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毒母のせいで自己評価が低い、悪夢のような容貌重視社会を生きる少女の切実

2015年9月10日 10時50分 ライター情報:千野帽子
《吉屋信子少女小説集》(文遊社)全5巻の刊行が始まりました。。
第1回配本、第1巻は『からたちの花』(1933)です。
《吉屋信子少女小説集》第1巻『からたちの花』(文遊社)。1,800円+税。解説=川崎賢子。カヴァー=松本かつぢ。掲載誌《少女の友》で当時編集長だった内山基の回想エッセイ「『からたちの花』の思い出」を再録。

表紙画像にダマされないこと


少女小説というと、表紙絵が中原淳一や藤井千秋なんかの叙情画の、かわいらしい少女というイメージがあります。
この作品も、表紙に松本かつぢ(1904-1986)描く美少女が用いられています。
けれど、大正・昭和初期の少女小説は、ライトノベルではありません。叙情画もまた、現在の萌え絵とは少し違うものです。
どういうことかというと、表紙画は、必ずしも作中のキャラクターの姿ではないのです。
というのも、『からたちの花』は、容貌に恵まれないことを気に病む少女が主人公なのです。

少女小説版『ジェイン・エア』?


吉屋信子の少女小説の特徴は、「異性愛」の気配を必ず消していることです。出世作『花物語』しかり、私の大好きな『わすれなぐさ』しかり。
吉屋信子『花物語』上巻(河出文庫)。950円+税。下巻の解説は私・千野帽子がお送りしております。

にもかかわらず、吉屋信子の少女小説の多くは、ロマンスの香気を漂わせています。
恋愛なしでロマンスの香りを出すには、ヒロインが美少女である必要があるわけですが、『からたちの花』は、そこを敢えて封印した、ビターな作品なのです。
ヒロインが不美人という設定のロマンスというと、シャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』(1847)がそうですが、その集英社文庫版の表紙画が美人の絵なのと同じくらい、内容とかけ離れた表紙だと思ってください。
シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』(吉田健一訳、集英社文庫)。857円+税。

容貌というより、自己評価の問題?


今回10年以上ぶりに読み返して発見したのは、これは不美人の話というより、自己評価の低い人の話として読めてしまう、ということです。
ヒロイン麻子の母は、娘に美しくあってほしいあまり、妊娠中に小野小町の掛軸を掛け、リリアン・ギッシュなどのハリウッド女優のブロマイドをピンナップするという、ちょっとヘンな胎教を実行する人です。この当時は産まれる前に性別はわからなかったのではないかと思いますが、男でも美少年がほしかったようです。
自分の子どもは美しくある「べき」であると思いこんでいるこの母は、だから生まれた次女・麻子の顔を見て、〈この子へんじゃない?〉と言うのです。自分の理想が正しくて、現実の娘のほうがまちがっているという把握。ひどい話ですね。

毒母の呪いで自己評価が低迷!


姉・蓉子や妹・桜子は美しいのに、自分は美しくない──このことが幼い麻子を苦しめ、長じてもなお彼女の性格を暗くしてしまいます。

ライター情報

千野帽子

文筆家。著書『読まず嫌い。』(角川書店)『文藝ガーリッシュ』(河出書房新社)『俳句いきなり入門』(NHK出版新書)など。公開句会「東京マッハ」司会。

URL:Twitter:@chinoboshka

「毒母のせいで自己評価が低い、悪夢のような容貌重視社会を生きる少女の切実」のコメント一覧 1

  • 散歩 通報

    え、あの「小さき花々」の後期未収録作品が収録されるなんて……! このレア度は凄い。 戦後の「級友物語」や「花それぞれ」に関してもどこかでいつか出してくれないだろうか……

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