女子高生でありながら、宇宙海賊船・弁天丸の船長になった加藤茉莉香と、その仲間たちの活躍を描く、「モーパイ」こと「モーレツ宇宙海賊」。TVアニメでは久々の本格スペースオペラとして、1月の放送開始直後から話題を集め、第5話終了時に公開した佐藤竜雄監督のインタビューも、数多くのアクセスを記録しました。
というか、今でもアクセス数が増えてます。
いよいよ今週末には、最終回(第26話)が放送されるということで、弁天丸ら宇宙海賊軍団と、謎の美女クォーツが艦長を務める機動戦艦グランドクロスの最終決戦を前に、再び佐藤竜雄監督に直撃しました。前後編のロングインタビュー、まずは前編です。

――前回のインタビューを掲載した直後あたりから、作品の人気がさらに高まった印象ですね。
佐藤 最初は「モーレツ? 女子高生が宇宙海賊?」と思って敬遠気味だった人にも、5話の電子戦を描いたあたりで、がっつりとSFをやる作品だと分かってもらえたようですね。あと、直接的な戦闘描写がなく電子戦で戦うという展開に、驚いてくれた方も多いようで。
いわゆる昔のSFアニメのファン。僕と同じか、僕より上くらいのファンの方で、最近のアニメの流れにはどこかついて行けてなかった人も、見てくれるようになったというのは感じました。あと、意外と若い子も見てくれているようなんですよ。僕の友達の娘や息子、20代や10代の人たちには、「どこが面白いのか分からないけど、面白い」と言われますね(笑)。おそらく、最近はこういう積み上げ系の作品が無いから、珍しいのだと思います。今のアニメは、ポイントポイントで変化を提示していくので、重ねていくというやり方をしてないですから。

――重ねていくというのは、ヒロインの茉莉香がさまざまな経験を経て、少しずつ成長、変化していくというところでしょうか?
佐藤 そうですね。あとは、描写的な部分で。例えば、ミーサって、最初は物腰こそ優しいけど、わりと強面の姉ちゃん系だったじゃないですか。でも、(茉莉香の母親の)梨理香が母親然としてない分、時間が経つと、ミーサが母親的な感じで茉莉香を見守るようになっていて。そういうキャラクターの距離感の変化だったりを、話数を重ねて行く中で感じられる。それが珍しいんでしょうね。

