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プロインタビュアー吉田豪とは、すなわち「宇宙戦艦ヤマト」の真田志郎なのである

2015年3月19日 10時50分 ライター情報:杉江松恋

『聞き出す力』吉田豪/日本文芸社

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「あのな、セールスに一番大事なテクニックは何だと思う」
かつて営業部門の会社員として働いていたとき、上司にそう聞かれたことがある。
なんだろう、と考えているとこう言われた。
「一番大事なのはね、相手に話させることだよ」
どんな人間でも自尊心というものがある。それを満足させてやるには、相手に話させることだ。自分の知っていることを教えて「やる」のは気持ちいいものだ。好きなことを話し続けていれば当然上機嫌にもなる。
「そこを狙って懐に飛び込むわけ。だから、いい営業になりたかったら、話し上手じゃなくて聞き上手にならないといけないよ」
結局私はいい営業にはならずにライターになってしまったのだけど、このときの会話はよくおぼえている。

そう、「話させられてしまう」のは怖いものだ。そこで思い出すのがプロ・インタビュアーを名乗るライター・吉田豪である。

「吉田にニラまれたら生きてる心地がしない」(リリー・フランキー)

『聞き出す力』は、その吉田豪が自身のインタビューについて語った抜群におもしろいエッセイである。これをサブカル棚に置いている書店も多いと思うが、ビジネス書として読んでも非常に有益であるはずだ。今からでも遅くないので全国の研修担当者は、この本をまとめ買いして新入社員に配る準備をしたほうがいいんじゃないかな。

雑誌「BREAK MAX」(休刊)を元にしたインタビュー集『人間コク宝』の帯に「本人よりもその人に詳しい芸能本史上最強のインタビュアー」と書かれたことから、吉田豪といえば取材対象の人生をそれこそ秘密警察のような執拗さで調べ上げ、本人さえも忘れているエピソードを発掘してくる異能の人、というイメージがある。
しかし極論してしまえば、それはインタビュアーとしてはかなり当たり前のことなのである。かなり丁寧にその作業をしているというだけで、下調べだけが吉田の武器ではない。
『聞き出す力』を読めば、そういった調査は本当に準備段階の技術に過ぎず、インタビューという現場に足を踏み入れたときにどういう手を繰り出してくるかわからない相手とどう渡り合うか、というアドリブ力のほうが物を言うのだ、ということがよくわかる。
先方の社長が釣りバカだと知っていても、いつもいつもその話題になるとは限らないのである。こっちのミスで頭を下げているときに「そういえば、そろそろキスの季節ですね」なんて言い出したらまとまる話もまとまらなくなろうというものですよハマちゃん。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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