スマホを上に上げると「テンションの上がる」ストーリーに、スマホを下に下げると「テンションの下がる」ストーリーに展開していく。そんな、スマホが普及する現代ならではといえるWebコミック『あげさげコミック』が注目を集めている。



 使われている技術は、すでに普及しているもの。でも、誰も今までこんな使い方があるとは気づかなかった!! そんな声が聞こえてきそうなマンガ表現のイノベーションを生み出した制作者に話を聞いた。

『あげさげコミック』は漫画・デザインを担当する、藤井マリーさん、音楽担当の馬道まさたかさん。マークアップ・フロントエンド担当のやまだだいきさんの3人の共同製作で生まれたものだ。

 現在公開されているストーリーは、藤井さんの執筆した「おーえる子のお昼休み」。音楽と共に進むストーリーは、前述の通りスマホを上げると幸せな方向へ。
下げると、ちょっと落ち込む方向へと流れていく。

 ただ、下げたといってもバッドエンドではなく、ちゃんと前向きになることはできる。

 いわば、一服の清涼剤ともいえる物語だ。

 もともとリリースをしたのが1年ほど前。それが今年10月、藤井さんが「コンペにでも出そうか」とTogetterにまとめたところ、にわかに注目を集めたという経緯である。

 そんな『あげさげコミック』が生まれたのは、文字通り偶然が重なった人の出会いから。


 製作陣の3人は、同じWebコンテンツを制作する会社のメンバーなのである。

「私はWebデザイナー、2人はエンジニアなんです。2年ほど前ですが、社内でハッカソン(ソフトウェア業界で頻繁に行われている開発イベント)があった時に、馬道とペアになったんです。その時のテーマが<10年後にも見られるコンテンツ>でした。そこで、生まれたのが現在公開しているもののプロトタイプ版だったんです」(藤井さん)

 でも、それがコンテンツを表現し、制作したいという2人の心に火をつけた。「もっとちゃんとしたものがつくりたい」と思った2人は、やまださんも誘い本格的な制作に乗り出した。


 こうして、Web業界らしくスケジュールもちゃんと引いて、タスク管理をした上で2カ月あまりの期間を経て『あげさげコミック』は生まれたというわけである。

 この『あげさげコミック』。前述のように、技術面だけでなく描かれている作品自体が魅力的。

 アーティストとしても活躍している藤井さんの独特のタッチが、非常に新鮮なのである。

 もともと、美大で大学院まで進み絵画を専攻。「私以外の同級生は、みんな美術家になった」という藤井さんは言う。


「より多くの人にスキマ時間に楽しんでもらえる作品を描きたいと思っているんです。自分の作品を、もっと日常でアウトプットしていけたらいいですね」

 取材で感じたのは制作陣3人のツーカーな雰囲気。アーティストでもある藤井さんは『あげさげコミック』の制作にあたっては率直な「レビュー」、いわばダメ出しをされる場面もあった。

 でも、それも「初めての体験なので、面白かった」と笑う。

 気の合う者同士で集まって、ひとつの作品を仕上げていく。その雰囲気自体が、一服の清涼剤のように感じられた。

(文=昼間たかし