《第一巡目選択希望選手 福岡ソフトバンク 菅野智之 投手 東海大学》
───場内どよめきました! 巨人入りを熱望する菅野をソフトバンクが指名してきました!
《第一巡目選択希望選手 読売 伏見寅威 捕手 東海大学》
───菅野ではありません! 一巡目はキャッチャーの伏見です!


今年のプロ野球・ドラフト会議は日本シリーズ直前の10月25日。よって上記は、当たり前だが実際のドラフトの模様ではない。
9月17日に行われたあるイベント、「仮想ドラフト」上でのやり取りだ。

仮想ドラフトとは、『スカウト』などの著書を中心にアマチュア球界やスカウト事情への造詣が深いスポーツライター安倍昌彦による「一人ドラフト会議」。選手のプレーを目撃するだけに留まらず、自らキャッチャーミットを持って選手の球を受け続けてきた、別名「流しのブルペンキャッチャー」だからこその「野球選球眼」で導いたのが、冒頭で紹介した驚きの指名予想だ。

曰く、菅野を巨人以外で指名&説得できるのは、王貞治名誉監督のいるソフトバンクだけ。曰く、阿部慎之助の後継者がいない懐事情を鑑みて、アマチュア球界最強の捕手を指名したい巨人……などなど、その他にも驚きの指名・納得の解説が満載だった。
そんなイベントの詳細も含め、ドラフト情報ばかりを掲載した、厚くて熱い野球専門ムックがこのほど創刊された。
その名も『野球太郎』。どこか無骨だけどそれでいて緻密で、野球への愛情と情熱にあふれた一冊だ。
昨年、北海道日本ハムファイターズに指名されたものの「巨人愛」を貫いて指名拒否をしたアマ球界NO.1右腕・菅野智之を巨人は再び指名するのか、そして他球団は指をくわえて見逃すのか? 甲子園春夏連覇を達成した大阪桐蔭・藤浪晋太郎はどこへ? 160km右腕・花巻東の大谷翔平は? そもそも彼は投手指名なのか打者指名なのか? etc. 
例年以上に見所満載な今年のプロ野球ドラフト会議。様々な雑誌で特集が組まれたり、ムック本が編纂されたりしているが、今回紹介するこの『野球太郎』はその決定版と言っても差し支えないだろう。一冊なんと256ページ。その8割以上がドラフト一色なのだ。


巻頭30ページカラーでの「2012ドラフト候補名鑑」はもちろん、選手だけでなくその指導者へのインタビュー企画は、各注目選手の自己評価・客観評価の両方を知ることができる貴重な証言集だ。また、過去10年間のドラフト採点を鑑みながらの「12球団別 ドラフトの焦点はここだ!」では、各チームの編成のこだわりや戦略性(もしくは戦略の弱さ)が浮き彫りになってくるので、ドラフト単体にとどまらず、プロ野球界をまた別な角度から俯瞰で見ることができる企画だ。

個人的にありがたかったのが、私と同じ東北出身で多いに期待している花巻東・大谷選手の情報が満載だったところ。特に「スカウト20人に聞きました」という企画ページにおける「大谷選手を<投手>と<打者>のどちらの能力で評価しているか?」という質問では、広島スカウトの「ピッチャーでも100点なんですけど、野手としては120点」というコメントなど、プロの評価がわかってきて非常に興味深い。その一方でオリックスと中日では担当スカウトによって投手派と打者派に分かれているなんてことも判明して、球団内での意思疎通は大丈夫なのか? と心配になるとともに、それだけプロのスカウトの目を悩ませ、釘付けにする大谷の才能に改めて驚かされた。

また、幅広い野球ファンに向けて伝えておきたいのが、ドラフト以外の特集ページもまたクセ球ぞろいなところ。
「伝説のプロ野球選手に会いに行く」では、今年の夏の「奪三振記録」である意味世間をにぎわせた坂東英二(元中日)が登場。桐光学園の2年生エース:松井選手の奪三振劇をかつての「三振奪取王」は実際にどう見ていたのか、という好企画がなんとぶちぬき10ページ! 本当は国語の教師になりたかった坂東少年の夢や、試合当日における400球投げ込み、そして高校野球の常識も変えた「坂東ルール」誕生の経緯など、野球ファンなら間違いなく一読の価値アリだ。
その他にも、高校野球ファンならおなじみの名物おじさん「ラガーさん徹底解剖」などマニアックすぎる特集の数々はぜひ、本書を手に取って確かめていただきたい。


このムック『野球太郎』、冒頭でも記したように今回が創刊号。わずか4人の編集部「ナックルボールスタジアム」の手によって刊行されたものだ。その4人とはいずれも、コアな情報ばかりの野球専門誌として名高い『野球小僧』の卒業生。
エキレビ!にも登場経験のある『野球部あるある』著者・菊地選手もその一人だ。本書に収められた菊地選手の書き下ろしエッセイ「野球部絵日記」は、野球の楽しさと切なさ、理不尽さが同居していて知らぬ間に引き込まれてしまうとともに、その野球選球眼の確かさと、この『野球太郎』というムックの本気度をしっかりと伝えてくれている。「息子よ、見ているか? これが俺の最後のジャッジだ!」で締めくくられる甲子園三塁塁審の物語など、野球に潜む悲哀までも感じさせてくれる一節だ。

考えてみれば「ドラフト会議」とは、野球少年がプロの世界に入れるかどうか、どの球団の所属になるのかが決まる、まさに野球人生の分水嶺であり、一大ジャッジだ。そんな人生の分かれ目に向けて誕生した『野球太郎』という本もまた、ドラフト候補生、野球ファン、そして編集者の様々なジャッジと想いを載せて生まれた決意の一冊と言えるのではなのだろうか。
早くも「NO.002/2012ドラフト総決算号」の刊行が11月末に予定され、また、日本初のスマートフォン専用野球週刊誌『週刊野球太郎』(※Yahoo!プレミアム会員対象)も立ち上げたりと活発な動きを見せている『野球太郎』と編集部「ナックルボールスタジアム」。
ナックルボールの不可思議な揺れを注視するバッターのように、しっかりとその軌道を見極めてみたい。


※最後に、「野球太郎」および「ナックルボールスタジアム」に関するイベント情報
○10月12日(金)20:30~22:00/三省堂書店神田本店
『野球太郎 NO.001』発売記念トークライブ開催。今年のドラフト会議の話題を中心に、プロ野球・アマチュア野球ファンなら聞き逃せない内容を「流しのブルペンキャッチャー」安倍昌彦が語り尽くす。(三省堂書店神保町本店で『野球太郎』購入の方、先着60名限定)

○10月14日(日)11:00~18:00/月島・相生の里
「ナックルボールスタジアム協力」という形で、昨年に引き続き「東京野球ブックフェア」が今年も開催! 日本でここだけの「野球の本」だけを集めたこのブックフェアでは、上述した菊地選手とラガーさんなどが登場する「菊地選手vs甲子園の珍獣たち」といったトークショーも行われます。(入場無料)

(オグマナオト)