エキレビ、ジブリを掘り下げるSHOWの時間がやってまいりました。
すごいね、金曜ロードSHOWはどこまでジブリるんでしょうか。
と言いつつ自分も楽しいので見ちゃいますが。ラピュタとかトトロは三桁以上見てるのに!

さて、7月13日放映するのは、すっかりジブリの顔になった『となりのトトロ』です。
ジブリ作品としては二作目。色々紆余曲折を経て、難産の末造られた作品です。
実は上映当初は『火垂るの墓』と同時上映でしたが、ジブリ映画としてはワースト2位の興行収入11.7億円。ワースト1位が『ラピュタ』
ちなみに『千と千尋の神隠し』は304億です。ひえー。
しかし今となってはテレビ放映が繰り返されて、日本人誰もが知っているジブリの看板作品。すっかり日本を代表する作品になりました。
再放送時の視聴率は毎回20%。数多くの賞を受賞し、DVDやCDのセールスも半端ではありません。
OPの「さんぽ」とか音楽の教科書に載ってますしね。
上映されたのは1988年。20代ならリアルタイムで映画館で見ていない人多いでしょう。

さて、この『となりのトトロ』といえば、かわいいトトロ達の他に心に焼き付くものがあります。
それは、とてつもなく緻密に描きこまれた背景。ある意味、いろんなモノが読み取れる第三の主役ですよ。

ここで、一つ疑問がわいてきます。
カンタの家は農家ですから、畑と隣接した作りの家としてわかりやすく描かれています。
ところが草壁家、メイとサツキが引っ越してきた家はちょっと作りがおかしい。
なぜか?
実はこの家、病人が死んでしまった家だからです。

別にこれ「本当は怖いジブリ」とかそういうネタじゃないです。宮崎駿監督がはっきり公言している正式な設定です。

そういえば一時期「トトロ死神説」とか「メイは死んでいる説」とか話題になりましたが、そちらは単なるうわさ。
こちらでハッキリ否定されています。
スタジオジブリ - STUDIO GHIBLI - 2007年05月
まず、草壁家の設計を見てみましょう。

お父さんが仕事をしている洋間は、出っ張ってくっついています。
その後ろに、和式家屋があります。さつきとメイが引っ越してきた時に走り回って「おべんじょ!」とかやってたところですね。

洋間はガラス戸にサンルーフと、いかにもハイカラな作りで、明らかに浮いています。洋間から右側に和室の縁側がならんでおり、そこから小さい畑や池のあとがあります。ドカーンとトトロが木を育てて、「夢だけど夢じゃなかった!」ってやるところですね。
加えて、洋間だけ二階があります。和式家屋に二階はありません。二階といっても屋根裏部屋みたいなもので、本当になにもない。
メイが指つっこんで、マックロクロスケ吹き出してきたとこですね。
構造としてはちょっと珍妙です。まるで農家の家と、洋風の家の作りかけをくっつけたかのような。

次にプロローグの引越しのシーン、メイが木の迷路を走り回るシーン、そしてトトロと木を育てるシーン、よく見ていただきたいんです。
この家の周り、実はほとんど何もありません。
畑に隣接しているわけではない、道路からすらも遠い位置に、ぽつーんと立っているんです。
メイが木の迷路を通ったことからもわかるように、孤立した家から少し離れて、木々と土手に不自然に囲まれています。

これは、結核患者の療養のために建てた、離れのある別荘だ、と宮崎駿はインタビューで答えています。
『ロマンアルバムエクストラ となりのトトロ』のインタビューでその話が出ています。
作中で一切その話がされていません。「これは裏設定なんで、言う必要ないので誰にも言わなかった」と監督は述べています。

療養のために建てた離れなら、非常にしっくりまとまるんですよ、草壁家。
洋間と和式家屋をくっつけるのは、昔(宮崎監督曰く1953年らしいです)はよくある家の構造です。とはいえ明らかに異質でファンタジーめいた形状の家になっているのは、この家が作りかけだからなんです。特に洋間のほう。
さつきとメイがトトロと遊んだ庭も、妙にだだっぴろいのに何もないのは、これまた作りかけだったから。だから池も跡地になっています。
道路からも用水路を挟んでかなり離れたところにわざわざ建てられたのも療養のためだと考えるとよくわかります。当然、農業ではなく療養のためなので、畑と隣接する必要も、農具を置く必要もないですしね。
洋間がポコンと飛び出している変な設計になっているのも、あえて日当たりをよくするため。療養には持って来いです。
これがうまい具合にユニークな家の構造を産みました。


もう一つ、宮崎駿は婆ちゃんについても触れています。
「あの婆ちゃんはたぶん、あの家に女中奉公していたんじゃないか。だから、田舎の人にしては物言いがハッキリしているんだとか」
なるほどー。建物の構造だけじゃなくて、人間関係にもつながってくるんですね。
となると、婆ちゃんはここに住んでいた、今は亡き元住人をよく知っていることになります。

中途半端に作りかけの家で死んでしまった、サツキとメイの知らない誰か。
その家に草壁家は、お母さんがよい環境で暮らせるようにするため、住むことになります。
誰かが死んだ家に住む、って考えるとちょっとゾッとするかもしれませんが、このアニメを見ている人なら逆なの、わかりますよね。
自然も、生も死も、全部ひっくるめた世界観の中で彼女たちは生きているんです。もちろん、サツキとメイはこの家の事情なんて知りません。変な家、としか思ってませんし、それでいい。お父さんはもしかしたら知っているかもしれませんね。
そこにトトロという生物がやってくる。トトロは元気なサツキとメイといるのが楽しいから遊ぶ。泣きそうになっているサツキがかわいいから手を貸す。ネコバスが助けてくれる。
トトロはエンディングで、成長したサツキとメイから離れ、大自然と人々を木の上から見守ることになります。

改めて、その裏設定を知った上で映画楽しんでみて下さい。
子供の時には気づかなかった、大人の目線から見たトトロワールドが見えてくるはずです。
サツキとメイの家は現在、モリコロパークで実際に入ることができます(要予約)。
サツキとメイの家|愛・地球博記念公園(モリコロパーク)へようこそ!
これ「なんちゃって」の家じゃなくて、ちゃんと使える構造になってるんですよ。瓦も手焼きですし、洋間二階はススワタリが吹き出しそうな指突っ込める隙間もあります。風呂もちゃーんと沸きます。ガラスもきれいなものではなく、解体された民家からあつめてムラがあるところまで再現されているという凝りよう!
ぼくもここに行って「おべんじょ!」って叫びたいですね。
(たまごまご)