秦 基博 映画『天空の蜂』主題歌の新曲「Q & A」でこの時代に問うものとは?/インタビュー

■New Single『Q & A』インタビュー(1/2)

「曖昧なものの間で揺れている中で結局どうするのか、自分たちは何を選択するのか」(秦)

秦 基博の新曲「Q & A」がリリースされた。これは9月12日公開の映画『天空の蜂』の主題歌として書き下ろされたもので、秦が映画主題歌を担当するのは「ひまわりの約束」(映画『STAND BY ME ドラえもん』主題歌)、「水彩の月」(映画『あん』主題歌)、そして今作と、3作連続となる。前作、前々作と異なるのは、聴こえてくるサウンドはアグレッシブで、歌詞も突き刺さるように鋭いということ。映画が描くテーマも含め、ある種の社会性を感じざるを得ないこの楽曲は、リスナーの心を捉え、揺さぶるに違いない。不確かさや曖昧さが蔓延するこの時代に、秦 基博が問うものとは――?
(取材・文/片貝久美子)

答えがまずそこにあるはずなのに、もう一回問う。それがこの曲なのかな

――新曲「Q & A」は映画『天空の蜂』の主題歌ですが、制作はどの段階からスタートされたんですか?

秦 基博(以下、秦):僕のところに話が来た時にはすでに映画も完成していたので、映像を観て作りました。でも実は、楽曲のモチーフというか、デッサンみたいなもの……こういうサウンドで、こういう曲調でっていうのはもともと持っていたんですよ。映画を観た時に、あのイメージを完成させたら合うなっていうのがあって。それからメロディーを練り、歌詞を書いていきました。

――大作の主題歌ということで、やはり映像に負けない音楽を作ることを意識したんですか?

秦:そうですね。まずはサウンド感ですよね。すごい迫力というか、スケール感、スピード感がのある作品で。“ノンストップ・クライシス・サスペンス”と謳っているように、ドキドキハラハラ手に汗握る映画作品だったので、そこに対してまず最初に、こういうアグレッシブな曲調をぶつけたいなってイメージしました。それから、扱っている題材自体が、社会性を持っていたり、シリアスな内容ではあるんですけど、僕としてはそこで描かれている人間が持つ矛盾や業、性(さが)みたいなものにフォーカスして書きたいなって思いました。江口(洋介)さんと本木(雅弘)さんが演じる2人は、それぞれ自衛隊の巨大ヘリを設計した人と原発を設計した人なんですけど、そうやって使命を持って何かを生み出す人だったのに、ストーリーが進むにつれ運命が180度変わっていくんです。その2人を分けたものっていうのは何だったのか。あと、ヘリや原発も、使いようによっては役に立つし、使いようによってはすごく危険なものになる表裏一体の面があって。善悪とか、幸不幸とか……。実際、誰かにとって幸せなことは、裏を返すと誰かにとっては不幸せなことかもしれないし。そういう、とても曖昧なものの間で揺れている中で結局どうするのか、自分たちは何を選択するのかってことが曲のメインテーマになりました。それは映画からもらったメッセージだと思うんですけど。

――映画の原作は東野圭吾さんが20年前に書かれた小説ですけど、現代に置き換えるとすごく現実味を帯びてしまう内容で。だからこそ、身に沁みて思うこともあるというか。

秦:善か悪かは、それぞれの立場や価値観によって揺らいでしまうものだと思うんですけど、でも大前提として、自分の手は誰かを傷つけるためにあってはいけないというか。そこは誰しも、傷つけようとして行動することってないんじゃないかって思ったんですよね。そう信じたいし。でも、そうなっていない現実があったり、傷つけようと思ったわけじゃないのに結果傷つけてしまったり。そこは人間としての矛盾ではあるけれど、逆に人間味があるなとも思って。大前提があったとして、でもそうはならない現実もあって、で、どうする?っていう。答えがまずそこにあるはずなのに、もう一回問う。それがこの曲なのかなって思うんですよね。

――歌詞に出てくる<愛>が、その答えになるのでしょうか?

