0

なんでまた「東京メトロ」が野菜を作り始めたのか?

2018年4月23日 07時00分

 メトロが、お野菜を作っているらしい――。メトロとは、ご存知東京の地下鉄網を支える東京メトロ。鉄道会社、それも地下鉄会社が野菜づくりとはいかにも違和感たっぷりの組み合わせだ。一体どんな野菜をどこで作っているのだろうか。


■ベビーリーフ、ハーブ、レタス 11種類を水耕栽培

 というわけでやってきたのは西葛西駅近くの東京メトロ東西線の高架下。飲食店が軒を連ねる商業施設や駐輪場に挟まれた小さな区画に、まるで秘密基地みたいな小さな建物が建っている。聞けば、この秘密基地が東京メトロの“農場”なのだという。ちょっと訝りながら扉を開けて小屋の中に入ると……そこには水耕栽培のプラントが7基並ぶ。そして、プラントの中では様々な野菜を栽培中だ。今にも収穫を待つかのように生い茂っている葉っぱもあれば、発芽したばかりと思しき小さな葉っぱもある。種類はベビーリーフやハーブ、レタス類が中心で実に11種類だとか。



「事業を立ち上げたのは3年ちょっと前の平成26年12月。2年間のパイロット期間を経て、現在では東京周辺のホテルを中心に提供させていただいています。プラント7基をフルに使って、生産量は1日400~500パックほどですね」


■なんでメトロが野菜つくってるの?

 こう話してくれたのは、東京メトロの植物工場事業「TOKYO SALAD」を担当している事業開発本部の柴崎遼太さん。でも、そもそも一体何で地下鉄会社が野菜づくりをしているのだろうか。


「東西線の高架下の遊休地をどうにかして活用できないかというのがひとつ。そしてもうひとつは、食への安心安全の意識が高まっている中で、一貫して安心安全を追求してきた鉄道会社としての弊社の強みが野菜へのニーズと一致するのではないかと考えまして、新規事業として立ち上げました」(柴崎さん)


 プラントを使った水耕栽培にしているのは、限られた土地を有効に使うため。さらに、閉鎖型なので虫の侵入を防ぐことができ、農薬不使用で栽培できるというメリットがあるからだという。


■「鉄道会社に入ったのに、なんで種を蒔いているんだろう」

 とは言え、当然のことながら東京メトロの社員たちは鉄道のプロでも野菜づくりはズブの素人。事業の立ち上げにはなかなかの苦労があったという。


「そもそも、野菜があまり得意ではなかったですからほとんど触ったこともない。プラントメーカーさんからいろいろ教えていただきながら、本当に手探りではじめた感じでしたね」


 事業立ち上げ当時をこう振り返るのは、当初からTOKYO SALADに携わってきた高原麗美さん。今でこそ実際の栽培業務はパートさんが中心だが、立ち上げ時は社員4人で種蒔きから収穫まですべての作業をこなしていたという。


「鉄道会社に入ったのになんで種を蒔いているんだろうと思いながら(笑)。野菜の味もよくわからないけど、栽培しては食べて味を確かめて、って。でも、やってみると結構面白いんですよ。種はスポンジの上に置くように蒔くんですけど、スポンジの中に何ミリ埋めるかとか、霧吹きをどれくらいするかとか、細かいことひとつひとつで発芽率も見た目も味も変わってくる。作業そのものは簡単でも、こだわりだすとキリがなくて奥が深いんです。手間をかけた分だけ野菜は応えてくれますし」(高原さん)


■営業は「ネットで西葛西のレストランを検索するところから」

 実際、立ち上げ当初は思うように野菜が育たなかったり、味が薄かったり文字通りの試行錯誤が続いたとか。さらに、その試行錯誤は栽培以外の部分でも。


「東京メトロって輸送というサービスが商品じゃないですか。だから作ったモノを持ってどこかに売りに行くという経験はほとんどないんですよ。だからそもそも営業の方法がわからない(笑)。一番最初はネットで西葛西のレストランを検索して、『まずは電話してみたらいいのかな?』とか、そんな感じでしたから」


TOKYO SALADの営業スタイル

 東京メトロという大企業のイメージからはちょっと想像つきにくい、まさに手作りの新規事業立ち上げだったのだ。今でこそ当初の苦労が実って栽培は一定のマニュアルに基づいて行われるようになり、販売先もホテルを中心に大きく増えた。事業としては安定しつつあるようだ。


「でも、今でも試行錯誤はありますね。野菜が育ってくると葉っぱが重なって光の当たり方が不充分にになるので、間隔を開けるようにしています。ただ、その間隔を開けすぎると収穫量がどうしても少なくなる。その辺の試行錯誤だったり、あとは新しい品種の栽培実験もありますね」(柴崎さん)


 TOKYO SALADは、同社の社員たちが自らホテルなどに足を運んでシェフと話しながら販売する営業スタイル。その中で、シェフから新しい品種や味の要望を受けることもある。


「例えばレッドマスタードは辛味が特徴なんですが、その辛味の強い弱いとか。技術的な部分は私たちだけではわからないことも多いので、その都度プラントメーカーさんに話を聞いて、研究していきます。新しい品種の要望があればそれも。今ではチンゲンサイなどの栽培を実験しています」(柴崎さん)


■まさに産地直送、地産地消

 シェフの要望などを踏まえ、こうしたフレキシブルな対応ができるのもTOKYO SALADの特徴のひとつだとか。実際、立ち上げ当初に栽培していたサンチュやルッコラなどは既に栽培を辞めており、販売先からの要望で新たに増えた品種も多いという。


「葉っぱを育てるだけならいいんですけど、商品として売る以上は品質が一番。水耕栽培で野菜特有のエグミなども少なくて食べやすいですし、何より衛生的な環境で作っており、安心安全は常に心がけています。また、東京で栽培して近郊に自分たちで運んでいるので、まさに産地直送、地産地消。おかげさまで高く評価していただいていますし、これからも試行錯誤を続けながらおいしい野菜を届けていきたいですね」(高原さん)


 東京メトロの作った野菜「TOKYO SALAD」は、現在はホテルやレストランなどの企業向け。ただ、バジルだけは一部のスーパーマーケットなどに流通しているそうなので、見つけたらぜひ手にとってみてはいかが?


写真=鼠入昌史


(鼠入 昌史)


注: この記事は配信日から2週間以上経過した記事です。記事内容が現在の状況と異なる場合もありますのでご了承ください。

コメントするニャ!
※絵文字使えないニャ!