ヤマト運輸の運賃値上げ…物流業界の再配達問題とは?

ヤマト運輸の運賃値上げ…物流業界の再配達問題とは?

インターネット通販の充実で、基本的に国内であればどこにいても自分の欲しいものが手に入る時代になった。そんなインターネット通販に欠かせないのが、商品を配送する業者だ。中でも、個人向けの運送業でトップを争うヤマト運輸株式会社を知らない人はいないだろう。そんなトップを走るヤマト運輸で、2017年に27年ぶりの運賃値上げが起こった。その背景や現状とは?ヤマト運輸が抱える問題と働き方改革についてまとめた。

ヤマト運輸はどのようにして生まれた? 誕生から宅配便展開まで

基本情報
商号:ヤマト運輸株式会社
設立年月日:2005年3月31日
資本金:500億円
株主:ヤマトホールディングス株式会社
事業所数:7,240
社員数:161,081名(2017年3月15日時点)
本社住所:東京都中央区銀座2-16-10

ヤマト運輸の前身は、1919年に誕生したトラック運送会社。4台のトラックからのスタートだった。

はじめは順調に業績を伸ばしていったが、高度経済成長後のオイルショックなどさまざまな危機に見舞われ、経営路線を見直さなければならない状況へ。ヤマト運輸が今日の宅急便事業に取り組みはじめたのは1976年のことだ。

クール便やタイムサービス、クロネコメール便などさまざまなサービスを展開し、2005年にはヤマトホールディングスという巨大な組織に成長した。現在では、そんなヤマトホールディングスの宅配便事業としてヤマト運輸が展開されている。

宅急便は発売以降、お客さまに支えられ、取扱個数を伸ばしてきました。
その理由は、地域に密着したセールスドライバーをはじめとする社員が、お客さまの声にお応えしようと、お客さまの立場に立って考え、行動し、サービス・商品を開発してきたからかもしれません。
1997年に宅急便のネットワークが全国に広がり、いまでは国内のみならず、アジア各国にも広がっています。
ヤマト運輸 宅配便の歩み



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伝票番号追跡のラクな問い合わせ方法

ヤマト運輸には、「クロネコヤマトの荷物お問い合わせシステム」という、伝票番号をもとに配送状況が確認できるサービスがある。インターネット通販でものを購入したとき、店舗から連絡のあった伝票番号を入力すれば、荷物が今どこにあるのかがわかるという仕組みだ。

ヤマト運輸以外でも、宅配業者では標準的に展開しているサービスではあるが、この問い合わせサービスをもっと便利に利用できる方法がある。

●グーグル検索で! LINEのトーク画面で!


1つは、Google検索を活用した伝票番号検索だ。検索バーに「ヤマト XXX(伝票番号)」と入力すれば、運送状況にすぐに飛ぶことが可能だ。

もう1つはLINEを利用した伝票番号検索になる。AIを活用したもので、2016年6月より、ヤマト運輸の公式LINEのトーク画面で伝票番号を入力すると、配送状況を確認できるようになった。配送日時の変更や不在時の連絡についても、同じLINEのトーク画面でできるようになっている。

わざわざ公式サイトにいって、伝票検索や再配達のページに飛ぶ必要がない。面倒な動作がなくなったのはありがたい変化だ。

物流業界の再配達問題が話題に!ヤマトは人手不足で運賃値上げ

●物流業界で蔓延する再配達問題


国土交通省の調べによると、2014年12月時点での宅配便の再配達率は、全体の約2割にのぼることがわかった。さらに、全体の約4%は1回の再配達で配達が完了しないという。インターネット通販など消費者にとって便利なサービスが展開されてきたが、そのしわ寄せが「再配達問題」という形で物流業界に大きな負担を与えてしまっている。

特に、ヤマト運輸に関しては、アメリカのEC業大手のAmazonとの関係もある。佐川急便がAmazonの配送から撤退後、ヤマト運輸が代わりに請け負うことになったが、これがヤマト運輸のドライバーにとって大きな負担となった。

ただでさえ多い宅配の業務が、Amazonとの契約によってさらに増え、そこにプラスして再配達などの業務もこなさなければならない状況になったのだ。

もちろん、ヤマト運輸含め物流業者を苦しめている問題はこれだけではない。しかし、再配達が大きな問題であるのは、全体的な割合からみても間違いないだろう。

政府も、この再配達の状況を重く見ており、国土交通省では時間指定の活用、配送業者とのコミュニケーションツールであるメールやアプリ等の利用、自宅以外での受け取りをすすめている。






