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石原慎太郎は前田敦子か。見立ての天才・中森明夫『午前32時の能年玲奈』

2013年11月19日 11時00分 ライター情報:千野帽子

『午前32時の能年玲奈』中森明夫/河出書房新社

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『午前32時の能年玲奈』(河出書房新社)には、中森明夫さんが四半世紀以上にわたって書いてきた、文学にかんする文章がぎっしり詰まっていた。巻末には重松清による中森明夫インタヴューも収録されている。
文芸批評・時評集と言ってもいいこの本が、表題作としてなぜ役者さん(アイドル女優)を論じたものを選んだのかは、ここでは述べない。
中森さんは小説を書き、文化現象を分析し、アイドルと併走しつつアイドルを批評する。1980年代に〈おたく〉、90年代に〈チャイドル〉という語を作った。この本でも、いわゆる文学だけでなく、『あまちゃん』やAKB48といったサブカルチャーの話題を論じている。

この本を読むとわかること。まず中森さんは滅茶苦茶にものを知っていて、記憶力がいい。もうこの時点で私とは違う。だけど、それだけの人なら、いっぱいいる。
中森さんの凄いところは、そのバラバラな情報どうしを、見立てによって結びつける運動神経なのだ。中森さんの文章に私が感じる魅力はこれだ。

〈菊池寛が秋元康なら、石原慎太郎は前田敦子か!?〉(「AKB48と文学」)
〈ジム・トンプスンは深沢七郎、色川武大と並ぶ“幻の中央公論新人賞作家”だ〉(「惑星トンプスン領からの伝令」)
〈「おたく」とは単にマンガやアニメの偏執狂的なファンの俗称ではない。個に自閉して、他者性を欠いた心性のありようの総体を言う(「おたく」の名付け親である私が言うのだから間違いない)。〔…〕(そう、“太陽族”は元祖“おたく族”だった!)〉(「石原慎太郎の墓碑銘」)

子は父の背中を見て育つというけれど、本書所収の「東浩紀というキャラクター」で中森さんは、吉本隆明を批判した柄谷行人を批判した東浩紀を批判した宇野常寛、という例を出して、〈カリスマ批評家の文化継承〉は〈ホモソーシャルの愛憎劇〉でおこなわれる、と指摘している。
その吉本も花田清輝という先輩を批判したのは有名な話だし、花田は花田で読んでると小林秀雄という先輩を背後から撃っているようなところがある。
男の子のライフスタイル(思想)は、先行する男の子たちのライフスタイル(思想)への反撥として形成されるものだ。いわば「先輩を背後から撃つ」ことで世代交替が起こる。

さて、中森さんはこうやって見立て運動神経でどんどん言い切っていって、読者の世界を広くしてくれるけれど、博識で記憶力がよくて、そしてバラバラな情報どうしを結びつける書き手は、中森さん以前にもいた。

ライター情報

千野帽子

文筆家。著書『読まず嫌い。』(角川書店)『文藝ガーリッシュ』(河出書房新社)『俳句いきなり入門』(NHK出版新書)など。公開句会「東京マッハ」司会。

URL:Twitter:@chinoboshka

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