料理漫画には、さまざまなジャンルがあります。例えばライバルと切磋琢磨して料理試合を行い成長していく料理バトル系。
例えば作中で作った料理を実際に紹介するレシピ系。実際のお店や料理を紹介するエッセイ系。特定の料理ジャンルをテーマにとりあげたもの、などなど。

そんな数多ある料理漫画のジャンルの1つに、個人的に「語り系」と呼んでいる分野があります。これはもう主人公が語る語る。その場では食べていないで、とにかくご飯の話とか何がうまかったかとかを語るのです。
食べている描写は基本的に回想シーンの中だけ。それが「語り系」です。実際に食べながら一人で語る『孤独のグルメ』とは、ちょっとだけジャンル違いにしています。

このジャンルは映画にもなった土山しげる先生の『極道めし』という偉大な作品の独壇場だったのですが、最近かなりハイレベルな対抗馬が登場しました。それが今回紹介する『めしばな刑事タチバナ』なのです。

めしばなとは「飯の話」のこと。
主人公の刑事立花は、あまりに張った食い意地と執念、食に対する知識、そして何よりその話術から、立花ではなくめしばなと呼ばれています。

取り調べ室で「おい、カツ丼食うか?」となるのは普通の刑事。我らがめしばなは違います。

「おい、カツ丼食うか? そういえばカツ丼といったらこないだこんなことがあってな。それは俺が前の署にいたときだった……あのとき俺は、張り込み中でな。長い張り込みに胃が悲鳴をあげたので、駅前に食べに行ったんだ(略)そこにあったのは『カレーカツ丼』。
おいおいおい。そんなメニュー見たことねえよ!!  これはもう頼まない手はないだろう?……」

といった具合に、延々と語るのです。

しかもその語るテーマが妙に庶民的というか、一人暮らしのおじさんが食べるメニューというか、B級グルメが多い多い。友人は貧民版孤独のグルメなんて言いましたが、それはそれで言い得て妙かもしれません。1巻では上記のカレーカツ丼の他、牛丼サミット、袋入りラーメン、コロッケカレー、フライドチキン、立ち食い蕎麦大論争をテーマにめしばなが繰り広げられます。

ちなみに牛丼は永遠のテーマのようで、2巻でも牛丼サミット再びとしてえんえんと語られています。


最新の3巻では主にカップ焼きそばについて延々と語っています。もう、3巻の半分はカップ焼きそばトークというぐらい語っているのです。

ここで語られているのは実在のお店・商品なので、思わぬ知識も手に入るのも魅力のひとつ。例えばカップ焼きそば話で言うと「ペヤング」は実は関東ローカルという(関東民にとって)衝撃の事実が明らかになったりもするのです。最近は西日本の一部ディスカウントストアやドラッグストアでも入荷しているそうなのですが、基本的に名古屋から西は非ペヤング圏なんだとか。

なので「どうだい、お味は?」「まろやか〜〜〜〜ん」とか、「もういっちょいく〜〜〜?」「押忍!」という条件反射は関東の人にしか通用しないのでした! ショック! そして関東以外の方なにがなんだかわからなくてごめんなさい。


各テーマにおける掘り下げ方も半端なく深いです。カップ焼きそばだったら御三家のUFO、ペヤング、一平ちゃんだけかと思いきや、韓国、インドネシア、フィリピンのカップ焼きそば事情まで語っています。

なんかだんだん料理漫画の紹介じゃなくなってくるような気がしてきました。あ!  料理漫画ならではの、主人公の決めぜりふもありますよ!「お前達、食っぴくぞ!」とか、思わぬ美味に出会ったときに出る「おまえさん、やるじゃないの」とか。あれ、前者はともかく後者はあまり決めぜりふっぽくないですね……

くどいくらいに各料理を掘り下げて語りまくるめしばな刑事タチバナ。掲載誌は「週刊アサヒ芸能」だったりするのもちょっと異色かも。
でも「TV Bros.」誌のブロス・コミックアワードのグルメマンガ部門で1位をとったりと、認知度は急上昇中です。読むだけでお腹がいっぱいになるうんちくと、読み終わったあとに無性にテーマの料理を食べたくなる、そんなめしばなを堪能しましょう!
(杉村 啓)