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いしいひさいちのでっちあげインタビュー!

2012年6月27日 11時00分 ライター情報:近藤正高

『文藝別冊 総特集 いしいひさいち 仁義なきお笑い』河出書房新社
いしい本人による「でっちあげロングインタビュー」のほか、大友克洋のリスペクトインタビュー、さらには後身作家たちによるトリビュート作品を収録。参加作家はいがらしみきお、しりあがり寿、とり・みき、吉田戦車、秋月りす、西原理恵子、カラスヤサトシ、さそうあきら、小坂俊史、あずまきよひこ。なかでもとり・みきの寄稿は、『ののちゃん』で連載内連載された「ロカちゃん」シリーズへの思いが描かれ、熱い!

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いまでこそメディアに顔を出さない人気マンガ家は少なくない。だが昔はひとたびヒット作が出れば、雑誌やテレビなどマスコミに取材で追いかけまわされ、うっかりするとクイズ番組の回答者やワイドショーのコメンテーターに……なんてこともざらであった。いまとなっては信じられないことだが、鳥山明も『Dr.スランプ』のヒットで「徹子の部屋」に出たりしている。

そのなかにあっていしいひさいちはデビュー以来、テレビ出演はおろか顔写真すらほとんど世間にさらしていない稀有な存在である(厳密にいえば、文春漫画賞受賞直後、一回だけ週刊誌に顔写真が掲載されたことがあるのだが)。考えてみれば、20年以上も大新聞で連載を持ち、原作映画がディズニー配給により世界各国で上映されたほどのビッグネームでありながら、その顔も、私生活もほとんど知られていないというのは、ちょっとすごいことではなかろうか。ようするに私たちは、作品を通してでしかいしいひさいちのことを知らないのだ。情報ダダ漏れ時代の昨今にあって、これはもう奇跡に近い。

そんな謎多きいしいひさいちの素顔に迫ったのが、先頃刊行されたムック『文藝別冊 いしいひさいち 仁義なきお笑い』である。関西大学在学中の1972年、「Oh!バイトくん」(関西ローカルの求人誌「日刊アルバイトパートタイマー情報」連載)でマンガ家デビューしてから今年でデビュー40年を迎えることを記念して出された本書では、ゆかりの地(出身地の岡山県玉野市、学生時代をすごした大阪市東淀川区)の写真レポート、単行本未収録作品「ゲームセット」、作品解説、常連キャラなどを紹介する小事典、詳細な年譜、著作目録のほか、後身作家たちによるトリビュート作品(いがらしみきお、しりあがり寿、吉田戦車、西原理恵子など豪華)が掲載されている。ほぼ同時期にデビューし、当時からいしいの大ファンだったという大友克洋へのインタビューも面白い。

しかし今回のムックで何より注目すべきは、本人書き下ろしによる「でっちあげロングインタビュー」だろう。インタビューなのに本人書き下ろし、というところからして人を喰っているが、ページを開いてさらに笑った。インタビューは全編、あのマンガでおなじみの手書き文字で書かれているのだ。聞き手として「たまののタイムス」の山田記者(女性。たまののとは朝日新聞連載『ののちゃん』の舞台で、前出の玉野市がモデル)が登場するが、むろんこれもでっちあげ。

ライター情報

近藤正高

ライター。1976年生まれ。エキレビ!では歴史・科学からドラマ・アイドルまで手広く執筆。著書に『タモリと戦後ニッポン』(講談社現代新書)など。愛知県在住。

URL:Culture Vulture

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