「日本のゲームは終わったのか?」「ノオオオオオオーーーーーッ!」

3月9日に京都で開催された「BitSummit」を伝えるには、この一行で十分かもしれません。ええっと、日本初となるインディーズ開発者向けのイベントです。


発起人はゲームプロデューサーのジェームズ・ミルキー氏。ゲーム雑誌の編集者を長く務めたあと、ゲーム開発者に転身して「Child of Eden」などの開発に参加。現在は京都のゲーム開発会社Q-Gamesに所属し、PS3向けの配信ゲーム「PixelJunk」シリーズをプロデュースしています。当日は100名のキャパシティの会場に、170名のインディゲーム開発者と海外メディア、業界関係者が集まり、大いに盛り上がりました。

でもでも、なんで「日本のゲームは終わった」なーんて言われなくてはいけないのか、ちょっと解説が必要かもしれませんね。

いまゲーム業界では、世界中でガッツリ遊べる超大作ゲームと、ライトに遊べるカジュアルゲームとで、二極化が進行中。
代表例が全世界で二千万本近くを売り上げた「コール オブ デューティ・ブラックオプス2」で、後者が累計12億ダウンロードを数える「アングリーバード」でしょう。つまり、中間層がどんどんやせ細ってるんです。きびしーっ!

こうした中で欧米圏を中心に熱い注目を集めているのがインディゲーム。「小資本の独立系ディベロッパーや、個人・サークルによって開発されるゲーム」の総称です。iOS、Androidアプリもさることながら、メッカとなっているのが、米バルブ社が運営するPC向けのデジタル配信プラットフォーム「Steam」。日本ではあまり知られていないヒット作が、ずらりと並んでいます。


代表作といわれる「マインクラフト」は、累計で一千万本近くのヒットを記録。昨年は「インディーゲーム:ザ・ムービー」(日本未公開)なんてドキュメンタリー映画も作られました。とはいえ、ヒットするタイトルはほんの一握りなんですけどね。それでも一攫千金を狙って世界中のゲーム開発者が参入する、いま最もホットなジャンルなんですよ。

一方で日本では、グリー・モバゲーを筆頭に、モバイル・ソーシャルゲームが急成長。いまや家庭用ゲーム機のゲームソフト市場と肩を並べるくらいになりました。
企業にしてみれば、そんなバクチみたいな分野においそれと足を踏み込めませんよね。気がつけば右を見ても左を見ても、ソーシャルカードゲームが乱立する状況となりました。同人サークルにしても「海外、なにそれ、美味しいの?」というのが一般的でしょう。

つまり今って、日本と欧米で過去に例がないほど、市場の隔絶が進んでいるんです。そんな中から、一部で「オレたち死にもの狂いで自由なゲーム作りをしているのに、日本はソーシャルカードゲームばかりで、全然新しいゲームが出てこない」→「日本のゲームは終わった」なんて言説が近年、欧米のゲームシーンで一人歩きしつつあるんですよ。

ま、おおきなお世話といってしまえば、それまでなんですけど。
でも30代-40代の海外ゲーム開発者は、みんな日本のゲームに大きな影響を受けた世代なので、こういった言説がササるんです。つまり、期待の裏返しなんですよね。

こうした中で「ちょっと待ったーーーっ! 日本にも斬新なインディゲームがある! それを世界に知らしめたい!」という、熱い思いで企画されたのが、このBitSummit。日本のゲーム業界で働く、外国人開発者ならではの異議申し立てだったと言えるでしょう。ここまで心配していただいて、もう有り難いやら、嬉しいやらです。

イベントはサスペンスアドベンチャー「レッドシーズプロファイル」などの開発で知られ、ディレクターズカット版の発売が北米・欧州で決まったアクセスゲームズ・SWERY氏や、動物サバイバルアクション「TOKYO JUNGLE」で、海外でも高い評価を得たクリスピーズ・片岡洋平氏らによる基調講演で始まりました。


SWERY氏は「お客さんにあわせてゲームを作るのではなく、自分が創りたいゲームを作って、それを楽しんでくれるお客さんを探す」、片岡氏は「動物×廃墟の都市という、それぞれは普通の要素をかけあわせて、異質なゲームを作り出す」と講演しました。みんな、すごくアグレッシブでしたよ。

また特別講演として、バルブ社のエンジニアが来日して、Steamの特徴や参入方式などが紹介されました。日本ではなじみが薄いのも事実ですが、利用者数は全世界で5000万人。世界25カ国語に対応し、配信タイトルも大手メーカーにまじって、1/4がインディーズゲームとのことです。海外向けにゲームを配信するには最適のプラットフォームとして、積極的に参入を呼びかけていました。


これに対して「利益の配分は?」「あえて言わなくても、みんな知ってるよね? 開発者側が7で、Steamは3です」なんて、かなり突っ込んだやりとりが見られました。無料または1ドル以下のアプリが大半のApp Storeに対して、Steamは10ドル前後が平均価格帯。日本のインディゲーム開発者からも、かなり興味が集まったようです。

このほか、ファミコンのピコピコサウンドによるライブパフォーマンスで人気急上昇中のチップチューンアーティスト・サカモト教授がゲスト出演。懐かしのゲームミュージックを演奏して盛り上げました。サカモト教授は頭部につけたファミコンにカセットを差し替えながら、キーボードで「スーパーマリオブラザーズ」などを演奏。中には「麻雀」(牌を切ったり、点数計算などまで再現)、「スペランカー」(途中で死んでしまい、なかなか最後までBGMを演奏できない)なんてネタもあり、会場は大いに沸いていましたよ。

これらの催しが終了したところで、いよいよメインの取材タイム。そう、本イベントは日本のインディゲーム開発者にデモを持ち寄ってもらい、海外のゲームメディアに取材して、記事にしてもらうことでした。日本在住の特派員に加えて、中にはアメリカから来日した記者もいたほど。ほんと、これにはちょっと、ビックリしました。

一番人気となったのは「洞窟物語(海外では「Cave Story」としてヒット)」の作者、開発室Pixelの新作「Gero Blaster」。Bit Summitにあわせてトレーラーが公開され、大きな注目を集めました。また黒川文雄氏、飯田和敏氏、中村隆之氏、納口龍司氏の「チーム・グランドスラム」が発表したビル解体人質救出アクション「モンケン」も、さっそく海外で記事になっていましたよ。

「アメリカ人は『モンケン』(ビル解体用にクレーンでつり下げて使われる鉄球)の意味がわからなかったらしくて。浅間山荘事件のニュースを紹介したら、アメリカでは犯人は射殺されるから、見たことないって」(飯田さん)。こんな風に、あちこちでカルチャーギャップを楽しみながら、取材が行われたようです。

んでもってラストに2月に急逝されたゲームクリエイター・飯野賢治さんを惜しむ特別ビデオが上映されました。司会を務めたベン・ジャッド氏は目頭を押さえながら、「彼のスピリットこそ、真のインディゲームクリエイターだった」とコメント。このサプライズに会場は拍手に包まれました。インディゲームの定義はさまざまですが、共通するのは「自由なゲーム作りを求める姿勢であり、精神」だと言えるでしょう。

前述しましたが、BitSummitの仕掛け人は海外のゲームクリエイター。それだけ日本のゲームは世界に影響を与えたんだなあと、改めて感じました。ホントはこういうイベントを、我々がやらなきゃいけないんですよね。「日本のゲームは終わったのか?」なんて言われているうちに、みんなで智恵を出し合って、ネクストステージに進みたいところです。(小野憲史)