秦:んーーー、なんだろうな。愛ってところで言うと、愛情も憎悪も社会の中で暮らしているからというか、あくまで人と人が係わり合っているからこそ生まれてくるものだと思うんですよね。一人で生きていたら生まれようがない。誰かを愛そうとしたり、その裏返しで憎んでしまったりっていうのは自分たちが社会の中で生きているからこそ起こる問題だし、誰もが愛と呼ばれるような人間として求める幸せ、温もりみたいなものに向かっていく中で、もつれ合いながら傷つけたりしてしまっているような気がしたので、そういう歌詞になったと思います。結局、答えのようなものって歌ってないんですよ。そこは聴き手に委ねたというか。何かの答えを提示するというよりは、問いかけるほうがこの曲の在り方として自分としてはしっくりくる。だからこそ最後、<手を差し出せるか?>で結んでいるんだと思います。

――なるほど。そういった歌詞で表現されている揺れを、サウンドの力強さはしっかりと支えてくれていますね。

秦:やっぱり、音楽としてどこまで爽快に、軽やかに、ポップスとして成立させられるかというのは強く意識しました。シリアスになったり、重たくしてしまうことはなんか違うなっていうか。映画もそうなんですけど、エンタテインメントとして仕上げることにこだわった、と。先日お会いした堤(幸彦)監督も、社会的テーマを扱ってはいるけれど、観る時はとにかくハラハラドキドキして、気付いたら映画が終わっていて、でも何かが残ってるっていうふうにしたかったっておっしゃっていたんです。それは「Q & A」という楽曲も同じで。いろんなことがメッセージとして詰まってますけど、まずは音楽としてどうか、ポップスとしてどうかっていう。楽しんでもらいたいってところを追求しました。でも、それはこの「Q & A」に限らず、自分の音楽の在り方として、“楽しめる”ってところまで持っていきたいと思って作ってます。例え悲しい曲でも、悲しい曲にどっぷり浸かって楽しむっていうやり方も音楽にはあると思うので。

秦 基博 映画『天空の蜂』主題歌の新曲「Q & A」でこの時代に問うものとは?/インタビュー
Q & A【初回生産限定盤】

この曲はこのメンバーじゃないと自分が思い描く完成形に到達できない気がした

――今回のレコーディングに参加しているメンバー(玉田豊夢、鈴木正人、皆川真人、西川進)は、そういった秦さんの思い描くサウンドを具現化するために選ばれたんでしょうか?

秦:デモテープを作っている時点で、絶対にこの人たちだろうっていうのがあったんです。スケジュールが合う日をとにかく探して、半ば無理矢理、集まってもらって録りました。メンバーが変わっても大丈夫な曲もあるけど、この曲はこのメンバーじゃないと自分が思い描く完成形に到達できない気がしたので、そこは強くこだわりましたね。

――ミュージックビデオについてもおうかがいしたいのですが、転がっているシーン……実はあそこで転がっているのは秦さんではないとのこと。すっかり騙されてしまいました(笑)。

秦:スタントマンの方なんですけど、僕に瓜二つの人が来まして(笑)。

――体型だけでなく顔も?

秦:顔まで似てましたね。僕をちょっとシュッとさせて、さらに鍛えた感じの(笑)。お会いした時、自分でも似てるわーって思ったくらい。しかも、スタイリングもヘアメイクも本当に僕と同じようにして撮ったんです。

――そんな驚きもありつつ(笑)、映像はとてもインパクトのある仕上がりで。

秦:そうですね。番場秀一さんっていう、今回初めてご一緒する監督だったんですけど、初顔合わせの時点で監督の中に今回出来上がっているMVの断片的な映像がすでにあって……。僕のほうからは、シリアスさだけじゃなくて、ポップスとしての抜け感や聴いた時の爽快さを映像としても感じさせてくださいっていうリクエストだけお伝えしたんですけど、それ以前に監督が提示してくれた世界観が、すごく良かったんですよね。実際に出来上がった映像も、すごく余白があるというか、あまり断定的じゃないところが気に入ってます。楽曲をMVにする時って、自分の中にある景色をそのまま投影しても広がりがないので、そうやって自然とというか、他のクリエイターの方から沸き上がってきた映像がぶつかることで曲の解釈もまた広がると思うんです。今回のMVも、そういうぶつかり合いというか、広がり方があったので、かなり刺激的な現場でしたね。