――後半のミーサは、そっと茉莉香を見守っている感じですよね。黙って頷いてたり、密かに微笑んでるようなシーンが多くなりました。
佐藤 最初は茉莉香を押しのけて仕事をしていたのに、最近はもう任せちゃってる。ほとんど、振り向いてるだけじゃないかっていう(笑)。やっぱり最近のアニメでは、本数が短い分、「このキャラにはこういう売りがあるんです」というところを、最初から押し通さないといけない部分があって。物語が進む中で、キャラがぶれるということが、あまり無い。
だから「モーパイ」で、だんだんキャラが育っているように見えるところが珍しく、面白いと思ってくれているのかなと思ってます。
――5話の電子戦が話題になったことに関しては、狙い通りという感じですか? 
佐藤 物語上必要な展開でしたが、作品の最初のフックとしても、これでウケなかったら、ダメだろうなってところはありました(笑)。シリーズ構成的には、だいたい5話ごとにフックになる話を持ってくるようにしています。5話は電子戦ですが、10話と11話が次の見せ場で。砲撃戦もあったり、わりとスケールの大きい話もあるんだよってことを見せる。(茉莉香が所属する)白凰女学院のヨット部との絡みの話が15話くらい。
20、21話はヨットレースですよね。原作小説(『ミニスカ宇宙海賊』)では、ヨット部としての活動があまり描かれてなかったので、ヨット部の話は描いておきたかったんです。そして、その後は最後の「海賊狩り」のエピソードに流れていく。1クールアニメだと、絶対に5話きざみではできないですから。そこは、何と言うか、うまくいったなと思います。
――2クール(26話)のアドバンテージを上手く生かせたわけですね。
10話、11話までのエピソードで大きな役割を果たす、セレニティ連合王国星王家のお姫様グリューエルは、茉莉香にとって、どのような存在のキャラクターとして描かれたのですか?
佐藤 グリューエルに関しては、自分の血筋によって進路を決められているというところで、茉莉香の同士的なキャラ。あくまでも血筋はきっかけであって、これから先、自分がどうしていくかは自分で考えている、というのも一緒なわけです。
――確かに、茉莉香は海賊、グリューエルは王家と、血筋による宿命のようなものを背負っている者同士です。そのせいか、グリューエルは茉莉香のことが大好きで、尊敬もしていますよね。でも、実際に背負っているものの大きさは、グリューエルの方がとんでもなく大きい。このギャップが面白いなと思います。
佐藤 そうですね。宿命のスケール的にはグリューエルの方がはるかに大きい。でも、そういう自分の宿命に対して向き合い、なおかつ縛られるのではなく、その道を踏み越えて進んで行くというところの心意気に関しては、茉莉香の方がデカいんです。グリューエルは「王位継承は関係ない」と言いながらも、やっぱり縛られているところがあるので。最終的には、自分が自分の道を歩むためには、いろいろとやらなきゃいけないと、おそらく思っているでしょう。そういう意味では、茉莉香を先達として見ているからこそ、仰ぎ見ちゃってるんでしょうね。
――茉莉香の方は、グリューエルがどうしてこんなにも自分を慕ってくれているのか、分かってないんでしょうね。
佐藤 間違いなく、分かってないですね。「グリューエルは気が利くね~」っていう、あの一言に集約されていると思います(笑)。
――ですよね(笑)。14話からのエピソードでは、感染症にかかって隔離された弁天丸の乗組員の代わりに、白凰女学院ヨット部の部員たちが弁天丸を操り、海賊業務を行います。終盤で茉莉香の成長した姿を見ると、ただ1人、本物の海賊として部員たちを指揮する、このエピソードが非常に重要なものだったのだと、改めて感じました。原作(3巻)にもあるエピソードを、上手く活かしているな、と。
佐藤 茉莉香は、13話までの段階でも活躍してはいますけど、やっぱり、ミーサ、ケイン、シュニッツァーたち弁天丸クルーのお膳立てや存在があって、初めて成り立っている活躍なんですね。大人たちの座組の中で、決断をしていれば良かったわけです。どの業界でもそうだと思いますが、ベテランの中で仕事をして一角のことができると、「俺ってけっこうやれるんじゃん」と思ったりする。でも、いざ座組が変わると何もできない。今まで見上げていた(役割の)相手を対等にみたり、見下ろしたりしなきゃいけない時、どうやって人を動かして良いのかって、意外と分からないんですよね。自分たちで動いてはくれないから。だから、茉莉香が成長するためには、見下ろす、あるいは同じ目線で、対等の立場で、人を動かしていくってことをやらないといけないってことで、原作のエピソードを使わせて頂きました。
――原作では、ヨット部のメンバーで名前などの細かな設定があるのは、ほんの数名です。アニメではこういったエピソードを描くために、序盤からそれぞれの部員に名前をつけて、キャラ立てもしていたのでしょうか。
佐藤 この作品は半分オリジナルみたいなところもあるんですけど(笑)、僕のオリジナル作品の常で、「生徒A、B、C」ってキャラクターは有りえないんですよ。最初に名前が出て来ちゃうし、どういう子がいるのかなという描写をいれてしまうんで、モブ扱いは出来ない。あと、今回はああいうエンディングにしたいというのが最初からあったので。エンディングのために、個々の履歴を作ったというところもあります。その両方ですね。
――登場キャラクターの顔とプロフィールが次々に映し出されるエンディングのアイデアが、早くから構想にあったのですね。あと、原作に出てこないヨット部員の名前は、どのようにして考えたのでしょうか? 何らかの関連性が?
佐藤 メインの舞台になっている海明星って、かなり植民が進んで(人種や文化的に)チャンポンだと思うんですよ。加藤茉莉香って漢字の名前だけど、髪はピンクだし。チアキ・クリハラは名前はカタカナなのに、ルックスは日本人。だから、(オリジナルキャラの名前も)関連性は無い方が良いなと思って、あえてバラバラにしてます。英語の名前もいるけど、フィンランド風の名前のアスタ・アルハンコとかを混ぜたり。副部長のサーシャ・ステイプルは、セリフは少ないけど、部の中ではまとめ役。だから、束ねちゃう子ということで、ステイプルにしました。
――ああ、ホッチキスの針を「staple」って言いますね!
佐藤 そういう意味付けをしている人と、まったく意味のない人がいますね。小林丸翔子は、名前でウケを取ろうと思ってつけました。セリフが少ないのに、意外と評判良いみたいです(笑)。
――スペースオペラが好きな人には分かるネタですね(笑)。では、いよいよ、22話から続いている「海賊狩り」のエピソードについてのお話を。前回のインタビューでも、クライマックスに大規模な戦闘が描かれることは伺っていたのですが。その相手が、海賊船を狩る最新鋭の戦艦という展開は、どのようなところから生まれたのでしょうか。
佐藤 弁天丸たちのやってる海賊営業って、旅芸人の芸であり、ショーになってるじゃないですか。
――そうですね。船を襲って金品を強奪するのではなく、旅客船などと契約をして、乗客に「海賊に襲われる」というレアな体験をさせてあげるのが、主な業務ですし。
佐藤 その設定が笹本(祐一)さんの原作の一番面白いところではあるんですけど。それに納得できない人は、当然、作品中にもいるだろうな、と。今回の話を人に説明する時、よく例えに挙げているのは。弁天丸たちは、地方プロレスのインディーズ団体である、と。そして、地方営業でそれなりに人気を集めていたら、東京から総合格闘技の団体がやって来て、「お前たちがやってるのは、本当の格闘技じゃない!」と言いだし、何人かのレスラーが手足を折られてしまう。そこで、インディーズのレスラーたちが、東京から来た総合の選手に立ち向かう。そういう話なんですね。
(丸本大輔)

後編に続く