メガネ業界の非常識」と言われながらも成功した理由」のコメント一覧 1

  • 匿名さん 通報

    イオンにある店舗の作業場は密閉式にしてほしい 周囲に加工時の匂いがただよって臭い

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