――秦さんは映画から刺激を受け、MVは秦さんの音楽が刺激を与えて……いい形でのクリエイティブの連鎖があったんですね。ところで、これまで自分が主題歌を担当した映画を映画館で観たりもしているんですか?

秦:観ましたよ。「ひまわりの約束」の『STAND BY ME ドラえもん』も、「水彩の月」の『あん』も、自分でチケットを買って映画館に行って。

――そういう時ってどんな気分なんでしょう?

秦:「ひまわりの約束」や「水彩の月」もエンドロールで流れるので、帰らないでくれよ……とか(笑)。最後まで聴いてくれたらいいなとか。映画館の雰囲気はすごく気になりますね。あと、すごく具体的なことを言うと、5.1chのサラウンドミックスをしているので、どういうふうに音が聴こえているのか、歌や楽器の感じを細かく聴く時もあります。それは映画館の大きさとか、座っている位置とかによっても違うので一概には言えないんですけどね。一応、味わってみるというか。今回の『天空の蜂』も映画館で観ようと思っています。

秦 基博 映画『天空の蜂』主題歌の新曲「Q & A」でこの時代に問うものとは?/インタビュー
Q & A【通常盤】

社会的なメッセージを音楽で発信するのではなくて、発信した音楽の中に社会性があったというのが僕のやり方なのかな

――映画の予告編もCMで見かけますが、CMといえばカップリングに収録されている「恋はやさし野辺の花よ」も「いち髪」のCMソングとしてよくテレビから聴こえてきます。これまでいろんな人から歌い継がれている名曲をカバーするのはどんな心境ですか?

秦:今回はCMの制作チームからこの曲をっていうオファーがあったんですよね。僕の声でこの曲を聴きたいって言ってもらえたので、わりと素直に、そうやって求めてもらえるのは嬉しいことだな、と。アレンジもほぼ任せていただいて、もともと少ない楽器でやろうかなとは思っていたんですけど、実際にCMの映像を見せてもらったら、とてもシンプルだし、歌自体も短歌のような感じなので、これは弾き語りだなと思いましたね。あとはCMとのマッチングを考えて、マイクの選び方からどう録るか、どういうアコギを使うか、エンジニアさんと相談しながら決めていきました。

――アレンジでこだわったところは?

秦:自分の弾き語りの世界というか、そういうものを表現できるようにっていうのがまずありましたね。コードも自分の好きな響きに変えたり、キーもどこに設定したら一番いいか、いろいろ試したり。あとは、CMが15秒という短い時間なので、ゆっくりストーリーを積み上げるというよりは、ハッとテレビのほうを向いてしまうような音作りにしたいなと思いました。ただ、そのどれも、目的がハッキリしている分、イメージしやすかったですね。

――「Q & A」ではシンガーソングライターとして、「恋はやさし野辺の花よ」ではシンガーとして、それぞれ求められるものが違うと思うんですけど、そういったオファーの違いに対して秦さんはどんなふうに捉えているんですか?

秦:「恋はやさし~」などカバー曲の時で言うと、その曲をどうやって自分の歌にするか――そこが第一段階だと思います。今回の場合は映像や歌詞から想起させられる部分が大きくて、手助けしてもらったというか、すごく自然な感じでできました。それに比べると「Q & A」は違うかもしれないですね。こっちは映画の世界にフィットするのはもちろんですけど、自分の最新シングルにもなるので、自分の世界としてどうかってこともあるし。自分で一から作って歌うのと、カバーして歌うのとでは、たしかにアプローチは違うと思います。