●ドライバーの現状改善のため27年ぶりの運賃値上げに踏み切る


物流業界全体における再配達問題と、ヤマト運輸の抱えるドライバーへの重度な負担について紹介してきたが、ヤマト運輸もただ傍観していたわけではない。宅配業の増加によるドライバーへの負担、そして人手不足について真剣に向き合わなければならない状況に迫られていた。

そこで、ヤマト運輸が実行したのが27年ぶりの運賃値上げだ。逆の発想で考えれば、27年間ヤマト運輸は値上げをしてこなかったのだ。

もちろん、消費者のことを第一に考えた結果だろう。しかし、同じ運賃のまま宅配業を続けていくのには無理があった。ヤマト運輸で大きな労働源となっているドライバーに多大なしわ寄せがきていたらからだ。

再配達問題もその1つであるが、そうしたドライバーを取り巻く状況がエスカレートし、サービス残業や長時間労働といった深刻な状況が生まれていた。

インターネット通販などEC事業が拡大していく中で宅配業の需要は増えているが、現状ではとても回らない。さらに物流業界の労働環境が悪いとなると、ただでさえ人手不足の状況であるのに、さらに労働の担い手が減ってしまう。

そんな状況の懸念もあったのだろう。早急に取り組まなければならないのは、消費者の優先ではなく、今抱えている従業員の労働環境の改善だった。そこで、ヤマト運輸は運賃の値上げ、そして働き方の改善に取り組みはじめたのだ。

年末のパートドライバーの一部の時給を高時給の2,000円にしたというのも、そんな取り組みの中の1つだ。

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働き改革にのりだしたヤマト運輸の現状は?

ヤマト運輸が運賃値上げを実行して、ある程度の時間が経ってきた。ヤマト運輸への直接の影響としては、運賃値上げにより一部の企業との取引が終了してしまったものもあるようだ。

それでは、会社ではなく、労働の担い手であるドライバーの状況はどうだろうか。残念ながら、運賃値上げはあったものの、まだまだドライバーに対してしっかり還元されていない状況だといえるだろう。

会社からは残業をしない、しっかり休憩をとるといった改善命令が現場に出されているが、宅配物の取り扱いはまだまだ多く、難しい状況の事業所も少なくない。依然として再配達などの問題も抱えている。そんな中で、社員の負担を減らすために、やむを得ず外部に委託するというところもあるようだ。

もちろん社員自体の負担は減るが、根本の解決にはなっていない。

2017年には、労働環境の悪化によって、ヤマト運輸は労働基準監督署から是正勧告も受けている。これを受けて、セールスドライバーにしっかり休憩を取らせるようにするなどの回答をしているが、実際に末端のドライバーにまで環境整備が整うにはまだ時間がかかるだろう。

このような状況もあってか、ヤマト運輸では人員確保として無人で荷物を届ける方向にも目を向けているようだ。もちろん細かいサービスまでは現状では期待できないので、すぐに人員確保や労働確保に繋がるかは疑問だが、自動運転車両によるサービスによって、ヤマト運輸の労働環境が将来的によくなる可能性が期待できる。

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ヤマト運輸に並ぶ物流大手の佐川急便と日本郵政の2社を紹介する。

●業界No.2の佐川急便


基本情報
商号:佐川急便株式会社
設立:1965年11月24日
本社:京都市南区上鳥羽角田町68
資本金:112億7,500万円
従業員数:112億7,500万円

宅配業界でヤマト運輸に次ぐ、No.2として長年その地位を築き上げてきたのが、佐川急便だ。2017年の宅配業界の状況において、ヤマトが5割のシェアであるのに対し、佐川急便は2割のシェアをキープしている。事業規模から考えると妥当な数字だ。

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●追い上げを見せる日本郵政


基本情報
商号:日本郵便株式会社
設立:2007年10月1日
本社:東京都千代田区霞が関1丁目3-2
資本金:4,000億円

公共事業としてもともと展開していた日本郵政。これまで、宅配業界のNo.2は佐川急便であったが、日本郵政の快進撃で2位の座に迫りつつある。現在の日本郵政のシェアは2割近くまで増え、はがきなどの事業だけでなく、宅配業として存在感が高まってきている。

ヤマト運輸と佐川急便の値上げをきっかけに、宅配業界の勢力図が変わる可能性が出てきた。値上げを遅らせた日本郵便の「ゆうパック」に顧客が流入し、市場シェアで2位浮上をうかがう。インターネット通販会社が自前の物流網の整備に乗り出すなど、新勢力の存在感も高まっている
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