――3曲目に収録されているのが「Dear Mr. Tomorrow(with Strings Quartet)」。こちらはセルフカバーですが、ストリングスをメインにしたアレンジが施されています。

秦:これは9月5日に青森でライブ(【世界遺産劇場 -縄文あおもり 三内丸山遺跡-】)があって、野外で、遺跡でっていうことで、ストリングスカルテットと一緒に演奏したら気持ちいいだろうなぁっていうのがあって。カルテットに合う曲、それでいてシングルのタイトル曲「Q & A」とのマッチングを考えた時に、「Dear Mr. Tomorrow」がいいかなっていうのはわりとすぐ浮かんだんです。原曲では楽器も全部自分で演奏して、ぎゅっとミニマムな感じでやったので、弦とか広がりのある楽器と合わせるとまた違う響きや景色がきっと見えるし。それから、この曲は2012年、3.11から1年後ぐらいの社会のムードとかを受けて作られていると思うんですけど、それを今、「Q & A」のカップリングに入れるってことは、近しいニュアンスがあるんじゃないかなと思いました。

――秦さんの楽曲は先ほどご自身でも言われたとおり、一聴するとポップスとしての印象が強いんですが、実はとても社会性があるというか、考えさせられるメッセージが込められていますよね。

秦:そうですね。なんていうか、社会的なメッセージを音楽で発信するのではなくて、発信した音楽の中に社会性があったというのが僕のやり方なのかなと。

――今という時代を生きている以上、社会性が出てくるのは当然だと思います。

秦:出ないと逆におかしいというか。そこをどう切り取るかだと思うので。そういう意味でも、「Q & A」の中にも今の社会とか時代に対して、自分が感じていることは入っていると思いますし。直接的には言ってないですけどね。

――インタビュー2へ

≪動画コメント≫


≪リリース情報≫
New Single
『Q & A』
2015.09.09リリース

【初回生産限定盤】CD+スペシャルブックレット
AUCL-185 / ¥1,574(税抜)
※スリーブケース / 44Pスペシャルブックレット「9&A BOOK Hata Motohiro 9th Anniversary」付き
~「9&A BOOK Hata Motohiro 9th Anniversary」参加クリエイター~
KAN、笹原清明、塩川いづみ、渋谷直角、清水浩司、花沢健吾、万城目 学、松任谷由実、本 秀康(※五十音順)
【通常盤】CD
AUCL-186 / ¥1,204(税抜)

[収録曲]
1. Q & A
2. 恋はやさし野辺の花よ
3. Dear Mr. Tomorrow(with String Quartet)
4. Q & A(backing track)

≪ライブ情報≫
【YAMAZAKI MASAYOSHI in Augusta Camp 2015 ~20th Anniversary~】
公演日:2015年9月26日(土)
会場:横浜 赤レンガパーク 野外特設ステージ
出演:山崎まさよし、杏子、COIL、あらきゆうこ、元ちとせ、スキマスイッチ、長澤知之、秦 基博、さかいゆう、浜端ヨウヘイ、竹原ピストル
時間:12:00開場 / 14:00開演 / 20:30終演(予定)
チケット:全席指定¥7,560(税込)
詳細:http://www.office-augusta.com/ac2015/

【バズリズムライブ】※11月7日&8日の2デイズ開催
公演日:2015年11月7日(土)
会場:横浜アリーナ
出演:KANA-BOON、JUNHO(From 2PM)、秦 基博、GOT7(オープニングアクト)、他
時間:15:30開場 / 16:30開演(ともに予定)
チケット:指定¥7,560 / 立見¥6,950(税込)
詳細:http://www.ntv.co.jp/buzzrhythm/live2015/

【ドリームフェスティバル】※11月21日~23日の3デイズ開催
公演日:2015年11月22日(日)
会場:国立代々木競技場第一体育館
出演:三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE、西野カナ、秦 基博、back number、星野源、槇原敬之
時間:14:00開場 / 15:00開演(予定)
チケット:全席指定¥10,800(税込)
詳細:http://dreamfestival.jp/

≪関連リンク≫
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